32-28.作戦
お昼になり、手早く昼食を済ませた私、セフィ姉、クレアはへパス爺さんの店に向かった。
「また来たよ、へパス爺ちゃん」
セフィ姉は私と腕を組みながら、爺さんに気安く挨拶した。
いくら何でも馴染むの早くない?
まだこの店一回しか連れてきた事ないよ?
「おう。セフィじゃったな。
前回来た時から一週間も経っとらんじゃろうに。
もうこやつに誑かされおったんか」
「うん。今日は指輪お願いしに来たよ」
そっか。
アリア達が学園に入学する前日だものね。
こっちだと、ほんの数日前の話だ。
相変わらず、私には半月くらい前の感覚だけど。
「やれやれ。
しかもまた知らん娘っ子連れとるのう」
「え?ああ。
この子はクレアよ。
可愛くなったでしょ?」
「……お前さんはまったく」
ふふ。お爺ちゃんったら。
クレアに気付かないなんて、勘が鈍ったんじゃない?
「久しぶりだな、爺さん」
「そうじゃのう。
五年ぶりくらいじゃったか?」
「そんなとこだ」
「もうちょい豆に来んか。
剣はどうした?
持ってきとらんのか?」
「ああ。わりぃ。
今日はこいつに付き合わされただけだ」
「お前さんがのう。
変われば変わるもんじゃ」
何かこっちの二人も仲良しっぽい。
というか、クレアの剣って爺さん作だったの?
どうりで頑丈なわけだ。
その辺のなまくらなら、とっくに折れていただろう。
「クレアと爺さんって、魔王事件以前も付き合いあったの?」
「そんな事より、とっとと指輪頼んで帰るぞ。
お前、まだやることあんだろ?」
そんなあからさまに誤魔化すような事なの?
別に今更恥ずかしがるような間柄でも無いでしょうに。
まあ、言いたくないなら無理やり暴いたりはしないけどさ。
「まあ、良いわ。
爺さん、何時ものお願いね」
何故かまた呆れられたけど、いつも通り指輪の作成依頼を受けてくれたへパス爺さん。
近々セフィ姉の杖や、ノルン達の指輪も出来るそうだ。
セフィ姉とのデートの時にでも取りに来る事にしよう。
爺さんの店を後にした私達は、真っ直ぐに家に帰った。
セフィ姉をエリスに返して、私はクレアと共に私世界に潜り込む。
先ずはチハちゃんズの所に行こう。
またミヤコに相談したい事もあるけど、ヒサメちゃんの事も気になっている。
それにリリカとリオシア王国の件でも相談しておきたい。
場合によっては、明日にでも潜入を始めてもらおう。
アリアの件もあるけど、先ずは取り敢えずの試験運用だ。
問題があるかどうかも、実際に試してみて気づく事も多いだろう。
「今更だけど、私世界で見たものは家族にも内緒よ?
もちろん、ノアちゃんにだって言ってはダメよ」
「言わねえよ」
「ふふ。これでクレアも共犯者ね」
「勝手に巻き込みやがって」
「恨むなら、昨日のあなたを恨みなさい♪」
どうせ暇してたんだろうし、折角なら手伝ってくれないかしら。
「そうだわ!
ついでだし、潜入任務とか興味ない?」
「ねえよ。やるわけねえだろ。
どう考えても向いてねえだろうが」
「メインはリリカよ。
クレアには補助を頼みたいのよ。
人間社会の常識に詳しい協力者が欲しかったの。
どうせ暇してるんだし、試しにやってみない?」
「今の私の役目はアルカの見張りだ。
いきなり突き放そうとすんじゃねえよ」
「あれぇ?あれぇ?
もしかして、私と離れたくないのかなぁ~?」
「うるせ。そんなんじゃねえよ」
「その割には頬が赤いわよ?」
「気の所為だ」
あれ?
何か今日のクレア、いつもより煽り耐性付いてない?
本当に、ノアちゃんはどんな魔法を使ったのかしら。
「アルカ様!来たわね!」
私を見つけたリリカが駆け寄ってきた。
「うん。リリカに用事があったの。
今少し時間良いかしら?」
「もちろんよ!」
どうやら大体の状況は把握しているらしい。
流石リリカ。
私はリリカを連れて、昨日も利用したサロンに移動した。
少し腰を据えてゆっくり話をするとしよう。
色々頼みたい事があるし。
「とりあえず、今晩同行してくれるかしら?
クレアの実家に挨拶に行きたいの」
「構わないわ。
クレアに同化して、力を隠蔽しておけばいいのよね」
「そうよ。いつも通り話が早くて助かるわ。
リオシア王国の件も把握してるわよね。
そっちはどう?
可能なら、明日からでもお願いしたいのだけど」
私の質問を受けたリリカは、クレアに視線を移した。
「クレア、力を貸してくれないかしら!
私一人では、まだ不安が残るわ!」
さっきの話も聞いていたのね。
それでも敢えてもう一度、自分からも頼んでくれたらしい。
「勘弁してくれ……」
ありゃりゃ。
「なら仕方ないわね!
手探りで頑張ってみるわ!」
特段気にした様子もないリリカ。
一応、ダメ元で試してくれただけのようだ。
「ありがとう、リリカ。
無理はしなくて良いからね。
それにわからない事があったら、すぐに私に聞いてね。
もちろん、クレアでも良いわ。
どう?遠隔で知恵を貸してあげるくらいは良いでしょ?」
「……わぁったよ」
「ふふ。クレアもありがとう」
「決まりね!
潜入の手段は私の自由にして良いのかしら!」
「もちろん良いわよ。
というか、もう具体案まで用意してあるの?」
「ええ!概要を説明するわね!」
それから潜入任務の計画をプレゼンし始めたリリカ。
シーちゃんとも協力して、イラスト付きのスライドショーまで用意されていた。
一体いつの間に作ったのかしら。
内容も問題無さそうだ。
凄いわね。もうリリカ一人で良いんじゃないかしら。
感心するばかりの私と違い、クレアは事細かく質問していった。
その様子を見る限り、クレアも案外潜入任務を無難にこなせそうだ。
やっぱり協力してくれないかしら。
クレアを協力させる作戦もリリカに立ててもらおうかな。




