31-20.家族会議
今日の家族会議は縮小版で開催された。
主役のアリア、ラピス。
同じ学園に通う、ルカ、リヴィ。
皆のお母さん、ノアちゃん。
王族問題となれば外せない、カノン、レーネ。
(一応)人生経験豊富な、お姉ちゃんズ。
(どっちもあまり頼りにはならないけど)
あの国に一番詳しい特別ゲスト、グリア。
(夕食を口実に教会から連れ戻してきただけだから、途中で抜けるかもだけど)
そしてもちろん、この私。
まあ、縮小版と言いつつ、十一人もいるのだけど。
とはいえ、三十人以上も集まって話す事でも無いだろう。
あと正直、お姉ちゃんズよりニクスとノルンの方が頼りになりそう。
『まあ、そう言わないであげて、こはる。
みゆきとセフィだって人の世で長く生きているのだから』
『ノルン、今からでも来ない?
今なら私の膝を貸してあげるわよ?』
『折角だけど遠慮しておくわ。
わたしもお母様も、あまり人の国に関わりたくないのよ。
どれだけ遠回しであってもね』
『それはわかってるけどさ~
最近ノルンとイチャイチャしてないしさ~』
『こはるの体感ではそうなのでしょうね。
けれど、わたしは最近可愛がってもらったばかりなのよ。
深層に籠もるのは程々にしておきなさい』
『は~い』
残念。フラレてしまった。
「それじゃあ、改めて経緯を説明するわね」
ラピスがそう言って状況を教えてくれた。
どうやらラピスも元々は全てを話すつもりは無かったらしいのだけど、結果的に全ての情報を話さざるを得なくなったようだ。
そうしないと、担任との確執が説明出来なかったのだろう。
アリアは昼休みを看病に使った代わりに、五限目の授業をすっぽかしたそうだ。
これがノアちゃんに怒られるかもとビクついていた理由なのね。
まあ、普通に先生に任せておけばと思わないでもない。
別にずっとアリアが付き添っていなくとも、保険医くらいいるだろうし。
とはいえ、その事でノアちゃんが責める事は無いだろう。
友達を想ってしたことにとやかく言う子でもないもの。
まあ、それは別としてもやりたい放題ね、アリア。
苦手なはずの座学までも無双していたとは。
とはいえ、座学については私達の認識がそもそも間違っていたのね。
今までアリアの年齢にしてはずっと高度な授業を受けていたのだろう。
まあだからといって、ノアちゃん達が手を緩めるとも思えないけど。
「それで、グリアさんはどう思いますか?」
「どうもならんよ。
我々がこうして雁首揃えて考える事などあるまい。
向こうの出方を見んことにはな」
「まあそう言わないで、グリアお姉ちゃん」
「誰がお姉ちゃんだ!
君にそう呼ばれる筋合いなど無い!」
「ならお義母さんの方が良い?
セレネの母親なんだし」
「なんだねその二択は!
これ以上下らない戯言を聞かせるのなら付き合わんぞ!」
「アルカ、いい加減にしなさい」
「はい。ごめんなさい」
ちぇ~
愛情込めて呼んだだけなのにな~
グリ姉なら許してくれるかしら。
『止めておくべきかと』
ツク姉まで反対なのね。
『ふふ。私で宜しければ、是非そうお呼び下さい』
考えとくわ~
『小春先輩こそ飽きてます?
グリアにはああ言っておいて』
『別にそんなんじゃないわ。
ただグリアの言うように、私達が考えたところで、こちらから何かしらのアクションを起こせるわけでもないのよね。
それに何より、絶対に私は関わらせて貰えないわ。
交渉事が必要な時は、他の誰かが行くことになるでしょうね』
『つまり不貞腐れているんですね?
小春先輩はまるで子供のようですね。
先輩こそ、学園に通ったほうがいいのでは?』
そんなんじゃないやい!
「一度問題を整理しましょう。
一つ目の問題は王子の好意ですね。
二つ目が担任教師との確執。
三つ目がルイザという同級生に、アリアが喋りすぎてしまった事。
とりあえずはこんな所でしょうか?」
「アリアが好かれ過ぎてクラスの人気者になった事と、学園の全員を友達にしようと企んでいる事は良いの?」
「どちらもわざわざ議論する程の事でもありません。
正直言いたいことが無いわけでもありませんが。
ええ、本当に。あれ程目立つ事をするなと言い含めて置いたにも関わらずですからね。
とは言え、アリア本人に悪気が無かった事もわかります。
これは私達の考え不足でもありました。
正直、アリアの魅力を甘く見ていたのでしょう。
ですから、それを踏まえて後で二人で話をしましょうか、アリア」
「はい……ごめんなさい」
まあ、どっちもアリアに気を付けましょうとしか言えないか。
この場では、あくまでもアリア本人にどうにもならなそうな問題を話し合うべきだ。
「話を戻します。
先ずは一つ目の王子の件ですね。
アリアがあの国の王族と必要以上に関われば、否応なく目立つことになります。
まあ、これは今更過ぎる話でもありますが。
ともかく、このままでは身元を保証して下さったグリアさんのお母様にも、迷惑をかける事になるでしょう」
「そもそも、アリアちゃん達はどういう扱いになっているの?
身分の偽装でもしたの?」
あれ?お姉ちゃん知らなかったの?
「特に貴族的な身分は設定していませんよ。
単なる一平民として入学しただけです。
まあ、秘密裏に理事長の推薦を頂いた形ではありますが」
あと一応、国の管理も行き届いていないような、山奥にある寒村から来た事にしてある。
ルスケア領主に頼んで万が一のアリバイも用意してあるので、仮に調べられたとしても問題は無いはずだ。
だからまあ、敢えて身元を言葉にするなら、ルスケア領の端っこにある寂れた村からやってきた平民の娘って所だ。
なんか既に元王族だと口を滑らせちゃったらしいけど。
とはいえ伝えてしまった相手、ルイザちゃんの話を聞く限り、取り敢えずは問題無さそうだ。
ルイザちゃんは私の事まで口を滑らせたアリアに、これ以上私の事を喋らないようにと忠告してくれたそうだ。
それなりに賢い子のようだし、何よりアリアの味方でいてくれるのなら安心だ。
むしろ引き込んで協力者になってもらおうかしら。
現地の事情に詳しい子にアリアのフォローをしてもらえれば、より安心できるというものだろう。
『ラピス、お願いがあるんだけど』
『どうしたの?
わざわざ内緒話なんてして』
『取り敢えずノアちゃん達には内緒で動いてほしいからよ。
ルイザちゃんって子の事なんだけど』
『まさか狙う気!?
節操なしにも程があるわ!』
『違うわよ!そんなわけないでしょ!
アリアのフォロー役になってもらいたいだけよ!
ラピスにその下調べをしてほしいの!』
『なんだ、そういう事なのね。
びっくりしたわ。
わかったわ。
現地協力者ってやつね!
私はルイザが信用に足るか見極めれば良いのよね?』
『ええ、そうよ。
信用できそうなら、多少の情報を流しても構わないわ。
なんなら、一度ここに連れてきても良いわよ。
まあ、流石にその前にはノアちゃんにも相談する必要があるけど』
『なんで最初から相談しないの?』
『スパイをするなら秘密の方がそれっぽいじゃない』
いや勿論そんな理由じゃないけど。
単にノアちゃんが嫌いそうなやり口だから伝えないだけだ。
『わかったわ!その任務承るわ!』
ラピスが嬉しそうだからまあいいか。




