31-33.誤魔化し
「君の母上は、アルカという名ではないかね?」
テオ君父に思いも寄らない質問をされて、一瞬思考が停止する。
『アリア!』
ラピスの焦った大声で衝撃が少し和らぐ。
「ふむ。その反応を見る限り間違いなさそうだ。
ならば君には、」
「何故!?
何故!私の"実の"母の名をご存知なのですか!?」
「うむ?」
つい衝動的に思いついた誤魔化しを口にしてしまった。
なにか言いかけていたのだし、もう少し聞いてからにするべきだったかしら……。
「実の?」
「はい。
私の実の母の名はアルカと申します。
そして、妹の名はルカ。
母の名から受け継いだようです」
これも真実だ。
駆け落ち後に名乗り始めた偽名だけど!
ほんの一瞬、テオ君父の意識が、自身の胸元の何かを確かめるように移動する。
意識の先に集中して視てみると微細な魔力を感じる。
何かの魔道具かしら……。
まさかあれで嘘を見抜いていたりしないわよね?
アルカがそんな装置にも気をつけろと言っていた。
嘘発見器と言うんだったかしら。
「……ならば今一度問おう。
今の母上の名は?
君はSランク冒険者、アルカの娘ではないかね?」
諦めが悪い!!!
これで誤魔化されてくれないの!?
しかもなんか質問が細かくなってるし!!
『アリア。落ち着いて。
今度はこう答えて』
「……今の母の名はコハルです」
今度こそ納得した!?
これも当然真実よ!?
「済まないが『はい』か『いいえ』で答えてくれたまえ。
君はSランク冒険者アルカの庇護下にあるのかね?」
しつこい!!
しかも今度は明確に逃げ道を断ってきた!!
もう魔道具の事を隠す気もないのね!?
「アリア嬢。沈黙は肯定と取るが?」
こうなったら思い込むのよ!
アルカは冒険者休業中だし!
私は単なる被保護者じゃないし!
アルカは婚約者!
アルカは私のお嫁さん!
今のアルカはただの引きこもり!
アルカは!アルカは!
「……いいえ」
テオ君父の胸元の魔力の波長が変わったのを感じる。
どうやら何かを検知したようだ。
「アリア嬢。嘘はいけない」
何その魔道具!!悪質過ぎるわ!!!
『……壊しましょう』
落ち着いて、ラピス!
王子様攻撃するわけにはいかないわ!
何より今更過ぎるし!
「……申し訳ございません」
「その様子では、やはりこれにも気付いていたようだね。
まったく。油断のならない子だ」
そう言って胸元のポケットを指すテオ君父。
しまった……。
まだ向こうから見た私視点では、嘘と断定される根拠が無かったのに……。
素直に謝るのは早すぎたわ……。
『結果的に、無駄に余計な情報を与えただけになったわね……』
私の中で同じように落ち込むラピス。
というかそれ言わないで……。
私ももっと落ち込むじゃない……。
そんな私達とは反対に、テオ君父は再び雰囲気を緩めて呑気にも聞こえる口調で話し始めた。
「ふふ。そう落ち込まないでいい。
アリア嬢。君はよくやったよ。
まさかここまで手こずらされるとは思わなかった。
良いね。やはりテオの嫁に」
「父上!!」
今まで沈黙していたテオ君が大声を上げる。
テオ君、自分の事になるとすぐに止めるのね?
私が問い詰められていても、何もしてくれなかったのに。
ダメよ。少し八つ当たりが過ぎるわ。
さっきまでのテオ君父はお仕事モードっぽい感じだった。
テオ君の立場なら、口出しし辛かったのだろう。
「殿下!
こんなやり方はあんまりですわ!!」
同じく沈黙を守っていたルイザも声を荒げる。
「まあ、そう言わないでおくれ、ルイザ嬢。
君は私の立場をよくわかっているはずだよ」
「それとこれとは!!」
ルイザとテオ君父っていったいどういう関係なの?
なんだかそれなりに付き合いがあるみたい。
いくら侯爵令嬢だからって、ルイザはまだ十歳よ?
まさか!?テオ君父もロリコンなの!?
ルイザにまで手を出してるとか!?
「それで話を戻すが、アリア嬢。
アルカ殿に伝言を頼めるかね?
一度会って話がしたい。
これは私個人の頼みだ。
国として騒ぎ立てるような事はしないと約束しよう。
頼みを聞いてくれるのなら、今この場での会話も外には一切漏らさない。
どうかね?引き受けてくれるだろうか」
まあ、そうよね。
アルカに拘ったのは、アルカの方に用があるからよね。
いくら私がアルカの関係者でも、ただの子供に過ぎない私に、大した用なんてあるわけないものね。
わざわざ秘密も漏らさないと言っているのだし、私にとっては都合が良いけど……。
『この話、受けて。
それから、こう言って』
「わかりました。
今すぐ、お呼びします」
私の言葉が終わった直後、テオ君父が返事をする間も無く私の隣にアルカが転移してき……?
カノンお姉ちゃん!?
私の隣に現れたのは、アルカに変身したカノンお姉ちゃんだ!
テオ君父達と一緒に、私まで驚かされてしまった!




