31-53.家族
「アルカ、緊張してるの?」
「もう大丈夫」
「そっか。
みんなはどうしたの?」
「セレネに任せたわ。
セフィ姉と一緒にいるべきだって、背中を押してくれたの」
「そうなの?
てっきり、早速私を落としに来たのかと思ったよ」
「勿論その為でもあるわ。
まだまだ、セフィ姉との話は足りていないし」
「アルカ自身の目的が他にもあるの?」
「ある。
私がセフィ姉と一緒にいたかったから。
何だか全然物足りなくて」
「そうなの?
でも丁度良かったよ。
私、眠れそうになかったから」
「そうなの?
って、そっか。
セフィ姉は深層で十分に寝ていたのだものね」
「アルカもでしょ?」
「私の場合だけちょっと違うの」
「そっか。
精神体なんだっけ?」
「そうよ。
だから、向こうで何をしてもこっちの肉体には影響しないのよ」
「上手くイメージできそうにないなぁ」
「ふふ。そうね。
でも、セフィ姉ならきっとすぐに理解出来るわ」
「買いかぶり過ぎだよ。
別に、私は特別優秀なわけじゃないんだよ?」
「ううん。間違いないわ。
今はセフィ姉と一緒に訓練してるんだもの。
それくらいの事は私にだってわかるわ」
「まだたったの二日だけだよ?」
「十分でしょ?」
「そうかなぁ~」
「ふふ。
なんで惚けるの?
セフィ姉、いつもは自信満々なのに」
「アルカどころか、ノアにだって勝てる気がしないからね。
多少は謙虚にもなるってものだよ」
「……ショックだった?」
「う~ん。
どうかな。
ショック、とはちょっと違うかも。
まだ飲み込みきれてないのかな?」
「そっか。
まあ、そうよね。
ここは普通の世界とは違いすぎるもの」
「ほんとだよぉ。
みんな強い子ばかりだし、未開拓地なのに信じられない程平和だし。
あげく、別の世界だとか、神様だとか、見たことも聞いたこともないものばかりだし」
「でも、その全ての上にルネルがいるのよ?
そう考えたら、少しは親近感が湧いてこない?」
「ふふ!
なにそれ、あはは!」
何やらツボに入ったようだ。
セフィ姉は暫く笑い続けた。
私はセフィ姉が落ち着くのを待ってから、再び話しかけた。
「セフィ姉。
セフィ姉はこれからどうしたい?
いつかまた、旅に出たい?
それとも、エルフの国に帰りたい?
いつまでもここで暮らしていたい?」
「暫くはここにいるよ。
とりあえず、百年くらいは」
「ここで何をしたい?
セフィ姉が欲しい物は何でも用意してあげる。
だから、何でも遠慮なく言ってほしいの」
「どうしたの?
まさか、それが口説き文句?」
「違うわ。そんなわけないじゃない。
今はただ、この場所に馴染んでほしいだけよ。
その為に出来る事をしたいだけ。
先ずはそこからね。
口説くのはその後よ。
セフィ姉が、レヴィが、それに他の皆が、好きなだけ我儘を言えるような環境を作りたいの」
「……何かあったの?」
「さっき、ハルちゃんと喧嘩しちゃったの」
「そっか……私のせい?」
「ううん。私のせい」
「ハーレムの主として、甲斐性を見せたいって事?」
「まさにそれよ。
セフィ姉の立場でズバリ言い当てられるって事は、それだけ私が不甲斐ないって事なのね……」
「あはは~」
笑って誤魔化したわね?
「でもめげている暇なんて無いの。
だから、セフィ姉も協力してね。
先ずは、自分の望みを口にしてくれるだけでも良いから」
「うん。そういう事なら遠慮なく」
「早速なにかあるの?
良いわ!聞きましょう!」
「もう少しこっちきて」
そう言って、私の頭を抱え込むように抱きしめてくれるセフィ姉。
セフィ姉、やっぱりいい匂い。
「これがしたいこと?」
「うん。そうだよ。
安心して、アルカ。
私はアルカのお姉ちゃんだからね。
アルカが困っているなら、こうして抱きしめてあげる。
慰めて、話を聞いてあげる。
いい作戦は思いつけないかもしれないけど、私も一緒に考えてあげる」
「……セフィ姉には伴侶として側にいてほしいの」
「そこが気になるの?
どっちでも良いじゃん。
私達は家族になったんだから」
「ダメよ。
私が望むのは、姉じゃなくてお嫁さんよ。
お姉ちゃんはもう既に一人いるもの」
「私じゃ足りない?」
「うん。足りない。
セフィ姉にとってのレヴィと同じよ。
私の一番のお姉ちゃんは深雪お姉ちゃんだけよ」
「そっか」
「だから、私とセフィ姉だけの関係を築きましょう。
お姉ちゃんにも、レヴィにも負けないくらい、強い気持ちを育みましょう」
「ふふ。難しい注文だね」
「そうでもないわ。
だって、私はセフィ姉の事が大好きだもの」
「そっか」
「セフィ姉は言ってくれないの?」
「信じてくれないんでしょ?」
「うん。だからいっぱい言って。
私が信じられるまでぶつけてきて」
「甲斐性を見せたかったんじゃなかったの?」
「明日から頑張る」
「ふふ。それはダメだよ。
今すぐ頑張ってみて。
私の望みは自分で見つけてみて」
「なら、」
私は子供の姿に変身した。




