32-3.挑戦者
「遅いぞ!アルカ!」
「今日はクレアも来てたのね。
生憎だけど、ノアちゃんはいつも通り出かけてるわよ」
「用があるのはお前だ!
なんか妙なことになってるらしいじゃねえか!
ほら!さっそくやろうぜ!」
なるほど。
ノアちゃんにでも聞いたのかしら。
いや、ノアちゃんも大して知らないはずだし、違うわよね。
そうすると、情報を流した犯人は誰かしら。
見ていたのは、アリア達くらいだったはずだけど。
案外、ルネルにでも聞いたの?
まあ、誰でも良いんだけども。
情報が一日遅れなのは、また未開拓地を彷徨い歩いてでもいたからだろう。
こいつ、ちゃんとお風呂には入ってるのかしら。
少し相手をして満足させたら、放り込んでおくとしよう。
なんなら、一緒に入ってゆっくりしたいところだけど、残念ながら今日も余裕が無い。
クレアの肢体を隅々まで磨くのは、また次回のお楽しみだ。
やっぱり一緒に入ろうかしら。
『小春ママ』
ごめんなさい。
取り敢えず、チグサを呼ばなきゃだわ。
『もういんで~』
『ありがとう、チグサ。
早速例のやつ行ってみましょうか』
『がってん!』
結局、まだ新バージョンの開発は進んでいない。
以前と全く同じ、黒い鱗が私の体を包み込む。
「ハハ!まるで悪役みてぇじゃねえか!」
何やら嬉しそうなクレア。
意外とこういうのも好きなのかしら。
「何処からでもかかってきなさい」
私は棒立ちでクレアと向かい合う。
折角だし、オートカウンターの検証に専念させてもらおう。
クレアなら、受け身くらいはとってくれるだろうし。
クレアくらいの実力の人を相手にする場合の加減も知っておきたい。
『ええと思うよ~』
情報収集よろしく、チグサ。
「はっ!舐められたもんだなぁ!
相変わらずの悪い癖だぜ!」
言葉とは裏腹に、嬉しそうに切りかかってくるクレア。
私の腕は、クレアの剣をその鱗で完全に防ぎきった。
そしてそのまま振り抜き、クレアの体が吹き飛んでいく。
……。
あれ?
追撃が来ないわね。
まさか、一撃でダウンしちゃったのかしら。
いや、そんなまさか。
クレアよりツクヨミの方が強いだろうけど、流石にそこまで一方的なものでも無いと思うのだけど。
私が様子を見に行こうかと思ったところで、ようやくクレアが戻ってきた。
なんか、全力全開って感じで突っ込んでくる。
すぐに戻ってこなかったのは、力を溜めていたからなのかもしれない。
このまま勢いで押し切る気なのかしら。
念の為、神威も使っておいた方がいいかな。
ミーシャ呼んどこうかしら。
『問題あらへんで。
もううち使えるし』
え!?そうなの!?
ならミーシャもう要らないじゃん!
『酷すぎます!』
ミーシャが私の中に出現した。
まさかそんな事まで出来るようになっていたとは。
もうミーシャもフィリアスと殆ど変わらないわね。
「余所見してんじゃねぇ!!」
真っ直ぐ突っ込んで真っ直ぐ切りかかってきたクレア。
クレアも相変わらずね。
再び私の腕がクレアに裏拳をかまして吹き飛ばした。
この感じだと、今日中にクレアがオートカウンターを突破する事はなさそうね。
力の差にだいぶ開きがあるようだ。
暫く似たような事を繰り返し、十分な情報収集を済ませた後、クレアに中断を呼びかける。
「クレア~!
そろそろ終わりにしようよ~!
また今度、相手になるからさ~!」
「終われるわけ!ねぇ!だろぉ!!」
あいも変わらず切りかかっては吹き飛ばされるクレア。
最初の状況から全く変化が無い。
いつものクレアなら、すぐに何かしらの突破口を見出すのに。
「ほらぁ!もう無理だってばぁ~!」
「うるせぇ!!」
どうしよう。
どうにかして無力化するべきかしら。
このままオートカウンターに任せておくと、何時まで経っても終わらない気がする。
『非殺傷設定厳しゅうしすぎたかもなぁ~』
良いのよ、それで。
安全は過剰なくらいで構わないわ。
『せやなぁ~』
チグサはお悩み中だ。
クレアとの試合で、色々と調整案でも思いついたのかもしれない。
「クレア~!
次で最後よ~!」
「ああ!次こそ決めてやる!!」
全力全開で神力を解放するクレア。
何故か私とは離れた位置で、剣を上段に振り上げた。
クレアの剣を起点に、見る見るうちに巨大な神力の剣が産み出されていく。
あのバカ……。
こんな場所であんなものを出すなんて。
私達の家ごと真っ二つにでもするつもりかしら。
方向的に、ガッツリ当たりそう。
私は少し飛び上がり、空中で受け止める姿勢を作る。
本当は角度を変えたいところだけど、あの様子だと向きを変えるのは難しそうだ。
クレアはその程度の余裕すらかなぐり捨てて、本気の一撃を放とうとしている。
「はぁぁあぁああああ!!!!!」
雄叫びを上げながら神力の大剣を振り下ろすクレア。
私は両手で剣を挟むようにして、真っ向から受け止めた。
くっ!思ってたよりずっと重い!
やるわね!クレア!
私は疑似フルモードの出力を上げて、クレアの剣を挟む手に力を込める。
その直後、まるでガラスの割れるような音を響かせながら、クレアの大剣は粉々に砕け散った。




