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5-15.顛末

「そうか。結局使わなかったのか」



私はドワーフ爺さんの店に来ていた。

約束通り杖を帰しに来たのだ。


「勇者も聖女も魔王も強すぎだわ。

私は自分も戦えると思い上がってた。

もうその杖も必要ないわ。

杖の力に頼っていないで自分の力を磨く事にする」



「そうだな。それが良い」

「けどな、お前さんは出来ることを精一杯頑張っただけじゃ。

思い上がっていたなんて自虐的になる必要はない」


「ありがとう。それと・・・」


「何じゃ?」


「やっぱなんでもないわ。

また来るわね」


「おう。いつでも来い。

待っとるよ」






私はドワーフ爺さんの店を後にしてギルドに向かう。

もう皆はギルドに集まっているだろう。


魔王討伐については既に報告しているが、

今日は改めて詳細の報告の為に時間を取ってもらっている。



少し頭を冷やしたかったので、

転移せずに歩いて向かう。


皆を待たせてしまうけど、

今の顔を皆に見せたくはない。



少しゆっくりめに歩いてギルドにつく頃には、

私の心も落ち着いていつもの顔が出来ていると自信がでてきた。




いつもの会議室に入っていく。


「皆遅くなってごめんね~」


私が会議室に入っていくと、ノアちゃんとセレネが抱きついてくる。


「どうしたの二人共!?

もう!そんなに寂しかったの?」



「アルカ。少し顔でも洗ってこい」


何も答えない二人に変わって、ギルド長がそんな事を言う。


そのままノアちゃんとセレネに押し出されるように会議室を追い出される。

そうして二人に引っ張られてギルドの裏の井戸に連れてこられ、

二人がかりで顔を洗われる。



なんだろうそんなに酷い顔をしていたのだろうか。


聞くのが怖くて私は黙ってされるがままにする。



「よし!行きましょうアルカ!」


ようやく満足したのか、

ノアちゃんの合図で三人で歩き出す。




そうして、ようやく集まった私達は会議室で

魔王騒動について情報を共有していく。



「皆、ご苦労だった。

遂には世界まで救ってしまうとは。

お前達には感謝してもしきれない」


ギルド長は私達に向かって頭を下げる。




「まあ、これで私達も落ち着いて生活できるのだから。

久々にしばらくはのんびり過ごすわ」


「・・・今回ばかりは止められんな。

この数ヶ月のお前たちの働きをそれなりに見てきた立場としては」


「それで、魔王の件はさっき話した通りだけど、

領主と兵士の件はなんとかなりそう?」


「ああ。その件だがな・・・」


「まさか何も考えて無かったわけじゃないでしょうね!」


「そんなわけがあるか!

まあ、思考停止したい気持ちも無いではないが」




またいつかのように、ギルド長は言いづらそうに

たっぷりと間を開けてから続きを話す。



「結論から言うとだな。

まだ、奴らを国に帰すわけにはいかない」


「なんでよ?もうあんなの面倒見てられないわよ?」


「良いか、一つ一つ整理して伝えるが冷静に聞いてくれよ?」


「もったいぶってないでさっさと言いなさいよ!」


「まず、今回魔王復活に関して出た被害は何があるかわかるか?」


「?枢機卿が起こした事件くらいよね?

教会の上層部皆殺し事件と、聖女候補の拉致があるんじゃないかしら」


「そう。言い方は悪いが、それだけなんだ。

しかも聖女候補の拉致については関連性も被害者も未だに不明だ。

実質、教会上層部の件だけだ。

しかもそれはあくまでもエルドス枢機卿が起こした事件だ。

魔王じゃない」



「何が言いたいの?」



「つまりこういう事だろう?

魔王は実質的になんの被害も出していない。

すなわち、国は魔王の危険性を知らない。

今回の件は一冒険者が勝手に騒いで、

勝手に倒して終わっただけの事件だと」



見かねたグリアがまとめる。

なるほど!流石グリエモン!わかりやすい!




「って!何よそれ!

私達がどれだけ頑張ったと!」


「わかってる!そんな事は十分わかっている!

だから落ち着けアルカ。冷静に聞いてくれと言っただろう!」


「・・・そうね。続きを聞きましょう」



「今回、魔王が行動を起こす前に解決した事で、

結果的にかなりマズイことになっている。

良いか!まだキレるなよアルカ!

魔王という存在自体、この国では殆ど知られていない。

魔王の情報を代々伝えてきたという教会の上層部も全滅だ。」


「魔王復活に備える事についてはその根拠が、

アルカ自身の証言によるものでしか無い。

教会の事件が大きかった事と、

アルカが最高ランクの冒険者として信用があったことから、

アルカの言い分を正しいものとして魔王復活は問題視されていた。

しかし結局その後、エルドス枢機卿も魔王も事件らしい事件を起こさなかった」


「つまり、今度はこの国がアルカの敵となった。

なぜなら、魔王復活で騒がせておきながら、

何事もなく今回の件が片付いてしまったからだ。」


「魔王対策で動いていた者たちは笑い者になった。

結局何も無かったではないかと。

国を騒がせた責任をどう取るのかと。

ならば、最初に言い出したアルカに取らせようと」


「この国の上層部はそう考えたわけだ」



「・・・はぁ!?」


「アルカの気持ちは良くわかる。俺も同じ気持ちだ。

けどな、為政者いせいしゃってのは、貴族っていうのはそういうもんだ。

正しいか間違っているかよりも面子めんつを優先する。

ルスケア領主にも散々出し抜かれて来たのだからわかるだろ」



「つまり、ここで更に私を責める口実を与えるわけにはいかないから、

領主一行は開放できないと言うのね?」



「その通りだ。しばらくはなんとかギルドがお前を庇えるだろう。

しかし時間の問題となる可能性は高い。

お前たちはもはやこの国にいるべきではないかもしれない」



「・・・状況はわかったわ。

言いにくい事をありがとう。

そうね。ギルドがどれだけ頑張ろうが、

この国に住んでいる限り安全じゃないかもね。」


「けれど、今国を出れば逃げたと判断されるわよ?

すなわち罪を認めたのだと。そう取られかねないわよ?」



「そうだな。そうなるだろう」



ギルド長は私達の前だというのに、

頭を抱えて考え込んでしまう。



たしかに、これはかなりまずい状況だ。


誰が私達を捕らえられるかとかそういう問題でもない。

国を救ったらその国が敵になったなんて、

日本で見た創作物にもいくらかあった事だ。

まさか自分がその立場になるとは夢にも思っていなかったけど。



「今のところ国に目を付けられているのは私だけなのよね?」


「そうだな。他のメンバーには害が及ばない事をギルドとして約束しよう」



「なら、しばらくは国を出るわ。

また落ち着いた頃にでも戻ってくるわよ」

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