6-1.旅立ち
結局、私は旅立つ事にした。
まあそれによって犯罪者扱いされても、
また別の名前で一から冒険者として始めても良い。
どうせアルカという名前も偽名なのだから。
そんな事をうっかりノアちゃんとセレネの前で話してしまいブチギレられた。
「あなたの本当の名前がなんであろうと、
私達にとってアルカはアルカです!
そんな簡単に捨てるなんて言わないで下さい!」
また泣かせてしまった。
泣きながら怒られるととっても心が痛い。
思わずこっちも泣きそうになる。
ごめん。ノアちゃん。
そうだよね皆が呼んでくれるこの名前を捨てるなんてどうかしていた。
もう今さら元の名前に未練は無いと思っていたけど、
そっちだって家族がつけて呼んでくれた大事な名前だ。
捨てて良いものでは無かったのに。
私は二度も同じ間違いを犯すところだった。
いつの間にか私も泣きながらノアちゃんに抱きついていた。
そうして何度も謝る私をノアちゃんが抱きしめて頭を撫でてくれる。
「結局旅には出るんですね?」
「そうね。けど安心して?
毎晩この家に寝に帰って来るから。
転移門もあるしね」
そう言うと、ノアちゃんは再びブチギレた。
今度は泣いていない。混じりっけなしの怒りの感情だ。
「まさか一人で行くつもりですか!
ふざけたこと言うのも良い加減にしてください!!!!」
「でも、ノアちゃんは町の人達とも仲が良いし、
クレアとだってまだまだ訓練したいだろうし・・・・」
「アルカ!!!!」
その後ノアちゃんに正座させられて長々と説教をされた後、
旅立つ時は連れて行くことを約束させられた。
この世界にも正座で説教の文化あるの?
ああ、ノアちゃんは忍者屋敷っぽいところに住んでたんだったか。
驚いたことに、セレネは付いていかないと言い出した。
やりたいことがあると言う。
代わりにセレネが居た教会に連れて行って欲しいと言う。
渋るセレネから詳しく話を聞き出す(ノアちゃんが)と、
聖女として教会に影響力を及ぼせるようになって、
教会の中から魔王や勇者、聖女の事を広めたいのだと言う。
そうして、私にかかった冤罪を晴らす為に尽力したいと言ってくれた。
既にグリアにも協力を取り付けていて、
一緒に行くつもりだったらしい。
聖女としての力を得てからセレネは精神的にも益々強くなった。
私とノアちゃんがどんなに説得しても考えを変えることは無かった。
毎日セレネの元に転移して会いに行こう。
もう私はノアちゃんともセレネとも離れる事なんて出来ない。
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クレアはいつの間にかどこかに行ってしまった。
ノアちゃんすら行先は聞いていないらしい。
まあ、またそのうちひょっこり顔を出すだろう。
いつか再会した時にクレアが満足出来る程に強くなっておこう。
それがきっと彼女への一番の恩返しになるはずだ。
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私はドワーフ爺さんの店を訪れ、
ノアちゃんとセレネとグリアと共にこの町を離れる事になったと伝えた。
「ちょっと待っとれ」
爺さんはそう言うと一度裏に引っ込んだ後、
あの杖を持って現れる。
「持っていけ」
「いらないって言ったわよ?」
「そいつが物足りなくなるまで強くなってこい
そうしたらもっと凄いのを作ってやる」
「・・・ありがとう」
また泣きそうになる。
最近泣いてばっかだ。
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最後にギルドを訪れた。
いつもの会議室で今日はエイミーも一緒だ。
「本当にすまない!
お前たちがどれだけ頑張ってきたのかわかっていながら、
力が足りずこんな結果になってしまった。
謝って済むことではないが、
何としても、お前達がこの町でまた過ごせるように尽力してみせる。
どうかもう少し時間をくれ」
「頭を上げて二人共!
ギルドが悪いわけじゃないわ!
あなた達には、なおのこと責任なんてないわよ!」
「どの道、私は強くなる為に何かしたかったの。
修行の旅だとでも思っておくから気にする必要はないのよ」
「ああ。ありがとう。
それでもこの件はなんとかしてみせる。
時間はかかるだろうが待っていてくれ」
「ええ。信じてるわ。
転移もあるし頻繁に家にも帰って来るから。
何か必要なことがあったら、家に手紙でも入れておいて」
「ああ。わかった。」
「アルカ、ノアちゃん、セレネちゃんどうか気を付けて。
この国を出れば一先ずは安全だとは思うけど、
体にも気をつけてね」
「ありがとうエイミー。
またそのうち会いに来るから。
旅のお土産でも楽しみにしてて」
「もう。アルカったら」
大丈夫だよエイミーお姉ちゃん。
私達は強いんだから!
こうして、私達は町を旅立った。
最初に教会に転移して、
セレネとグリアを置いていく。
グリアにはセレネを頼むと何度も念押ししてしまった。
私の心配ぶりを見て、セレネ君なら大丈夫さとグリアは笑い飛ばす。
「安心したまえ、セレネ君は驚くほどに強くなった。
力だけでなく心も。それに私も付いているのだ。
あっという間に教会の中枢を支配して見せようじゃあないか」
と心強い言葉も貰った。
あんまりエグい手は使わないでね?
別の心配が湧いてきそうになるのをぐっと堪える。
毎日会えるとわかっていても、
セレネと別れる際は結局泣いてしまい、
なかなかその場を動けなかった。
「アルカ。大丈夫。心配ないよ。
アルカのお陰で私は強くなれたんだよ?
そんなアルカの泣き顔なんて見たくないんだよ?
だから笑ってお別れしよう。
そもそも毎日会いに来てくれるんでしょ?」
セレネに泣き止むまで慰められてしまった。
もうどっちが保護者なのかわからない。
セレネ優しい。
そして、次は国境まで転移した。
ここからは私とノアちゃんだけだ。
しばらくは具体的な目的も無いから転移は使わずに歩いて旅をすることにした。
「アルカ!行きますよ!」
ノアちゃんは今日も元気いっぱいだ。
ノアちゃん可愛い。
「5-13」の誤字報告くださった方、ありがとうございました!
いつも読んで頂けて大変嬉しく思います!