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5-12.問答

「本当に行くの?」


「うん。確かめてみたいの」



夕方になって起き出した私達は、

居間に移動して今後のことを話し合っていた。


セレネはもう一度神殿に行きたいそうだ。

試練の真意と初代聖女について聞きたいらしい。




セレネから聞かされた神の試練とやらは

悪趣味極まりないものだった。


もうその神に関わりたくはない。

セレネをこれ以上関わらせたくはない。


セレネも今のままではもう信仰する事は出来ないと言っている。

当然だ。


それでも、神は何も気にせず、

勇者と聖女に力を与えた。


ゲームの駒だとでも思っているのだろうか。

私達の思いなど考慮する価値も無いと見下しているのだろうか。


どうしたって良い感情は抱けない。




出来るならぶん殴りに行きたいくらいだ。

それが出来ないなら二度と関わりたくはない。


例え私達にはわからない深い事情があったとしても、

もはやそんな事は関係無い。



セレネを傷つけた。

セレネを苦しめた。

セレネを泣かせた。


何が試練だ。

私達はお前の玩具じゃない。


そう言ってやりたいけれど、

セレネはもう前に進もうとしている。


怖くてたまらないはずなのに、もう一度行って確かめたいと言う。


どうしてこの子はこんなに強いのだろう。

この子がこうして頑張っているのに、

私が拘っているわけにはいかない。


今度は私が守って見せる。

たとえ特別な力が無くたって、

セレネの側で守って見せる。




「わかったわ。けれど無理はしないでね?」


「ありがとう。大丈夫!」




私達はまた五人揃って神殿に転移した。


クレアは何も言わない。

試練の内容を聞く気にもなれない。


クレアの口ぶりからするなら

セレネと似たようなものを見せられたはずだ。


それでもクレアは何も言わず、

もう普段と何も変わらずに歩いている。


もう少しクレアにも気を使うべきだった。

セレネの事で頭がいっぱいになっていたとはいえ、

あまりにも冷たかった。



今更とは思いながらもついつい口にしてしまう。


「クレアは大丈夫?」


「ああ。気にすんな。問題ねえよ」



逆に気遣われてしまったかもしれない。

クレアも強い。セレネといい、どうしてそんなに強いのだろう。

私はいつまでも気にし続けているのに。




「ようこそ。お聞きしたい事はわかっております。

ですが、神のご意思は私にはわかりかねます。

神も今はお声をくださらないでしょう。

それでもよろしければ何でもお答え致しましょう」



昨日と同じように神官服の女性は待ち構えていた。

そして、私達が何か言う前からそう宣言する。


実質なにも答えられないのと一緒じゃない!




「魔王とはなんなのですか?」


セレネが教会の聖女だった頃のような丁寧な口調で質問する。



「魔王は邪神より力を授かった者です。

そしてかつて異世界より、我らの神によって呼び出された者でもあります。

アルカさん。あなたのように」



「神はなんでこの世界に連れて来るの?

私に何を期待しているの?」


「この世界のためです。

あなたに期待されていることは私にはわかりかねます」



「初代聖女と魔王の関係はどのようなものだったのでしょうか」


「わかりかねます」


「魔王はこの世界の敵なのでしょうか」


「その通りです。魔王は、魔王に力を与えた邪神はこの世界を脅かす存在です」


「なぜ神は勇者と聖女に力を与えるのですか?」


「この世界を守るためです。

正確には、外敵からこの世界を守るための存在です。

今回の敵が、かの邪神であるというだけです。

これまでに他の理由で見出される事も何度もありました」


「私はもう神を信用することが出来ません。

それでも聖女として扱うのですか?」


「聖女に、勇者にも神への信仰は関係ありません。

信仰に答えて力を与える事はあっても、

勇者と聖女に信仰を求めることはありません」



「私達は駒なの?

この世界を守るために勝手に選んで、

勝手に力を与えて、勝手に利用するの?」



「そうとって頂いて構いません。

事実、特にアルカさんのように異世界から呼び出された者からするなら

この世界の守護など関係のないことでしょう」


「あなたは神を信仰しているんじゃないの?

そんな事を言って良いの?」


「私の役目はこの世界における神の代行です。

神はもうほとんどこの世界に干渉する事ができません。

私はその橋渡しをしているのです」


「つまり神自身が私達に恨まれるのは仕方がないことだと思っていると?」


「その通りです」


「初代聖女は神の言葉を聞いていたのではないのですか?

なぜ今は自ら言葉を届けられないのでしょうか」


「昔は神の力が大きかったためです。

現代では、かの神は信仰されておりません。

殆どの人々から忘れさられています。

そうして神もこの世界に干渉する力を失って行きました。

この場に来なければ勇者と聖女に力を与えることが出来なかったのもそのためです」



「じゃあ何で神は信仰を求めていないの?

この世界を守るためにも必要なんじゃないの?」


「信仰は強制するものでは無いからです」


「私達を異世界から呼び出したり、

勇者や聖女は利用するくせに、そんな事は気にするの?」


「それが神のご意思です」



意味がわからない。

セレネに下した試練のように。

私達を駒として扱うように。

苛烈な事を平気でするくせに、

そんな所だけ大物ぶったって意味がない。


結局力が足りなくて、危うく勇者も聖女も魔王に殺されるところだった。


そうしてしまえばまた新しい駒を補充するだけなのだろうか。

力が無いと言いつつ、そんな事いつまでも続けられるのだろうか。



結局、私達は神とやらの思惑通り動くしかないのだろうか。


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