31-50.約束
「アルカ!アルカ!」
「う~ん……zzz」
「アルカ!起きて!アルカ!」
「ふにゅ」
「ふにゅじゃないよ!
起きて!アルカ!」
「うん?あれ?セフィ姉?
おはよう、どうしたの?」
目を覚ますと、セフィ姉の顔がドアップで映り込んできた。
私達は二人で同じベットに寝ていた。
「どうしたのじゃないよ!
昨晩どうなったの!?
何で私達裸で寝てるの!?
あと!ここはどこなの!?」
「ああ。うん。そっか。
えっと、ここが深層よ」
「まさか!?」
「ごちそうさまでした」
「覚えてないよ!?」
「冗談だもの」
「アルカ!!」
「セフィ姉でも、流石に慌てるのね。
大丈夫。何も無かったわ」
「ならなんで!」
「裸なのは……つい出来心で」
「アルカ!!」
「大丈夫、大丈夫。
手は出してないわ。
突然眠ちゃったセフィ姉をベットに寝かせる時に、服を脱がせただけだから」
「なんで脱がせる必要が有ったの!?」
「だから、出来心だって。
少しむしゃくしゃして、イタズラしただけよ。
起きたら驚くと思って」
「そりゃ驚くよ!
とりあえず服返してよ!
あとアルカも何か着て!」
「別にそれくらい良いじゃない。
一緒にお風呂入った事だってあるんだし。
そもそも、私達は婚約者なんだし」
「そういう問題じゃないよ!」
「そんな事より落ち着いて、セフィ姉。
まだ問題は解決してないのよ。
少し話をしたいわ」
私はすぐ隣にいるセフィ姉を抱き寄せ魔法で腕の中に招き寄せる。
魔法の効力で、セフィ姉の思考が一瞬止まり、少し落ち着きを取り戻した。
「落ち着いた?
話をしてもいい?」
「……アルカ、慣れ過ぎじゃない?」
裸で抱き合ってること?
「セフィ姉、まだわかって無いの?
セフィ姉以外の二十一人ともこうしてきたのよ?」
「……ルネルの警告をもっとちゃんと聞いておくべきだったのかも」
「後悔してるの?
残念だけど、もう逃さないわよ?」
「別にそういうわけじゃないけど……」
「けど?」
「なんでもない!
それより、話って何?
早く済ませて、服返して」
「セフィ姉はやっぱり好感度が足りていない気がするわ。
もう少しじっくり進めるべきだったかしら」
「アルカ」
「ごめんごめん。
それで、先ずは今の状況を説明するわね。
とはいえ、どこから話すべきかしら。
セフィ姉はどこまで覚えてる?
セレネ達が発情して襲いかかってきた所は?」
「え?なにそれ知らない」
「まあ、何か壊れたように私に夢中になってたものね。
子供の姿の私を抱きしめて、こね回してたのは?」
「それは……覚えてる……うっすらと」
「本当に?うっすら?」
「……だいたい」
「照れてるの?」
「いいから、先進めて」
「セフィ姉可愛い」
「アルカ」
「はいはい。
それでね、セレネ、シーちゃん、アリス、ハルちゃんの四人が乱痴気騒ぎを始めたから、私はセフィ姉を連れて深層に潜り込んだの。
とりあえず、一番話しのわかりそうなセフィ姉を落ち着かせようと思ってね」
「うん」
「けど、セフィ姉も中々落ち着いてくれなかったのよ。
深層に来た事にも気付かず、私をこねくり回してたの。
それで、暫く好きにさせてたんだけど、途中で急に糸が切れたみたいに眠ちゃってね」
「……うん」
「起こしても全然起きないから、少し寝かせてから話をしようと思ってベットに寝かせたの。
助けて欲しかったのに」
「……それがむしゃくしゃした理由?」
「うん。そうよ。
ただの仕返しのつもりでイタズラしただけよ。
納得してくれた?」
「それで脱がした意味がわからないんだけど」
「そう?
定番のイタズラかと思ってたんだけど」
「アルカ達がおかしいだけでしょ」
「エルフって裸を見せちゃいけないとかって決まりでもあるの?」
「別にそんなんじゃないけどさ。
私はまだここのノリに慣れてないんだから、加減してよ」
「自分で、早く手を出して、みたいな事言ってたじゃない」
「もっと軽いのだと思ってたんだってば」
「婚約者なのに?」
「それは……ごめん。
私が悪かったのかも」
「その勘違いの理由って、女同士だから?」
「……かもしれない」
「抵抗ある?」
「……わからない」
「無理はしなくて良いわ。
けど、少しずつ慣れていってね。
何度も言ったと思うけど、もう手放すつもりはないからね」
「……うん」
「ほら、元気だして、セフィ姉。
そんなのらしくないわよ。
いつもみたいに、笑っていて欲しいわ」
「……うん。切り替える」
「ふふ。ありがとう、セフィ姉。
大好きよ」
私はセフィ姉の顔を引き寄せて、キスをする。
本来の私がセフィ姉とキスをするのはこれが初めてだ。
先の二回は、何れも分身体で、かつ子供モードだったし。
「やっぱり手慣れてる」
「セフィ姉のキスはまだまだね。
あんまり経験が無いのかしら」
「仕方ないでしょ」
「ふふ。責めてるんじゃないわ。
むしろ嬉しいのよ。
これから私好みに染めてあげるからね」
「……お手柔らかに」
「は~い」
「それより、この後はどうするの?」
「そうよ、それよ!
正直困ってるのよ。
ここから出ても、向こうの状況は何も変わってないわ。
出た瞬間、発情したセレネ達に襲われるわよ」
「深層は時間の流れが違うんだっけ?」
「そうなの。
ここでどれだけ過ごしても、向こうでは一瞬なのよ。
とりあえず、シーちゃんとアリスとハルちゃんを連れてまた来るしかないかしら。
セレネはノアちゃんとの約束があるから、私以外と深層に来るわけにもいかないし……」
でも、アリスはセレネと来たがるだろうなぁ。
私で我慢してくれないかしら。
「先ずは三人を落ち着かせて、その後でセレネと二人で潜り直すしか無いわよね」
「乱用はダメって言われてたよね?」
「まあ、そうなんだけど」
「セレネの約束を守らせる為だからって、アルカが約束を破るの?」
「それは……この際だから仕方ないわよ」
「ダメだよ。
約束は大切なものなんだから」
「じゃあ、セフィ姉は名案あるの?」
「セレネを元の世界に送り返して、あの部屋で残りの三人の相手をしたら?」
「それ絶対、セレネが荒れるわ」
「なら先にセレネだけ深層に連れ込んで、満足させてから帰せば良いじゃん」
「まあ、そうね。
それでいきましょう」
「アルカの案と大した差じゃないのかもしれないけど、少しでも約束を守るように努力してね」
少なくとも、一度は深層に潜る回数が減る。
手っ取り早いからと、安易に頼ってはダメだったのだ。
「うん。ありがとう、セフィ姉。
気をつけるわ」
「じゃあ、そろそろ戻ろうか。
あまり長居しない方が良いんでしょ?」
「……」
「アルカ?」
私はセフィ姉に覆いかぶさった。
もう一つ、ハッキリさせないといけない事がある。
「セフィ姉。大好き。愛してる。
これからもずっと側に居てくれる?」
「……うん。いるよ」
「それは義務?それとも好意?」
「好意だよ」
「本当に?信じて良いの?」
「もちろん。
どうして不安になちゃったの?」
セフィ姉が腕を持ち上げて、私を引き寄せて抱きしめた。
「セフィ姉がそれを聞くの?
……やっぱり、違うわ。
セフィ姉のそれは、まだ好意じゃない。
少なくとも、私の望んでるものじゃない」
「……」
「私頑張るから。
頑張って、セフィ姉の事ちゃんと落とすから。
だから黙って逃げたりしないでね。
レヴィの為だとしても、居なくなったりしたら嫌よ?」
「ごめん。
それは約束できないよ。
私が一番に守るべきはレヴィだから。
レヴィにとって良くないと思ったら、それは選べない」
「うん。それはわかってる。
別にレヴィより優先してくれって話じゃないわ。
その前に私にチャンスを頂戴ってだけ。
少なくとも、そう思ってもらえるようになりたい。
お互いに一緒にいるための努力ができるようになりたい。
ただそれだけよ」
「……よくわからないよ」
「もしかしたら道を違える事もあるかもしれない。
けど、その前に目一杯話し合いましょう。
私が変えられる事なら何でも変えるわ。
セフィ姉が変えられる事なら何でも変えて欲しい。
そうやって、一緒に居続ける努力をしましょう。
そうありたいと思えるくらい、セフィ姉が私に惚れ込んでくれる事を願ってるわ」
「……うん」
「約束してくれる?
いつか、心の底から私のお嫁さんになってくれるって」
「もうそのつもりなんだけど。
アルカは信じてくれないの?」
「うん。信じてあげないわ。
セフィ姉からは、そこまでの強い気持ちを感じないもの」
セフィ姉の私に対する愛情は少しだけ軽い気がする。
まるで、将来結婚しようと言う幼子を可愛がっているだけのようだ。
本当に、ただ可愛いものを可愛がっているようにしか見えない。
少なくとも、レヴィに向ける愛情とはまるで違う。
同じものを向けてもらえる事があり得ないのはわかってる。
ただ、同じくらいか、少し劣る程度の熱量は欲しい。
いやまあ、ある意味熱量はあったんだけども。
残念ながら、あの暴走状態でもちょっと違う。
ただ猫可愛がりしてただけだ。
とにかく私は、今のセフィ姉がお嫁さんになってくれたのだとは思えないのだ。
「そっか……」
「だからセフィ姉も努力してね。
私が信じられるくらい、強い愛を示して見せてね。
約束してくれる?」
「……うん。約束する」
「ふふ。ありがとう、セフィ姉。
大好きよ」
私はまた、セフィ姉にキスをした。




