32-46.停戦
ハルちゃんとイロハは容赦なく攻撃をしかけてきた。
今回のノアちゃんは居合モードのようだ。
二人には混ざらず、私の逃げ道を潰すように回り込んでくる。
全員、立ち回りがガチ過ぎる。
本気で私を落としにきているようだ。
ノアちゃんは言わずもがな、ハルちゃんとイロハだって、怒りに我を忘れて動きが単調になるとか、そんな都合の良い状況は期待できない。
ツクヨミに体の制御の大部分を明け渡し、私とヒサメちゃんでイロハの魔術を防ぐのがやっとだ。
今のところツクヨミが上手く立ち回ってくれてはいるけど、ハルちゃんの器用さも厄介だ。
単純な火力もあるのに、幻術や霧化を駆使してこちらの意識を引っ掻き回してくる。
ノアちゃんとハルちゃんは、イロハの補助に徹しているようだ。
そうする事で、経験不足を補っているのだろう。
私達の方もまったく同じだ。
というか、そうせざるを得ないのだ。
ツクヨミを主戦力として、私とヒサメちゃんが補助に回っている。
条件は同じように見えるけど、相手三人の連携が上手すぎる。
まさか、練習でもしていたのだろうか。
いや違う。
この子達は戦いながら成長しているだけだ。
ノアちゃんは特に大きな変化が見て取れる。
ついさっき私と戦い始めた頃のノアちゃんと、今のノアちゃんではまるで別人だ。
自身の力量より遥かに高いステージの戦いを間近で観察しそこに加わった事で、大きな成長を遂げたようだ。
これはまた、クレアとノアちゃんの差が広がったわね。
クレアも何時までも不貞寝してないで、こっちに加わったらいいのに。
私の側に付けば良い経験になる筈よ。
そもそも飛行魔法も使えないクレアでは、ついてこれないだろうけど。
やっぱりクレアにも専属のフィリアスが必要だ。
リリカはあげられないから、新しい娘を早く用意してあげよう。
クレアの事は一旦置いておこう。
今はこの三人をどうにかしなきゃ!
『ツク姉!ギア上げて!』
『承知!』
ツク姉は私に遠慮して先程のようには戦えていない。
これで少しはマシになるだろう。
私とヒサメちゃんで上手く補助しながらなら、ツク姉の本気にもついていけるかしら。
多少無茶でも、今はやるべき時な気がする。
私もいい加減成長するべきなのだ。
この状況はうってつけのはずだ!
『ツク姉!もっと!』
『はい!』
『ヒサメちゃん!
迎撃よりツク姉の補助優先で!
イロハの攻撃は私が防ぐわ!』
『いえっさ~』
私の拙い神威で何処まで防げるかはわからないけど!
そうして、私達は全てを尽くして、怒れるイロハ達に向き合い続けた。
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日が暮れて、夕食の時間になった頃、ようやくイロハとハルちゃんが攻撃の手を止めた。
それを見て、ノアちゃんも刀を納める。
はたして満足してくれたのだろうか。
取り敢えず、もう怒ってはいないようだけど。
「スッキリした?」
「まだまだね」
イロハが即答した。
「一発ビンタでも入れとく?」
もうこの際だ。
それで満足してくれるなら、潔く受け入れよう。
既にあっちこっちボロボロだし。
「嫌よ。やるならグーでいくわ」
「良いけど、それで仲直りしてくれる?」
「冗談よ。もういいわ。
帰りましょう。
あまり待たせては、サナ達に悪いわ」
「そう。
ハルちゃんは?」
「いまから」
「しんそう」
「おせっきょう」
「ノアちゃん」
「構いません。満足するまで付き合ってあげて下さい」
「うん。ありがと」
私はハルちゃんだけを連れて、深層に潜り込んだ。
「それで、ハルちゃん」
「すわる」
「はい」
私はハルちゃんが指し示したベットの上に正座する。
ハルちゃんは私に正面からコアラのように抱きついてきた。
「お説教は?」
「……」
ハルちゃんは何も答えない。
私はハルちゃんの背中に腕を回して抱きしめた。
「そろそろ私の方に戻って来る?
ノアちゃんなら、もう大丈夫だと思うよ?」
本当はまだ少し不安だけど。
ルチアだっているんだしきっと大丈夫。
チーちゃんもハルちゃんの代わりを務めてくれるだろう。
「……」
ハルちゃんは何も答えない。
自分では言い出しづらいのかもしれない。
「ハルちゃんに命令よ。
暫く私の側にいなさい。
最近のハルちゃんは少し様子が変だから、落ち着くまで離れてはダメよ」
「……」
「めいれいなら」
「しかたない」
ハルちゃんは私の胸に顔を埋めたまま、渋々っぽくそう答えた。




