32-8.決着
クレアは三人の攻撃に翻弄されながらも、段々と順応し始めていた。
シーちゃんモデルの装備も、何かしらの知覚補助機能があるのかもしれない。
私とは違ってアルカネットまでは繋がってないだろうから、オートカウンターや思考加速とかは使えないだろうけど。
いつかアルカネットの貸出も出来るようになるのかしら。
もし使うなら、契約は必要よね。
クレアと契約するなら、クレアのフィリアスも必要になるのだろう。
ミヤコに相談してもう一人用立ててもらいましょう。
「余所見を!するなぁぁ!!!」
ブチギレたリリカが全力の一撃を放ってきた。
またも無防備に受けた私の体は、少しだけ衝撃を受けてバランスを崩しかける。
やるわね、リリカ。
今のは良い攻撃だったわ。
それとごめん、リリカ。
流石に雑に相手し過ぎたわね。
私は魔力放出で無理やり体勢を戻し、大技の反動で動きの鈍ったリリカに向かって手を伸ばす。
既にリリカの後ろに回り込んでいたシオンが、リリカの体を引っ張った事で、私の手はリリカを掴みそこねた。
私は更に魔力を放出し、リリカとシオンに半ば体当たりするようにして距離を詰めた。
そのまま二人纏めて抱きしめるように、両腕で抱え込む。
「つっか~まえ~た~!」
「ああ!もう!!なんなのよ!!!」
またも雄叫びを上げるリリカ。
よっぽど悔しかったのかもしれない。
「アルカ様!もう一回よ!!」
「良いけど、その前に少し見学しましょう」
「何よ!そんなに向こうが気になるの!?」
「多分、リリカ達にも勉強になると思うわ。
アメリは、何か考えがあるみたいだし」
「え!?」
私はリリカとシオンを両脇に抱えたまま、クレア達の戦いに視線を向ける。
クレアの、というかシーちゃんの産み出した装備の耐久力は、流石に私のもの程頑丈なわけではないようだ。
その代わり、再生力が半端ない。
良い攻撃を受けると、稀に鎧が欠けたり、スーツが破れたりはするものの、すぐさま元の状態に復元されている。
この辺りの違いは仕方がない。
私の装備は私自身の莫大な魔力と神力を編み込んで作られたものだ。
私が制御しきれない程高密度のエネルギーを可視化させて纏わせているだけとも言える。
オートカウンターは装備ではなく、あくまでも私自身に付与されている機能だ。
元々ドラゴンフォームは、オートカウンターの無茶な動きに体が付いて行けるようにする為の、保護と強化の役割があるのだろう。
対してシーちゃん製の装備は、クレア自身の力とは関係なく、ナノマシンを使って外側を覆っているだけだ。
まあ、視界補助や、放出機能はあるだろうけど。
逆に言うと、装着者の力の量に左右されないという利点も存在する。
チハちゃんズとの契約更新も済んでいるので、既にそれぞれが勇者であるクレア以上に大きな力を持っている。
今のクレアが、そんなチハちゃんズの面々と真っ向から戦えているのは、シーちゃん装備のお陰なのは間違いない。
アメリは、そんなクレアに対して様々な種類の攻撃を加えながら観察を続けている。
アメリは魔術師だ。
それも、一撃の威力よりテクニカルな魔術を好む。
拘束、幻影、地形操作等を使って相手の体勢を崩し、そこに手数の多い魔術の連撃を叩き込む。
かといって、高火力の魔術が使えないわけでもない。
カルラとフェブリに前衛を任せて、魔力を溜めた威力の高い魔術を放つ事もある。
クレアもアメリが危険と判断しているようだ。
アメリに強い意識を向けているのが伝わってくる。
とはいえ、眼の前のカルラとフェブリの動きすら追いきれていない現状では、距離を取ったアメリに攻撃を届かせる術はない。
それでも少しずつ、クレアの被弾は少なくなっていく。
クレアは元々パフォーマンスを十全に発揮するには時間がかかるタイプだ。
それに加えて、この状況への慣れもあるだろう。
相手の戦い方もそうだし、装備の使い方についてもだ。
どうやら、カルラとフェブリはクレアの装備を突破し切る攻撃手段を持っていないようだ。
少しだけ、二人の動きにも焦りのようなものが見える。
私達が観戦している事に気付いたのかもしれない。
妙なプレッシャーを与えてしまったかしら。
「カルラ!フェブリ!
こっちの事は気にしないで好きにやりなさい!」
「「うん!」」
元気コンビから良い返事が返ってきた。
一応あっちにも声をかけておこう。
「アメリも!
多少無茶しても大丈夫よ!
シーちゃんの装備を信じなさい!」
「はい!」
アメリは思慮深い子だ。
何やら遠慮していた可能性も無くはない。
『あてずっぽ』
良いじゃん。別に。
アメリが何か狙ってる感じなのは事実だし。
『きけん』
『アメリ』
『つよい』
え?本当に?
シーちゃん装備貫けちゃう?
『かのう』
やらかした?
『……』
『だいじょうぶ』
『たぶん』
いまいち自信が無いようだ。
流石のハルちゃんでも、アメリの狙いまでは読み切れていないらしい。
アメリは、カルラとフェブリにクレアを完全に任せて、なにやら魔術の準備に入った。
二人にクレアを任せられるのは、このタイミングが最後だと踏んだようだ。
これ以上続ければ、二人を突破して自分の所まで迫ってくるかもしれない。
ならば今のうちに。
そう判断したのではなかろうか。
「あれなら大丈夫そうね」
アメリが選んだのは、火と氷の二種の魔術だった。
まだ構築中とはいえ、どちらもそう大きな威力にはなるまい。
『ちがう!』
え!?
ハルちゃんの叫び声が聞こえた瞬間、アメリの下から火球が放たれた。
その火球は一瞬でクレアの足元に着弾し、大爆発を引き起こす。
どうやら相当圧縮されていたようで、火球の見た目と規模が見合っていない。
我ながら、私の目は節穴過ぎる……。
圧縮魔術は自分でも使ってたのに……。
それにしても、まさかアメリがこんな力技に出るとは……。
正直、先入観に囚われていた。
普段のアメリなら、もっと搦手でくるものとばかり。
というか、そんな事して、カルラとフェブリは無事なの!?
慌てて二人の気配を確認すると、既にアメリの近くまで撤退していた。
予め念話で打ち合わせて、直前で転移でもしたのだろう。
一安心しつつクレアの方に視線を移すと、燃え盛る業火の中から無傷のクレアが飛び出してくるところだった。
流石、シーちゃん製の装備だ。
あの大爆発でも、装着者を無事に守り抜いたようだ。
爆発から飛び出してきたクレアの眼前には、氷結弾が迫っていた。
今度は氷の圧縮魔術のようだ。
着弾した瞬間、瞬時に冷気が広がり、あらゆるものを氷らせていく。
クレアの装備ごと凍らせ、未だ燃え広がる背後の爆炎すらも巻き込んだ。
炎に包まれていた訓練場は、一瞬で静かな氷の世界に様変わりした。
そこにはポツンと凍りついたラ◯ダー装備が立っている。
周囲と一緒に凍りついたそのラ◯ダー装備が静かに倒れ込むと、容易に砕け散り、跡形もなく粉々になったのだった。
「いや~危なかったわね~」
私は腕の中にいる、裸のクレアに笑いかける。
「……余計なことしやがって……へっくし!」
シーちゃん、新しい服をお願い。




