6-3.区切り
私はノアちゃんと旅を続けている。
「アルカ!次はどっちに行くのですか?」
ノアちゃんは今日も元気いっぱいだ。
ノアちゃん可愛い。
「う~ん。どうしようかな~
なんだったら、ノアちゃんが決めてもいいよ?」
ノアちゃんはなんだか私を元気付けるかのうように、
私に向かって笑いかけてくれる。
セレネとのお別れは確かに悲しかった。
もう自分でもどうしようも無いほどワンワン泣いてしまった。
それでも、結局毎日会いに行っているし、
そろそろ新しい生活にも慣れてきた。
私はまだ元気が無いのだろうか。
ノアちゃんにはそう見えているのだろうか。
あの町での皆での生活は手放したくないものだった。
ノアちゃんがいて、セレネがいて、
最後にはグリアやクレアも加わった。
今は殆どあの家に帰ってはいない。
毎日寝に帰るつもりだったけど、
逃亡生活の身の上では明かりを付けるわけにもいかない。
真っ暗闇の誰もいない家に帰るのは耐えられない。
結局、皆バラバラになってしまった。
セレネは自分でやりたいことのために、
グリアをも巻き込んで独り立ちしてしまった。
してしまったと言うのは良くない。
私の為に行動してくれているのに。
娘が自分の意思でやりたいことを始めたのに。
私がこんな風にメソメソしているわけにはいかない。
セレネのやりたい事はなんでも応援すると昔決めたのだから。
たとえ、それが私の元を離れる事だったとしても、
私が足を引っ張ってはいけない。
いつまでもこうしてウジウジしているから、
ノアちゃんにも気を使わせているのだろう。
良い加減に切り替えよう。
素直に心からセレネを応援しよう。
私のせいでセレネに苦労をかけてなんて、
罪悪感を感じるのも終わりにしよう。
セレネありがとう。
私の可愛いセレネ。大好き。
「ノアちゃん!今日は良いもの食べに行こう!
今思い出したけのだけど、
この近くに美味しいものを出してくれる宿があったはずよ!」
「・・・良いですね!行きましょう!」
私の提案に少し間を置いて、
ノアちゃんは賛成してくれる。
私の顔をまじまじと見ているようだった。
どうしよう。変な顔をしていたのだろうか。
でも、聞かないでおこう。
もうこれっきりだから。
明日には少し前までのだらしない私に戻るから。
魔王騒ぎで長い事シリアスが続いて、
私の気持ちもナイーブになっていたのだろうから。
明日からは毎日笑って過ごそう。
今日は美味しいものをお腹いっぱい食べて沢山眠ろう。
「どんな料理が出るんですか?」
「えっとね~。秘密!
見てからのお楽しみにしましょう!」
「え~!教えて下さいよ!
気になるじゃないですか!」
「じゃあ、私を捕まえられたら教えてあげる」
「わかりました!」
言うなりノアちゃんは私に向かって飛びついてくる。
私は自分の足元に転移門を出して、
上空に転移する。
「それはズルいです!
降りてきて下さい!アルカ!」
「良いけど、そうしたらノアちゃんの負けよ~」
「大人げないですよ!!」
「だってもうノアちゃんの方がずっと速いんだもの。
こうでもしないと勝負にはならないわ」
「わかりました。
そっちがその気ならこっちにも考えがあります!」
そういうなり、ノアちゃんは私から少し離れて、
再び私に向かって駆け出す。
助走を付けて飛び上がってきたノアちゃんを
今度は避けずに空中で抱きしめる。
「これは私が捕まえたんじゃないかしら?」
「負けを認めないつもりですか?」
「そんな事はしないわ。ちゃんと教えてあげる。
けれど、ノアちゃんなんだかクレアに似てきたわね」
「嬉しいですけど、なんだかその言い方は引っかかりますね。」
「クレアからノアちゃんを取り戻さなきゃ!」
私はそのままさらに空高く登っていき雲の上に出る。
もう夕方だ。
「綺麗」
ノアちゃんが思わずそう呟く。
オレンジ色に染まった地平線と、
雲海が重なって、とってもきれいな景色だ。
そうして、私達はしばらくその景色に見入っていた。
完全に日が落ちるまで。
「あ!」
「どうしましたか?」
「早く町に行かないと!」
「そうですよ!
美味しいもの食べさせてくれるんじゃなかったんですか!」
「大丈夫。このまま飛んでいけばすぐよ!」
「あんまり速く飛ばないでくださいね?」
「ノアちゃんはまだ飛ぶの怖いの?」
「怖くは無いですが・・・」
「じゃあ!それ!」
「って!きゃあーーーーー!!!」
私は全速力で町に向かう。
地面に降りた所で、
いつかのようにノアちゃんに威嚇されて、
食事を始めるまで口をきいてもらえなかった。
「アルカは本当にしょうがないですね!」
そんな事を言いながらも、
ノアちゃんはなんだか嬉しそうだ。
私が元気になっただけで、
こんなにも喜んでくれているんだ。
いっぱい気を使わせちゃったよね。
もう大丈夫。
ありがとうノアちゃん。大好き。
ノアちゃん可愛い。