32-10.自信
私が自室のベットにクレアを寝かせていると、ノアちゃんが直接部屋の中に転移してきた。
「あ、おかえり、ノアちゃん。
ごめんね、驚かせて」
「まったくです!
クレアさんはまだ目覚めないのですか?」
「うん。傷は残って無いから安心して」
「それで?
どうして、こんな強引な事をしたのです?」
「そうしないと、クレアがいなくなってしまうと思ったの」
「一体何があったんです?」
私は今朝の出来事から順に、クレアの事を説明していく。
「そうですか……。
すみません。この件は私にも落ち度がありましたね」
「それは仕方がないわ。
ノアちゃんにだってやる事があるのだもの。
どちらかと言うと、クレア自身の問題よ。
クレアは子供じゃないのだもの。
本気で不満なら、もっと早く自分の意思でこの地を離れるべきだったのよ」
「自己責任だと?
それをアルカが言うのは違うと思います」
「そうね」
「とはいえ、アルカの言い分もわからないではないですが」
「……くそ。言いたい放題言いやがって」
「クレア!目が覚めたのね!」
「クレアさん。
正直この状況は、私も自業自得だと思います。
アルカの事は良く知っていたでしょう?
時間の問題だとわかっていたはずです。
だというのに、弱った姿を見せて焚き付けたのです。
そんな好機アルカが我慢できるわけないじゃないですか。
隙を見せたクレアさんが悪いのです。
諦めて受け入れて下さい」
ノアちゃん?
そこまで言わなくても……。
「……ノア、お前はそれで良いのかよ」
「ええ。歓迎します。クレアさん。
これからは私達の家族として仲良くして下さい」
「……おう」
「クレア!受け入れてくれるのね!」
「……約束は約束だ。好きにしろ」
「う~ん?
その態度は何か違うのよね。
クレア、自棄になってる?」
「……」
チベットスナギツネみたいなジト目を向けてくるクレア。
「アルカは一体どの口で言ってるんです?
本気で喜んで貰えるとでも思っていたんですか?」
ノアちゃんまで呆れ果てている。
ごめんなさい……。
「いえ、その。
強引に引き込んだ方がクレアの為になると思って……。
私としてはクレアに元気になって欲しくて、焚き付けただけのつもりだったというか……」
「アルカのやった事は、挑発ではなく脅迫です」
「……ごめんなさい」
「ああ!もう!くそ!
何でお前が落ち込むんだよ!」
「あの……その……。
クレアがどうしても嫌だったら言って欲しいの。
そうしたら契約は解くから。
もう余計な事はしないから。
私はクレアに嫌われたくなんてないの。
ごめんなさい。やり過ぎました……」
「謝るな!そういう事言ってんじゃねえんだよ!!」
「!?」
「もういい。
頼む。少し時間をくれ。
考えて答えを出す。
お前の要求はもうわかった。
気を遣わせて悪かったな」
そのまま私のベットで、布団に包まって背中を向けるクレア。
「アルカ。行きますよ」
「うん……」
私はノアちゃんに手を引かれるようにして部屋を出る。
そのままノアちゃんの部屋に移動した。
「アルカ。今度はお説教です」
「はい……」
「先ずは……なんですかあの態度は」
「えっと……」
「先程のクレアさんに対する態度です。
何故最後まで自信を持って貫き通せないのですか?
その程度の覚悟で人の人生を引っ掻き回したのですか?
弱ってる人に、黙って付いて来いくらいの事が言えないのですか?」
「ごめんなさい……」
「クレアさんに気を遣わせてどうするのです?
アルカがクレアさんを元気付けたかったのでは無いのですか?
そのために、私達に巻き込むのが有効だと考えたのではないのですか?
どうして、その気持を自分で疑ってしまうのです?」
「……はい」
「はい、じゃありません。
もっとしっかりして下さい。
私達に安心して頼らせて下さい。
アルカはそうなりたいのでしょう?」
「うん……」
「なら先ずは、自分の考えを信じて下さい。
私に何を言われても、クレアさんがどんな態度を取ろうとも、アルカは自分の决めたことを貫き通して下さい。
いちいち、反対される度に不安にならないで下さい」
「うん」
「アルカの想いは正しいものです。
けれど、手段は褒められたものではありません。
私はアルカを責めます。
どうしてそんな事をしたのかと、問い詰めます。
ですが、その度に謝っていてはいけないのです。
アルカはアルカが正しいと思った事をしているのです。
それを私に伝えて下さい。
ただそれだけで良いのです。
私に叱られるのではなく、私と話し合ってほしいのです」
「うん」
「私からクレアさんの件ではそれだけです。
後はセレネ達と話し合って下さい」
「うん。わかった」
「セフィさんの件はどうなっているのです?」
「セフィ姉?
昨晩、沢山話しあったくらいだけど」
「もう後は指輪を買いに行くくらいですか?
それ以外に問題はありませんか?」
「……ううん。少し気になる事があるの」
「今は内容まで聞きませんよ。
それで、何故クレアさんにまで手を出したのです?
どんな事情があろうとも、一度手を付けた相手を中途半端にしたまま、どうして次の人に手を出してしまうのです?」
「……セフィ姉の件は時間がかかるの。
多分、クレアの事を後回しにしたら間に合わなかったと思う」
「そうですか。
なら話は以上です。
セフィさんの件、何時でも相談には乗りますので、話す気があるのなら聞かせて下さい」
「なら一つだけ。
知っていたら正直に教えて欲しいのだけど」
「セフィさんがアルカをどう思っているかですか?」
「うん。そう。
流石ノアちゃんね」
「いえ。
セフィさんはアルカに好意的です」
「……それだけ?」
「はい」
「愛してはいない?」
「そこまでハッキリとは言えませんね。
とはいえ、レヴィに向けるものとは別物でしょう」
「ノアちゃん達に向けるものとは?」
「昨晩はともかく、今朝の時点で随分と変わっていました。
アルカへ向ける感情が私達へのものより、ずっと大きいものである事は間違いありません」
「そう」
「私としては、十分な範疇だと思いますよ?
そもそも、レヴィに向けるものと同じ感情を欲するのは諦めるべきかと」
「まあ、うん。わかってはいるんだけどね」
自分でも、セフィ姉にそういう話をしたくらいだし。
「なら何が気になっているのです?」
「セフィ姉の前の旦那さんとはどうなのかなって」
「流石にそれはわかりませんね。
視ようとも思えませんし」
「そうよね。変な事を聞いてごめんなさい」
「あまり気にしすぎない方が良いのでは?
私達には時間があるのです。
セフィさん側に何か気になる事があるのなら、いつか自分から話してくれるはずです」
「うん」
「大丈夫です。安心して下さい。
セフィさんはアルカの下を離れたりはしません。
既に十分過ぎる程に魅了されています」
「そんな魔術使ってないよ?」
「魔術など必要ありません。
アルカにはそれだけの魅力があるのですから」
「最近また叱られてばかりで、自信が無くなってきたわ」
「ダメですよ。自信を持って下さい。
私達に安心して寄りかからせて下さい」
「うん。頑張る」
「大丈夫ですよ。
私は何があろうとも、アルカを愛し続けます」
「私もよ。ノアちゃん」
「さて、話はこれで終わりですね。
セレネとカノンからのお説教はまだ残っていますけど」
「許してくれるかしら」
「二日連続ですからね。
今回は長引くかもしれません」
「うぐぅ……」
「冗談です。
クレアさんの事ですから、時間の問題だったと理解してくれるはずです」
「セフィ姉にも謝っておいた方が良いかな」
「そうですね。
クレアさんが答えを出したら、すぐに報告に行きましょう」
「ノアちゃんも来てくれる?」
「一人で行って下さい。
私は仕事に戻ります」
「そんなぁ~」




