31-21.家族会議・続
「カノンの考えも放っておいて問題無いという事ですか?」
「ええ。
正確にはそれ以外にやりようが無いってだけだけどね。
とにかく今の段階では放っておきましょう。
二つ目の問題の方が関わってくる可能性もあるけれど、何れにせよ、向こうのアクション待ちで良いと思うわ」
「わかりました。
なら王子の件は保留と致しましょう。
とはいえ、一応アリアに一通りの対応方法は教えておいてもらえませんか?
明日、王子から何らかのアクションがあった時に、初動で間違えてしまう可能性もあるでしょうから」
「ええ。任せて。
もしまた誘われても、問題にならない断り方を教えておくから」
「ノア、いっそ招きに応じてしまうのはダメなのですか?
普通のお友達として、仲良くしましょうというくらいであれば構わないのでは?
王族との友好的な繋がりは、その地で活動するのに役立つものとも思いますが」
まあ、レーネの人魚の国のような平和な所ならそうなんだけどね……
「レーネ、そう都合良くはいかないのです。
人間の社会は複雑です。
人魚の国のように一纏まりにはなれません。
王子に近づく平民の少女など、回りから見れば危険人物と取られかねないのです。
例え、近づいたのが王子からだったとしてもです」
「そういうものなのですね……」
まだレーネには少し難しい感覚かもしれない。
人魚は王族と民が人間よりずっと近い距離感で接している。
関わっただけでも罪に問われかねないだなんて、理解しがたい話だろう。
とはいえ、これからカノンと共に商人を続けていればその辺りの機微にも詳しくなっていくはずだ。
それが良い事なのか、悪い事なのかは微妙な所だけど。
「私も昔似たような事あったな~」
呑気な口調で呟くセフィ姉。
「その時はどうなったのですか?
参考になるかもしれません。
詳しい経緯を教えてくれませんか?」
「うん。勿論良いよ。
とは言っても、別に大した話じゃないんだ。
昔、強い魔物を倒したら国から呼び出しがかかったんだ。
それでまあ、面白そうかなと思って招きに応じたら、そこの王子に求婚されちゃってね。
しかもそれが大勢の前だったもんだから、さあ大変。
結局色々あってその国からは逃げ出しちゃった」
ノアちゃんが一番聞きたそうな所端折ったわね。
さては大して覚えてないな?
「色々とは?」
「それは、ほら。
自分で言うのもなんだか気恥ずかしいんだけど、王子を誑かした美しい魔女って話が広まっちゃてね。
結局その国にはいられなくなったんだよ」
絶対それだけじゃないでしょ。
他にももっと悪い噂流れてたんじゃないの?
まあ、自分の口からわざわざ言いたくもないだろうけど。
むしろセフィ姉なら、ナチュラルに自分の事じゃないと思っていた可能性もある。
セフィ姉だし。
「やはり問題はそこですよね。
王子と関われば、アリアの知名度も引き上げられてしまうことでしょう。
善きにせよ、悪きにせよです。
それは私達の望む所ではありません」
「そうは言っても、相手も子供ですよ?
一目惚れしたからと言って、そこまで騒ぎ立てるものなのですか?」
「それは王子本人の重要度次第ね。
グリアさん。テオ王子の継承順位ってわかる?」
「テオ……聞いたことはないな。
まあ、私が王都にいたのはもう五年も前の事だ。
その頃、王子も五歳程度だろう。
ならば、まだお披露目前だったはずだ。
とはいえ、既に上位は埋まっている。
大した順位ではあるまい。
十番以降である事は間違いなかろう」
「その順位だと微妙な所ね。
基本的には問題ないでしょうけれど、国の方針とか男女の割合とかでも可能性がある範囲だし」
そうなの?
元から男性の君主しか認めてないなら、それも込みで継承順って決めるんじゃないの?
形だけ順番を振っておいて、実際には認めないとかもあるのかしら。
まあ、何にせよ随分と子沢山のようだ。
私が言えた事でも無いけど。
「ノア、一旦話を進めましょう。
テオ王子との接し方については、私がアリアに教えておくわ。
向こうからアクションがあった場合も、基本的には私の方で対応しておくから。
この件は私に任せて頂戴」
自信満々に言い切るカノン。
なにやら張り切ってるらしい。
無理もないか。カノンもアリア大好きだもの。
アリアに頼られているみたいで嬉しいのだろう。
「わかりました。
なら一先ず王子の件はカノンに任せます。
皆さんもそれで良いですね?」
満場一致で可決された。
カノンは頼りになるものね。
「次は担任教師の件です。
たしか、サマラス先生でしたね。
その彼女がアリアを個人的に目の敵にしているという事でしたが、もう一度詳しく説明していただけますか?」
「詳しい事はラピス達にもわからないわ。
ただ、メルクーリって先生がそう言っていたのよ」
「!?」
グリアが何やら反応を示した。
名前に聞き覚えでもあるのかしら。
「そうだわ!グリア先生に聞きたい事があったの!
クレオン・メルクーリ先生ってグリア先生の弟さんなの?
私、すっごく気になっていたのよ!」
「……知らん」
本当に?
この世界の人、といか私のような冒険者くらいの身分の人達は、基本的に必要がないと家名は名乗らない。
そもそも持っていない者も多いくらいだ。
互いに貴族だとまた違うのかしら。
ともかく、実は私もグリアの家名は知らなかった。
フルネームは、グリア・メルクーリちゃんだったのかしら。
可愛い。
ちなみにお母様は、クリスタさんだ。
名前の特徴としても似た雰囲気を感じる。
やっぱり弟さんじゃないかしら。
「グリア先生、本当に知らないの?
明日クレオン先生にも聞いてみていい?」
「やめんか!」
「アリア、ダメですよ。
グリアさんの名前を不用意に言いふらすのはいけません。
お母様との接点があるとはいえ、誰が何処までの情報を持っているかはわからないのです。
不用意な言動は避けて下さい」
「わかってるわ、ノアお姉ちゃん。
ただ少し揺さぶってみただけよ。
少なくとも何かしらの接点があるのは間違い無さそうね」
「そんな事の為に教えたわけではありませんよ」
「ごめんなさい」
なんでしれっと、アリアまで相手の感情を読む技術身につけているのかしら。
ノアちゃんかルネルくらいしか出来なかったはずなのに。
でもアリアなら未来予知の方も習得できそうね。
流石完全無欠のハイパー美少女ちゃん。
完全無欠は言い過ぎか。
「それで話を戻すけど、メルクーリ先生の言った事を抜きにして考えると、サマラス先生の言動はどっちとも取れるわ。
単に不真面目な編入生を良く思っていないとも、アリアの何かに思う所があるともね。
少なくとも、アリア本人に直接強い敵意を向けているわけではないわ。
うっすらと感情を読み取れるアリアが、ただの厳しい先生だと認識した程度にはね」
まだ感情を読む力は使いこなしきれていないのか。
まあそれはそうよね。
ノアちゃんですら使いこなすのに一年近くかけたんだし。
そうなると、アリアというより理事長先生と何かあるのかしら。
理事長先生に推薦されて、やりたい放題やっているアリアが気に食わなかったのかも。
そんな理由なら納得も出来る。
メルクーリ先生とやらが言っていたのもそういう意味だったのだろう。
理事長先生とサマラス先生の確執、もしくはサマラス先生が一方的に何かしらの思いを抱えている事を知っていたのだろう。
なら、理事長先生から話を聞いてみるのが手っ取り早いかしら。
次にグリアが行くときに聞いてきてもらおう。
セレネに頼んでおけば問題ないだろう。




