31-43.方針
「セレネの話を聞いて、ノアちゃんはどう思う?
ルスケアの件、こっちからなにかするべきだと思う?」
「ええ。まだ気がかりがあります。
そもそも私が懸念しているのは、内戦ではありません。
アルカの名が悪名として広がる事です。
その問題は依然残っています」
「ならルスケア領主に直接頼んでくればいい?
今後は私の名前を出さないでくれって」
「根本的解決にはなりませんが、あの国へのメッセージにはなるかもしれませんね。
アルカが手を引いたように見てくれれば好都合です」
「流石に楽観的過ぎるわ、ノア。
何かしらの企み事と思われるのが関の山よ。
そうでなくとも、わざわざアルカの制御下にあると証明するようなものだわ。
知らぬ存ぜぬを決め込んだ方がマシかも知れないわよ?」
まあ、そうね。
カノンの言う通りかも。
何をするにも、今更過ぎるのよね。
「ですが、カノンは第二王子から釘を刺されたのでしょう?
黙認は肯定と捉えると。
何らかの声明を出す事は有効では?」
「ならせめて、第二王子にも伝えておくべきね。
貴族達の制御は任せてしまいましょう」
「そんな事が可能なのですか?」
「難しいでしょうね。
きっとやらないよりマシって程度よ。
だから、こちらも釘を刺しておきましょう。
そして、私達の意思を代弁する存在になってもらうわ。
そういう意味では、うってつけじゃないかしら」
カノンは王子を利用する気なの?
ハイリスク過ぎると思うけど。
「危険では?
下手に接点を持てば、逆に利用される可能性も出てきますよ?」
「なら私に任せなさい。
今度は私がアルカとして出向くわ」
セレネが?
「ダメです。
この件はカノンに任せるべきです。
王族関係はカノンの方が慣れていますし、頻繁に中身が入れ替わっては、変身を見破られる危険も出てきます。
というか、セレネはアルカ役がやりたいだけでしょう?」
「そういう気持ちが無いわけじゃないわ。
けど、カノンより私の方があの国について詳しいはずよ。
教会の件もあるし、管轄は一纏めにしておくべきじゃない?」
セレネは正直ね。
まあでも、一応真面目な理由もあるのね。
「尚の事です。
教会の聖女として出会う可能性もあるのです。
その際、正体を感付かれる可能性が生じます。
余計な危険を増やすべきではありません」
「まあ、それもそうね」
あっさりと引き下がるセレネ。
「そもそも、王族とは会ったこと無いの?
何だかんだ五年くらいは聖女やってるでしょ?」
お飾りの期間を含めると、もっと長いだろうけど。
まあ、あの頃の教会に王族が興味を持つとも思えない。
「あるわよ」
「第二王子とは?」
「第二王子は会ったこと無いわね。
第……何だったかしら?五?六?
とりあえず、直接会って話したことがあるのは、もっと下位の王子だったはずよ」
「それでよく詳しいだなんて言えましたね?」
「仕方ないじゃない。
何か突然来て、すぐに帰っていったんだから」
「でも、王女だったら覚えてたでしょ?」
「ええ。勿論」
「まったく。この二人は……」
何で私まで?
「呼びつけられはしなかったの?」
「そういえば無かったわね。
なんでかしら」
「今回の件を機に、干渉してくる者もいるかも知れません。
用心しておいて下さい。
というか、明日から暫く出勤して下さい。
ルビィの事はレヴィに任せておけば問題無いはずです」
「そんなぁ!!」
「グリアさんの事は気にならないのですか?
色々と事態が動いているのですから、ボディーガードくらいしたらどうです?」
「うぐっ……。
流石にそれを言われると分が悪いわね……」
「がんばれ~」
「そうだわ!アルカも一緒に行きましょう!
どうせ暇してるんでしょ!?」
「なんでそう思ったの?
暇なわけないじゃない。
暇だったら、ルビィのところに入り浸ってるわ」
一緒に行くのはちょっと興味あるけど。
セレネが普段どんな仕事をしているのか側で見てみたい。
「私の為に時間を作りなさい!」
「そりゃあ、私も行ってみたいけどさ」
「ダメですよ、セレネ。
正直、私としても同行させたいところですが。
アルカは何か企んでいますから、そろそろ見張りが欲しいところです」
見張り?ほわい?
流石にそれはやり過ぎじゃないかしら?
あと、多分、セレネは向いてないわよ?
というか結局どっちよ?
行かせたいの?行かせたくないの?
まあ、うん。
同行させたいけど、外に出せないのよね。
「私が見てようか?」
今度は、ニコニコ話を聞いているだけの置物と化していたセフィ姉が立候補した。
「……いえ。止めておきましょう。
セフィさんにはエリスの訓練に加えて、家事までお願いしてますから」
断った理由、絶対違う理由でしょ?
セフィ姉だと、私に取り込まれるからでしょ?
「そう?
その分、アルカにも手伝って貰えば済むと思うけど」
「そうですね。
セフィさんを手伝ってもらうかはともかく、何かしらの役割を用意するのは良いかもしれません」
「やめてよ~!
本当に忙しいんだってば~!」
「なら、やっている事をこの場で明かせますか?」
「……半分……いや、三分の一くらいなら……、いや、やっぱり五分の一……」
「ハッキリして下さい」
「まあまあ。その辺にしておきましょう、ノア。
ノアにだって秘密があるんだから。
そうだわ。丁度良いわね。
会議は終わらせて、このまま飲み会に移行しましょうよ。
お酒でも飲めば、口も軽くなるでしょうし」
「あ!」
「どうしたんです?」
「飲み会の事、忘れてた!
アリアに一緒に寝ようって言っちゃったのに!」
「アリアの方は諦めて下さい。
これから飲み会を始めると、遅くなってしまいますから」
「一言謝ってくるね!」
「念話で済ませて下さい。
まだ勉強しているはずです」
「は~い」
私はアリアに念話を送り、行けなくなった事を伝える。
アリアは既に知っていたようで、明日の約束と引き換えに許してくれた。
どうやらラピスが知っていたようだ。
うちのイロハちゃんとツク姉より気が利くかもしれない。
『知らないわよ!
アルカが勝手に予定詰め込んだんでしょ!』
ごめんなさい……。
『申し訳ございません、アルカ様。
気が回りませんでした』
本当にごめんなさい。冗談だったんです。
素直に謝られると罪悪感を感じます。
『自業自得じゃない!』
ごもっとも……。
「それじゃあ、移動しようか。
カノンも予定無いなら、一緒に来てくれる?」
「ええ。大丈夫よ。
喜んで参加させてもらうわ!」
「わざわざアルカ世界で飲むんですか?」
「ふっふ~ん!
良い場所があるのよ~!」
「楽しみだね。
ところで、私への話しは先に済ませないで良いの?」
「そちらも飲み会の最中で構いません。
どうせなら、ハルが帰ってきてから一緒に話し合う事にしましょう」
「そう。わかった」
「それじゃあ、皆を先に送り込むわね。
中でシーちゃんが案内してくれるわ。
私は自分の部屋に戻ってから向かうから」
「はい。お願いします」
ノアちゃん、セレネ、カノン、セフィ姉を私世界に送り込んだ。




