32-29.顔合わせ
リオシア王国潜入任務の話が落ち着いた後、再びヒサメちゃんに来てもらうことにした。
今日はクレアにも同席してもらうことにした。
迎えに行ったリリカに連れられて、二足歩行のサメヌイグルミが現れた。
サメヌイグルミは私を目にするなり、一目散に駆け寄ってきた。
私はサメヌイグルミを抱きとめる。
相変わらずのふわふわっぷりだ。
「やっほ~
アルカさま~」
「やっほ~
ヒサメっち~」
「「えへへ~」」
可愛い。
「イチャイチャしすぎよ!」
ヒサメちゃんを抱き寄せて、庇うように間に割って入るリリカ。
可愛い。
二人まとめて抱きしめたい衝動を堪え、どうにか席に座り直す。
ヒサメちゃんはリリカに寄り添うようにして、私とクレアの正面にあるソファに腰を下ろした。
少し距離があるけど仕方ない。
今日の所は、少しクレアとも話をしてもらいたいからだ。
「調子はどう?
ヒサメちゃん」
「ぜっこちょ~」
「ふふ。それは良かったわ。
それで、こっちはクレアよ。
チハちゃんズに入ると、何かと関わる機会も出てくるから、仲良くしてあげてね」
「うん~」
「クレア?」
「……」
あれ?何か固まってる。
「クレア?お~い!
クレアからも何か無いの~?」
「あっああ。
えっと、なんだって?」
「クレアも、ヒサメちゃんと仲良くしてあげてね。
とっても可愛い子だけど、外の世界は不慣れだから、注意してあげて」
「おっおう。
そうか」
「クレア?
どうしたの?
一目惚れでもしちゃった?」
「はぁ!?
なっなわけねえだろ!
お前じゃあるまいし!」
「ヒサメちゃん可愛いわよね。
それともサメの方?
欲しいなら、クレアの分も用意してもらおうか?」
「こちらに。マスター」
すっと畳まれたきぐるみパジャマを差し出してきたシーちゃん。
「ありがと!シーちゃん!」
私はシーちゃんからそれを受け取り、そのままクレアの膝に置いた。
今晩寝る時にでも着てくれないかしら。
今のクレアもきっと似合うと思うのだけど。
そうだ!シーちゃんも着てくれないかな!
いっそ、標準服にしない?
「すぐに手配します」
「いや、あの冗談よ?」
気に入ってるけどさ!可愛いけどさ!
でもやっぱりヒサメちゃんだけに許されるべきだと思うの!
あ!でも!クレアはノーカンよ!
ニクス世界の住人だし良いわよね!
「ならば、こちらのモデルはいかがでしょう」
そう言って、白猫のきぐるみパジャマに早着替えするシーちゃん。
可愛い。
私はシーちゃんを抱き寄せて、膝の上に乗せる。
うん。触り心地も最高ね。
でもごめん、シーちゃん。
服装の強制は止めておきましょう。
とっても惜しいけど、各自の個性を尊重したいの。
「ごろにゃ~」
ノリノリね。シーちゃん。
まさかそこまで猫になりきるとは。
取り敢えず承知してくれたようだ。
私はシーちゃんを膝に乗せて撫でながら、ヒサメちゃんに視線を移す。
「たべる~?」
「ヒサメちゃんを?
シーちゃんが?」
「さかな~
ねこ~」
自分とシーちゃんを順に指し示すヒサメちゃん。
ヒサメちゃん、サメの事意外とちゃんと知っていたのね。
そうよ。サメは魚類よ。
流石に猫がサメを食べるかは知らないけど。
「ふふ。シーちゃんは食べないけど、代わりに私が美味しく頂いちゃおうかな~」
「きゃ~」
嬉しそう。
「アルカ様」
「おい、アルカ」
リリカとクレアが非難の目を向けてきた。
ごめんって、冗談だって。
というか、クレア復活したのね。
しかも、さり気なく膝の上に乗せられたサメきぐるみに手を乗せて、感触を楽しんでいる。
どうやらすっかり気に入ったようだ。
「それ、後で着て見せてね?」
「……誰が着るか」
「サメきらい~?」
「うっ……そんなんじゃねえよ」
ヒサメちゃんに問われてタジタジになるクレア。
なんか思ってたのと違う。
ヒサメちゃんの方が怖がって距離を置くかと思ったら、クレアの方がしどろもどろになっている。
逆に、ヒサメちゃんはクレアを怖がっている様子は無い。
普通に質問も投げかけてきた。
昨日のイロハの処置のお陰だろうか。
それとも、何か通じ合うものでもあったのだろうか。
まるで子猫に見つめられた不良みたいだ。
子猫は私の膝の上だけどね!
うん。ごめん、なんでもない。
「リリカも何か着てみる?
リリカは、イルカなんてどうかしら」
「着ないわ!」
交渉の余地など無さそうな、断言ぷりだ。
残念。
「リリちゃん~」
「仕方ないわね!」
チョロい。
シーちゃん、やっぱイルカじゃなくてペンギンでお願い
「イエス、マスター」




