31-44.飲み会
「来たわね、アルカ~」
早くもセレネが寛いでいる。
バーにはボックス席も用意されており、こちらのソファも最高の座り心地だ。
今日はカウンターではなく、こっちにしたのね。
シーちゃんとアリスも呼んで侍らせようかしら。
「ふふ。その様子なら気に入って貰えたようね。
私もここお気に入りなのよ~」
「まったく。
なんでもっと早く教えないのよ。
毎日でも入り浸りたいくらいよ」
「だからでしょう。
セレネに教えては、出てこれなくなってしまいます」
「ルビィもいるのに、そんなわけないじゃない」
「ごめんね。
何だかんだと忙しかったから」
「それよ!
アルカ、一体何をやっているの?
少しくらいは話しなさいよ。
話せる事だけで良いから」
「え~と、強いて言うなら戦力強化?」
「曖昧な言い方ね。
例のドラゴンになったって話しも関係あるの?」
「うん。そうよ。
あの力はまだ試験中ってところね。
使いこなす為の訓練も必要だし」
「完成したら私の相手もしてください」
「もちろん!」
「私も!私も!」
「セフィ姉は……。
もう少し様子を見ましょう」
「なんでよ!?」
「あれ、加減が難しいのよ。
フィリアスと契約しているならともかく、生身のセフィ姉じゃあ、無事で済むとは限らないわ」
「ぶーぶー」
「そのレベルで使いこなせていないのですか?」
「まあ、うん。
オートカウンターの調整がまだ上手く行ってないのよね」
「なんですそれ?」
「えっと、自動迎撃機能?
私の反射以上の速度で勝手に攻撃してくれるの。
素のツクヨミが突破しきれてなかったから、ノアちゃんにも通用すると思うよ。
ただ、ルネルには何の反応も示してくれなかったけど」
あれ本当に意味がわからない。
毎度毎度、全部無力化してステゴロに持ち込んでくるの勘弁して欲しい。
深雪お姉ちゃんみたいに、周囲の魔力や神力を強制的に無力化しているわけでもないし、本当になんなのかしら。
「そもそも、まだツクヨミの強さを知りません。
早急に練習試合を組んで下さい」
「う~ん……。
最初はそのつもりだったんだけどね……。
もう少し待ってもらえる?
ツクヨミは少しやり過ぎるところがあるから、今はまだ不安なの」
「その口ぶりでは、やはり私よりツクヨミの方が強いのですね」
「うん、まあ。
なんたって、条件次第ではイロハより強いからね」
「イロハより……。
という事は、自動迎撃の方も私では反応すら出来ない可能性がありますね」
「そうね。
けどノアちゃんなら、きっとすぐに慣れるわ」
「頑張ります」
「私も~」
「はいはい。セフィ姉もきっとすぐに追いつくわ。
セフィ姉もとっても努力家だものね」
「むっふふ~」
「またいつの間にか仲良くなってるし。
まだセフィさんが来てから半月も経ってないわよね?」
「カノンよりはマシね」
「セレネ!」
「セレネも懲りないわね。
この話題で一番分が悪いのはあなたじゃない。
カノンも、セレネに比べたら保ったほうよ」
「何せ顔すら禄に見ていない状況でですからね」
「ノア!あなた!その口ぶりはまさか!?」
「ええ。ルチアに頼んでアルカの記憶から引っ張り出してもらいました。
小さいセレネも可愛かったです」
「そういうの止めなさいよ!
私とアルカだけの思い出なのよ!」
「言う割にはアルカが覚えてなくない?」
「やめて、カノン。ノアちゃんも。
それ以上セレネをイジメるのはダメよ」
「アルカが言い出したんじゃないですか。
まったく。都合が悪くなったからって」
「と・に・か・く!
セレネをイジメて良いのは私だけよ!」
「それを言うなら、私にだって権利があります」
「どっちも無いわよ!
この話はお終い!」
「セレネも勝手ですね。
自分が不利になるとすぐそれです」
「「セレネだし」」
「ぷっふふ」
「あんたら!いい加減にしなさいよ!」
私はセレネを抱き寄せる。
「もう~!やっぱりセレネは可愛いわね!!」
「ズルいです!
私もです!」
私はノアちゃんも抱き寄せて、両脇に二人を侍らせる。
「今日は私が主役じゃなかったの?」
セフィ姉もにじり寄ってきた。
「どうしたものかしら。
もう両腕が塞がってるのよね」
「譲りませんよ?」
「譲らないわよ?」
仲良し姉妹は今日もそっくりだ。
間違えた。そっくり姉妹は今日も仲良しだ。
どっちでもいっか。
「私、お邪魔だったかしら」
「そんなわけ無いじゃない、カノン。
シーちゃん、例のやつお願い」
「イエス、マスター」
私が声をかけると、どこからとも無くシーちゃんの分身体が現れた。
シーちゃんが私の姿に変化し、私はシーちゃん分身体に意識の一部を流し込む。
そうして私と意識を共有した分身体が出来上がった。
これもチグサ達の研究の成果だ。
私の望みを叶える為に頑張ってくれたのだ。
ダメ押しに、私(分身体)は子供Verに変身した。
「さあ!カノン!セフィ姉!カモン!」
私(分身体)子供Verは、カノンとセフィ姉を抱き寄せ魔法で引き寄せて、二人を侍らせた。
「なんですこれ?
あっちはシイナではないのですか?」
眼の前で見ていたノアちゃんでも、確信出来ないようだ。
「「どっちも私よ!
完全に意識を共有した同一存在よ!
まだ私世界の中でしかできないけどね!」」
「またトンチキな事始めたわね。
まあでも、ナイスよ、アルカ。
今度私に何人か貸して頂戴」
「「ごめん、まだ一人しか増やせないの」」
まあ、フルモードなら何百人でもいけるけど。
ただあれは、普段遣いするようなものじゃない。
戦闘時の切り札的なやつだ。
ガ◯キリバコ◯ボみたいなものだ。
「仕方ないわね。二人で満足してあげるわ」
「「ごめん、それもまだ難しいかも。
今の状態だけでもカツカツだから、思考が乱れるような事があると、維持できないのよ」」
「精進なさい」
そうね。セレネとのお楽しみの為に頑張るわ。
そもそも、家族全員と目一杯イチャイチャする為に欲しかった技術だし。
「無駄遣い過ぎます……」
「でも便利よね。
私も出来るようにならないかしら。
忙しい時って、もう一人自分が欲しくなるもの」
カノンは頭脳労働がメインだから微妙じゃない?
何人増えても、頭脳は一つよ?
「他にも自分がいたら、一人はずっと鍛錬して、一人はレヴィと遊んで、一人は家事をしてとかも出来るの?
それって喧嘩にならない?」
「「ならないわ、セフィ姉。
全員、自分で同時に動かしているだけだもの」」
「う~ん?」
どうやら想像し辛いようだ。
無理もない。
「無茶しすぎないで下さいね。
あまり変な事をしていると、人間ではなくなってしまいそうです」
「「は~い」」
「アルカ、私あっちのアルカも欲しいわ。
体だけでも、もう一つどうにかならない?」
「中身シーちゃんでも良いなら」
「この際それで構わないわ」
「止めて下さい。
シイナに何させる気ですか」
「別に大した事じゃないわよ。
私は侍るより侍らせたいだけよ」
「じゃあ私と代わる?
私とノアちゃんでセレネに寄りかかれば良いんでしょ?」
「大歓迎よ」
「嫌です。今日はアルカの気分です」
「また今度ね、セレネ」
「仕方ないわね」
「ふふ。三人は仲良しだね」
「少し妬けちゃうわ」
「セフィ姉とカノンも私とイチャイチャしましょう?
向こうの三人にばかり気を取られてないでさ」
「向こうにもアルカがいると考えると、違和感あるわね」
そう言いながらも私(分身体)の肩に頬ずりするカノン。
どうやら乗り気になったようだ。
「何しても良いの?」
何やら企み顔のセフィ姉。
イタズラでも思いついたのかしら。
「どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく」
そう言って私(分身体)にキスするセフィ姉。
それを見ていたノアちゃんとセレネが、私(本体)の腕に爪を立てた。
「「いったぁい!!」」
「痛みまで共有しているのですか?
それは不便なのでは?」
そう言いながら、グリグリと私の腕を虐めるノアちゃん。
セレネもノアちゃんに続く。
「「痛いってば!何するの!?」」
「実験です」
「罰よ」
「嘘つきがいるわね」
「カノンもやってみて下さい。
二人同時にするとどうなるのか試してみましょう」
「やらないわよ。
気持ちはわかるけど、先にするべき事があるわ」
「それもそうですね。
それで、アルカどうするのです?」
「「え!?私!?」」
「今更なに言ってるのよ。
ハーレムに加えるなら言うべき事があるでしょ」
「その前に、セフィさんの考えも聞いてみるべきじゃない?」
「あれ?ダメだった?」
セフィ姉、反応が遅いわ。
「いえ。ダメとかではなく。
今のはアルカの嫁になりたいという事ですか?」
「えっと?
う~ん、まあ、なれるならなりたいかな?
けど、今のは単に何でもして良いって言われたから。
ほら、普段から皆が気軽にしてるから気になちゃって」
「「「……」」」
つまり、羨ましかっただけなの?
特段、好意が溢れたとかでは無く。
皆が仲良さそうにしてるから、仲間に入れてほしかっただけなのかしら。
「まあ、気にする必要は無かったわね。
アルカ、受け入れなさい。
どうせ時間の問題だもの。
だから、その為に必要な事を済ませなさい」
「「セフィ姉をお嫁さんにする許可を下さい」」
「許可するわ」
「仕方ありませんね」
「構わないわよ」
「「ありがとう!皆!」」
「それだけじゃないでしょ。
肝心な相手への言葉がまだよ」
「うん、でも。
そっちは場を改めて。
今度デートしましょう、セフィ姉」
「うん。喜んで」
「レヴィに報告しないといけませんね」
「エリスにも気を使いなさいよ。
まだ保留にしてるくせに、新しい嫁増やしたんだから」
「後はルネルさんにもですね。
ルネルさんから託された相手に手を出したのですから」
「「そんな言い方されたら報告し辛いんだけど……」」
「何れはレヴィとルビィにまで手を出す気なんでしょ?」
「「うぐっ……。
その頃までにはルネルも嫁にしてみせるわ!」」
「私の伴侶は剛気だね。
そういうところ大好きだよ、アルカ」
「口先だけじゃない」
「剛気というか、無謀では?」
「というか、ナチュラルに伴侶として振る舞ってるわね。
流石に気が早いんじゃないかしら。
まだ必要な事を済ませてないわよ?」
「そうよ。アルカ少し席を外しなさい。
今から理想のプロポーズを考えるわよ」
「「それで何で私が追い出されるの?
私がセフィ姉にプロポーズするんでしょ?」」
「セフィの望みを聞いておくのよ。
私達がそれを元に計画を立てるわ。
アルカは計画に従いなさい」
「「それは何か違うでしょ!
自分で考えるから必要ないわよ!」」
「折角だけど、私にそんな理想は無いよ?
強いて言うなら、そういうの拘らずに今すぐキスしてくれる方が好みなんだけど」
セフィ姉って強引な人が好きなのかしら。
自由にやるのが好きなのかと思ってたけど、案外引っ張ってもらうのも好きなの?
「それじゃあダメよ!」
「落ち着いて下さい、セレネ。
流石に本人の意見を無視して進める事ではありません」
「そうよ。
流石に干渉しすぎよ。
祝福したい気持ちはわかるけど」
「ありがとう、セレネ。
気持ちだけで十分だよ」
「……仕方ないわね」
「「まあ、安心して任せてよ!
最高のシチュエーションを用意してみせるから!」」
「よく言うわ。
私達の時はグダグダだったじゃない」
「ですが、もうセフィさんで二十二人目です。
それなりに経験を積んできたのですから、あの頃と比べるべきではないのでは?」
「カノンの時はどうだったの?」
「指輪の時は完璧だったわ」
「時は?
最初にプロポーズされた時はどうだったのですか?」
「……ノーコメントよ」
「いったい何やらかしたのよ」
「「あはは~」」
「いっそ全員にもう一度プロポーズしてみたら?
やり直しとかじゃなくて、定期的にやりましょうよ。
毎年、結婚記念日の恒例行事にしましょう。
飽きられないように、趣向を凝らしてもらいましょう」
「「勘弁して~~!」」




