32-23.距離感
「イロハ、満足した?」
「くっ!……いったい何が足りないの!」
「イロハには容赦の無さが足りませんね。
何だかんだと、小春先輩を気遣って遠慮していますから」
「アルカ様!次は私めと!」
「ツクヨミは容赦なそうで怖いなぁ」
「そんな!!ここまで来てご無体なぁ!!!」
「あらあら。可哀想に。
けど、ツクヨミお婆ちゃんは遠慮を知らないものね」
「セシル、あまり老師を虐めないで下さい」
「というか何で全員いるのよ!!
気遣いなさいよ!二人きりにしなさいよ!」
私達は結局深層に潜ってきていた。
部屋に戻って、イロハとヤチヨ、どちらと先に潜るか相談していたところに、ツクヨミが割り込んできた。
その次はセシルが混ざり、セシルはコマリを巻き込んだ。
その結果、ハルちゃんズ追加メンバーの全員が同行する事になったのだった。
流石に、全員バラバラに潜ってはいられないので仕方ないよね。
そんな事したら、また一週間コースだし。
うん。仕方ない。
決して、私がハーレムを味わいたかったからじゃない。
決して。
まあ、流石にチーちゃんには手を出せなかったけど。
チーちゃんとそういう関係になりたければ、ハルちゃんの許可が必要だ。
今のところ、許してくれる気は無いようだ。
これも時間の問題だとは思うけど。
「アルカ!もう一度よ!」
「ばっちこーい」
「ツクヨミ!協力なさい!」
「喜んで!」
「え?いや、それはちょっとズルくない?」
「なら私も参加させてもらおうかしら」
「セシルまで!?
一対三はズルいって!」
「何を甘いこと言ってるんです?
一対五に決まってるじゃないですか、小春先輩」
「え?私も?」
コマリは聞いていなかったようだ。
事前の打ち合わせが足りてないみたいよ、ヤチヨ。
「まあ、別に良いけど」
「ダメよ!コマリだけは私の側について!」
「え、嫌だけど」
「そんなぁ!?」
そのまま本当に五人がかりで襲いかかってきたフィリアス達。
私は成す術無く蹂躙され尽くした。
セシルとコマリも意外と容赦ないわね……。
途中、何故か私と一緒に虐められ始めたイロハ。
可哀想に。精根尽き果ててぐったりしてる。
「何でアルカ様はまだ平気そうなの?」
「鍛え方が違うもの」
コマリちゃんも意外とテクニシャンだったよ?
実は鍛えてあったの?
「修業をサボって、そんなとこばかり鍛えていたのね」
「セシル、何でまた手を這わせてるの?」
「このままじゃ、なんだか負けたみたいで悔しいじゃない」
「もう終わりよ。時間切れ。
これ以上はノアちゃんに怒られちゃうから」
「まあまあ、そうおっしゃらずに」
「ツク姉はもうホントに触らないで」
「うふふ。そんなによろしゅうございましたか」
「このドSめ」
「逆もいけます」
「また今度仕返しさせてもらうわ」
「楽しみです」
「小春先輩。私もまだ物足りません。
他の娘達を帰して、二人きりで甘えさせて下さい」
「くっ!……なんて魅力的な提案!!」
「ズルいわ、ヤチヨ」
セシルは私から意識をそらし、抜け駆けしたヤチヨに絡みついた。
「そうだよ。
せめて私も残して欲しいな?
アルカ様」
その隙にコマリんが可愛くおねだりしてきた。
うん。良いよ。残しちゃう。
コマリとヤチヨのコンビなら安心だ。
取り敢えず、ツク姉とセシルは帰してしまいましょう。
この二人だけキリが無さそうだし。
そう決断し、問答無用で二人をニクス世界に送り返した。
これで残ったのは、イロハ、コマリ、ヤチヨだけだ。
イロハはまだ隣で転がっている。
どうやら不貞寝してるっぽい。
「二人とも。イロハが落ち着くまでだからね」
「「はい!」」
私はイロハを抱きしめて座り、両脇にコマリとヤチヨを侍らせる。
イロハの頭を撫でながら、二人と話しをしたり、血を飲ませたりして、平和的にイチャイチャしながら過ごした。
やっぱり、三人位がちょうど良いわね。
五人いっぺんに相手するのは色々厳しい。
「アルカ」
「イロハ。起きたのね。
調子はどう?」
「……最悪よ」
「ならもう少しこうしていましょうね」
「……うん」
私にしっかりとしがみつき直して、顔を隠すイロハ。
珍しく、素直に甘えたい気分なのかしら。
可愛い。
まあ、でも。
それだけ虐めすぎてしまったのだろう。
一応反省しておこう。
自業自得な感も無くはないけど。
皆が何だかんだイロハの事を慕っているのは間違いない。
少しばかり調子に乗ってしまうのも致し方なしだと思う。
その辺り、イロハはあまり自覚していない。
むしろ負い目でも感じているのか、格好つけているだけなのかは定かではないが、皆から距離を置いている節がある。
私の推測と先程実際に聞いた時の反応から察するに、たぶん後者が正解だとは思うけど。
とにかく、イロハは皆からの好意に無自覚だ。
だからこんな目に合うのだ。
そこんとこ、これからしっかり教えていくとしよう。
イロハが心から、フィリアスの皆と仲良くなれるように。
イロハには決して私だけじゃないのだと教えられるように。
コマリとヤチヨも同じ意見なのかもしれない。
二人は、私にしがみつくイロハに腕を回して、私ごとイロハを横から抱きしめた。
「……なによ」
「いえ。こうするべきだと思ったので」
「イロハ様。さっきはごめんね。
少し燥ぎすぎちゃった」
「……気を付けなさい」
「うん!」
「イロハも可愛い孫娘には弱いのですね」
「イロハは誰に対しても優しいのよ。
ただ少し、素直じゃないだけなの」
「……そんなんじゃないわ」
「素直じゃないのは間違いありませんね」
「アルカ、この子可愛くないわ」
「そう?
ヤチヨはとっても可愛いと思うけど」
「アルカは趣味が悪いのよ」
「というか見境が無いだけでは?」
「手当たり次第だもんね」
「こっちに矛先が……」




