31-34.助っ人
今回もアリア視点のお話です。
「私がアルカよ。
今までの話は全部聞いていたわ。
よくも私のアリアを虐めてくれたわね」
何故か喧嘩腰のカノンお姉ちゃん。
心強い助っ人かと思ったのに、少しだけ不穏な気配がする。
あれ?
というかあの魔道具は?
嘘発見器があるんじゃなかったの?
最初から思いっきり嘘だったわよ?
『安心して、アリア。
私が無力化したよ』
コマリって凄いのね!
『どうせラピスは……』
『そんな事思ってないから!
もう落ち込まないでよ!』
『うん……』
ラピスは意外と打たれ弱いのかしら。
多分そんな事は無いと思うのだけど。
とにかく、この場をなんとかして早く落ち着かせてあげよう。
私は未だに固まっているテオ君父に声をかける。
「殿下のご希望どおり、話をする機会をご用意致しました。
これで宜しかったでしょうか?」
宜しいワケがない。
勝手に城内の、それも王子達の眼の前に連れてきて良い筈がない。
しかもアルカは危険人物扱いされているのだから尚更だ。
一般的な意味で良い悪い云々以前の問題だ。
「……ああ。感謝するよ。アリア嬢」
それでもどうにか諸々飲み込んで言葉を紡ぐテオ君父。
ここで落ち着きを取り戻せるなんて凄いわね。
流石第二王子として政務に関わっているだけの事はあるわ。
「アルカ殿も。
ご足労頂き感謝する」
「そんな事より本題に入りなさい。
こっちは唯でさえあんた達のせいで迷惑してんのよ。
王子なら立場くらい弁えて発言なさい」
カノンお姉ちゃん容赦ない……。
というか、今はお姉ちゃんもただの冒険者だよ?
アルカの姿なんだよ?立場わかってる?
王子様を『あんた』なんて呼んで良いの?
『立場を弁えて発言』ってテオ君が昨日私を誘った事なんだろうけど、このタイミングだとテオ君父に言ってるように聞こえちゃうよ?
いや、わざとそう聞こえるように言ってるんだろうけどさ。
というか!どっちにしたって尊大過ぎるよ!
戦争でもふっかける気なの!?
「申し訳ない。何分突然の事だったのでな。
少し驚きすぎてしまったようだ。
だがもう大丈夫だ。落ち着いたとも。
それで用件だったね。
なに、そう特別な事では無いのだよ。
ただ少し、話をしてみたかっただけなのだ。
アルカ殿の人となりを知りたい。ただそれだけなのだよ」
お姉ちゃんの発言は半分くらいスルーされた。
これが大人の対応なのかしら。
少なくとも、一般的な王族の対応ではなさそう。
「なに?お茶でもしようっての?
悪いけど、そこまで暇でもないんだけど」
お姉ちゃん!?
いくら何でも雑すぎるよ!?
私が言えた事じゃないけど!
「ああ。そうだろうね。
アルカ殿の活躍は聞き及んでいる。
この国の中だけでも数多の事件に関わっているのだ。
しかし最近は活躍を聞かないが、どこか遠方の地で活動でもしているのかな?
もしくは、休暇でも?」
「それは何の冗談?
正直、まったく笑えないわ。
それとも、本気であんたらが追い出したようなものだとわかっていないの?」
「今活動していない事と、魔王事件に関する出来事は関係あるまい。
実際、半年程前にもこの国で精力的に活動していた期間があるはずだ」
「ならそんな事、あなたにもこの国にも何の関係も無いわ。
わざわざ言うわけ無いじゃない」
そろそろ止めるべきかしら……。
「関係無いという事も無いだろう?
娘さんがこの国の学園に在籍しているのだ。
アルカ殿としても、この国で起こる出来事には関心があるだろう?」
テオ君父も諦めないわね。
「余計なお世話よ。
あなた達程度に心配されるような、やわな鍛え方はしていないわ」
まあ、うん。
いっぱい鍛えてもらったもの。ルネルに。
「なるほど。Sランク冒険者の特別な教育というものか。
実際、アリア嬢は随分と優秀だそうではないか。
是非我々にもご教授頂きたいものだ。
なんなら、学園の講師になど興味はないかね?
もし興味があれば、私が推薦しよう」
「興味無いわ」
多分アルカは興味あるよ?
私達について行きたいって言ってたし。
「ならば逆に、アルカ殿が興味のある事は何かな?
アリア嬢に関する事でなくとも、何でも言ってみてくれたまえ」
「懐柔でもするつもり?
何をしようが、私がこの国に仕える事なんてありえないわ」
「ハッキリ言うものだね。
これでも私はこの国の王族なのだけど。
とはいえ、まあそうだろうね。
我々はアルカ殿に敵意を向けすぎた。
その事は私もよく知っている」
「そうよ。
散々助けてやったのに、仇で返されたのよ。
あんたそれ知ってて、よくアリアを問い詰められたわね?
いえ。本当はわかっていないのよね。
だから同じ事を繰り返すんだわ。
私の娘だと察したなら、手を出さず静観するべきだった。
そんな事すらわからないのだから、もう手の施しようが無いわね」
「貴様!!
黙って聞いていれば!」
遂に我慢しきれなくなったテオ君が勢いよく立ち上がった。
「やめるんだ。テオ」
「しかし父上!」
「テオドロス!」
「ぐっ……」
「息子が失礼した。アルカ殿」
「どうでもいいわ」
カノンお姉ちゃんの言葉に、更に怒りを募らせるテオ君。
それでも今度はどうにか抑え込んでいた。
「アルカ殿の言い分も理解できる。
だが、私もこの国を治める者の一人として、立場がある。
何より、息子を想う一人の父としても、この件は放ってはおけないのだよ。
どうか、同じ親の立場として理解しては貰えないだろうか」
「それこそ勝手な言い草ね。
あなた達が勝手に不安がるのは好きにすれば良い。
私がやってきた事で不安になろうが、不利益を被ろうが、私の知ったことじゃない。
私はただ眼の前の人達を救ってきただけだもの。
この国の権力者達が無辜の民の暮らしより、自分達の利益や名声、身の安全を大切に思おうが私には関係ないわ。
あなたの言っている事も保身に走る貴族達と同じなのよ。
勝手に敵意を抱いて、勝手に警戒して、何が理解しろよ。
あんたらこそ、私の事を理解する気が無いんじゃない」
「なら何故、ルスケア伯爵には手を差し伸べたのかね?
かの伯爵こそが、直接的な被害を産んだ元凶の一人では?」
「まさか、あれを救われただなんて思っているの?
私を崇めるだけの傀儡に成り果てているのに?」
「ルスケア伯爵についてはこちらでも調べさせて貰った
伯爵に洗脳魔術の類は使われていない。
自らの意思でアルカ殿を神と崇め奉っている。
救われ、許されたというのは、伯爵本人の供述だ」
「知らないわよ。
心を入れ替えたようだから放っておいただけよ。
私は殺し屋になったつもりは無いわ。
それに、私が何かやらせたわけでも無いわよ」
「その言い分は流石に通らない。
時に黙認は、明確な肯定と取られるものだ。
伯爵の行いを把握していて止めていないのだから、君の主導と取られても文句は言えない。
わかるかね?
国内の一領丸ごと、妙な宗教が広まっているのだよ?
あの者らは君の言葉には何であろうと従うだろう。
これは侵略行為でないと言えるのかね?」
「それこそ知らないわよ。
あの領主を更迭でもなんでもすれば良いじゃない。
別に私がつきっきりで守ってるわけでもないんだし」
「正直、我々としてもそうしたい所だがね。
その結果、余計に被害が広まっても困る。
かと言って、今更伯爵一人を処した所でどうにもならん。
あまり強引な事をすれば、内戦にすら繋がりかねない。
何より、君との関係性も不透明なものだったのだから」
「またそれね。
勝手に疑って警戒して。
挙げ句、そんな愚痴聞かされてもねぇ。
大体、ルスケア領主がセフィド領にちょっかいかけてた時は散々庇っていたくせに、今更どの面下げて私に泣きついてるわけ?
私が提出した証拠を真面目に調べておけば、今頃こんな事にはなっていなかったのよ?」
「領主同士の小競り合いと、領丸ごと乗っ取るのを一緒にされては困るな」
「そう。
あんたらは町一つ壊滅する程度の事には興味も無いのね」
ノアお姉ちゃんがアルカと出会った頃の話ね。
たしかルスケア領主が首謀して、アルカが住む町にダンジョンの魔物達をけしかけようとしたのよね。
というか、なんでその領主は許されてるの?
『なんか、無人島に放り込んでおいたら改心しちゃったから、取り敢えず帰したみたい』
ラピスもよくわかってないのね……。
というか、アルカもなのか。
「お陰様でね。
アルカ殿が未然に防いでくれたお陰で、我々の関心が向くことは無かったのだよ」
実際の被害が無いと報告されても真剣に対応し辛いのね。
まあ、そもそもの報告も届いてなかったのかもだけど。
「その割には詳しいのね。
無くしたはずの資料でも見つけたのかしら」
「魔王事件の際にね。
我々がアルカ殿に強い関心を持ったのはその頃だ」
「遅すぎたわね。何もかも」
「いいや。まだ遅くは無いとも」
まさか仲直りでもしたいの?




