32-44.じゃれ合い
ノアちゃん、ハルちゃん、イロハ、クレア、サナに対して、私は四人の分身を産み出した。
取り敢えずは、一対一で様子を見よう。
私本体はノアちゃんに向かい合う。
ツクヨミに制御を任せた一体はイロハに。
ヒサメちゃんは、ハルちゃんに。
クレアには、ミーシャを。
サナには、チグサを充てがった。
シーちゃんは私の補助だ。
私一人でノアちゃんに勝てるわけもないし。
向こうにもルチアが付いてるんだから、トントンよね。
まあ一応、これでも全員姿と力は私のものだし、文句は無いだろう。
「主旨を理解していませんね?
何故そういう事をするのです?」
ノアちゃんは文句があるようだ。
だからって、大人しくリンチされる謂れはない。
いやまあ、あるのかもだけど。
心当たりも無くはないんだけどさ。
日頃の行い的に。
「しかも私の相手、ツクヨミじゃない。
これじゃあ、ちょっとした運動で終われないわよ?」
イロハからも不満の声が上がった。
「まさかこのような機会を頂けるとは。
アルカ様とセレネには感謝してもしきれません」
反してツクヨミは上機嫌だ。
それはそれとして。
ツク姉、もうちょい隠すとかしようよ。
せめて、私の演技くらいしない?
いやまあ、とっくにバレてるんだけどさ。
それに私の姿と声で、ツク姉の口調だと違和感凄い。
「しんいり」
「つぶす」
「おてやわらか~」
ヒサメちゃん!ダメよ喋っちゃ!
まだ秘密の極秘のトップシークレットなんだから!
あと、ハルちゃんは物騒すぎるわ!
何でそんな機嫌悪いの!?
「早くケリつけて、アルカ様の援護に戻るとしましょう」
「お前、ミーシャだな?
舐めやがって。勝つのは私だ!」
いやまあ、うん。
流石にクレアじゃミーシャには勝てないと思うよ?
ミーシャは女神枠としては弱すぎるけど、腐っても女神だ。
今のクレアよりはずっと強い。
とはいえ、もっとニクスとノルンを見習って欲しい。
ミーシャが本気で頑張れば、イロハ達より強くなれるはずだ。
明日から、ルネルブートキャンプに放り込もうかしら。
ここだけ余り物だから、バランス悪かったかしら。
かと言って、シーちゃんじゃオーバーキルだし。
実はシーちゃんってイロハと同等の戦力なのよね。
というか、一対一の何でもありかつ、私世界の中なら、シーちゃんが勝つんじゃないかしら。
この世界いつの間にやらナノマシンが溢れかえってるし。
ここでなら、エネルギーも無尽蔵に得られるらしい。
私がこの世界の主だからかしら。
「チグサ!久しぶりなのです!
もっと顔見せるのです!
たまには夕食にも出るのです!
ボクが勝ったら約束するのです!」
「ええよ~」
ここだけ平和だ。
今度久しぶりに、初代ハルちゃんズだけ集めようかしら。
サナも寂しがってるみたいだし。
「まあいいです。
行きますよ、アルカ」
ノアちゃんの若干投げやりな宣言で、戦いの火蓋が切られた。
大太刀に爆炎を纏わせて切りかかってきたノアちゃん。
先ずはそっちのスタイルで行くのね。
居合の方が苦手だから、少し助かったわ。
とはいえ、今の私はドラゴンフォームですらない。
代わりにシーちゃんが再現してくれた、クレアの色違い装備だ。
今日は白いスーツに青い鎧だ。
これだと、ラ◯ダーというよりガ◯ダムじゃないかしら。
しかも、シーちゃん自らが制御する補助機能付きだから、よりロボット感が強い。
機能的には、ア◯アン◯ンとジ◯ー◯スみたいな感じだ。
赤くなくてよかったかも。
ともかく、今はオートカウンターも使えない。
せめてチグサとミーシャが戻ってきてくれないとだ。
何も馬鹿正直に人数分に分けなくても、私の所は一対三でも良かったかもしれない。
厄介なイロハとハルちゃんだけ相手をしてもらえば十分だったんだし。
正直クレアとサナは、まだこの戦いに付いてこれないだろう。
というか、シーちゃんは補助じゃなくて自分で戦えば、ノアちゃんも完封できるんじゃないかしら。
いやまあ、流石にそれはダメだろうけど。
本格的に機嫌を損ねる事になるのは間違いなかろう。
私はノアちゃんの大太刀をギリギリどうにか回避しながら、反撃の隙を窺う。
ノアちゃんの大太刀は変幻自在だ。
爆炎で刀身が包まれており、刃を延長したり、突如広がって視界を埋め尽くしたり、様々な手段で私を翻弄してくる。
躱しているだけでやっとだ。
フルモードがあっても、オートカウンターも思考加速も無いんじゃ片手落ちだ。
一応、覚視や基礎的な身体能力の強化はされているので、それでどうにかついて行っているだけだ。
鍵はシーちゃんの補助だろう。
私がシーちゃんのくれる支援を使いこなせるかにかかっている。
フルフェイスのアーマーで覆われた視界には、眼の前の様子だけでなく、様々な数値や線が表示されている。
この通りに動く事で、最適な回避行動等に繋がるようだ。
数値は確率や、最適な力加減を指しているっぽい。
うむむ。
シーちゃんの意図は伝わるけど、指示通りに動く為の反応速度がまるで足りていない。
まさに宝の持ち腐れ。
一体どうしたものか……。
『マスター、肉体の制御を任せて頂けませんか?』
『私世界でも出来るの?』
『一部であれば可能です。
外部からの干渉になりますので、本来の肉体程ではありませんが、ノアの相手として不足はないかと』
どうしよう。お願いしちゃおうかしら。
でも、ノアちゃんはそれで満足するのだろうか。
今日のこれは、戦いそのものが目的なんじゃなくて、単にじゃれ合いたいだけな気もする。
さっき言っていた主旨とは、そういう事なのだろう。
なら、私が相手になるべきだ。
ちゃんと受け止めてあげるべきなんだ。
たぶん。それが正解だと思う。
『シーちゃん』
『承知いたしました。どうぞマスターの御心のままに』
『うん。ごめんね。
ありがとう、シーちゃん』
視界から数字や線が消える。
流石シーちゃん。
全部わかってくれている。
私は思考を投げ出して、頭を空っぽにする。
今は眼の前のノアちゃんに集中しよう。
暫く、二人きりの世界で遊び続けよう。
私も今この時を心から楽しむとしよう。




