31-17.仲直り
私は深層で一頻りニクスとイチャイチャした後、ようやくニクスに外の様子を聞いてみた。
「それで探しに来たのね」
「迂闊すぎだよ。
ノルンとミーシャは引き込んでたなら、どちらかに私の見張りでもさせておけばよかったじゃん」
そんな事言ったって、ノルンとミーシャも研究成果は見たかっただろうし……
「いや、それはほら。
そこまでして隠したかったわけでもないし、ニクスにはむしろ……」
「思いつきで聞こえの良い事言わないでよ。
何も考えて無かっただけでしょ」
「ごめんなさい……」
「まったく。
本当に反省してよね」
「うん。もうニクスには隠し事なんてしないわ」
「まあ、それはそれで困るんだけど。
何でもかんでも共犯にされたら困るし」
「良いじゃない。
ニクスは私とずっと一緒に居てくれるんでしょ?
病める時も健やかなる時も寄り添ってくれるんでしょ?
例え世界が終わっても、一緒にいる努力を続けてくれるんでしょ?」
「それ言い出したらノア達もじゃん。
私だけ引き込まないで、ノアにも話してよ」
「絶対に認めてくれないわ」
「そうかな?
ノアは何だかんだとアルカに甘いから、最終的には認めてくれると思うんだけど。
というか、アルカもそれはわかってるでしょ?
本当は違う理由なんじゃない?
ノアがアルカに隠れて動いてるのが面白くないだけじゃない?
当てつけのつもりは無いって言い切れる?」
「……言えないかも」
「亀裂が広がる前にお互いに話し合った方が良いと思うんだけど」
そんな事言ったって、ノアちゃんは頑として話すつもり無いし。
「ニクスから見て、ノアちゃんの秘密は妥当だと思う?
本当に私に隠す必要があるの?
わざわざ軟禁してまで徹底する必要があるの?」
「それは答えられないよ。
けど、安心して。
ノアがアルカの事だけを想って動いているのは間違いないよ」
「そんな事はわかっているわ。
けれどそれで納得しろというのは乱暴過ぎるわよ。
私はノアちゃんの子供じゃないのよ?」
私の精神年齢云々は関係ない。
親が子にするように、心配だから、愛しているからと何も説明せずに押し付けるにしても、軟禁はやりすぎだ。
普通の親子だって拗れるに決まってる。
「アルカの気持ちもわかるけど。
ノアはアルカのやり残しを片付けようとしているんだよ。
アルカだってそれくらいの事は察してるでしょ?」
「こんな事は言いたくないけど、一方的に軟禁して、勝手に打ち切らせておいて、やり残しなんて言い草はあんまりじゃない?」
「それは……」
「私は見つけられなかったからって諦めたわけじゃないわ。
ノアちゃんが私を何かに近づけたくないと思ってくれているのだってわかっているのよ。
けれど同時に、状況を引っ掻き回してほしくないと思っているのも事実でしょう?
だからこそ私は軟禁を受け入れているの。
私だってノアちゃんの邪魔をしたいわけじゃない。
ノアちゃんの気持ちを無碍にしたいわけじゃないの」
「うん……」
「チハちゃんズは私の代わりにニクス世界を見て回るのよ。
私はこのまま引き籠もって大人しくしているつもりは無いの。
ノアちゃんが私を想ってくれているように、私だってノアちゃんを想っているの。
もし万が一、私の手の届かない所でノアちゃんに何かあったら後悔してもしきれないわ。
その万が一の為に私だって手を打っておく必要があるの。
私自身が出歩かなければ、落とし所として妥当でしょ?」
「うん……」
「これでもまだ納得いかない?」
「そうじゃないけど……」
「私とノアちゃんが仲違いする遠因になるんじゃないかって不安なのね?」
「そう……だよ」
「大丈夫よ、ニクス。
私とノアちゃんは何があっても別れる事は無いわ。
少しやりすぎて喧嘩することはあっても、絶対に袂を分かつ事だけはしないわ」
「うん……そうだね。
ごめん。気にし過ぎていたかも」
「謝らないで。
そんな必要は無いわ。
ニクスが悩んでくれるからこそ、私達は信じられるのよ。
ニクスだけじゃない。セレネが、レーネが、カノンが、他の誰かが私達の仲を取り持ってくれるの。
そう信じているからこそ、気兼ねなく喧嘩出来るのよ」
「程々にしてよ?」
「もちろん。別に率先して喧嘩したいわけじゃないもの。
時には必要な事だとも思うけどね」
「喧嘩するほど仲が良いってやつ?」
「そうよ。
私とニクスも喧嘩してもこうして仲直り出来るでしょ」
「さっきのは喧嘩じゃないよ。
私がアルカを叱ったんだよ。
ちゃんとわかってるの?」
「ふふ。ごめんなさい、ニクス。
ちゃんとわかってるわ。
それより、そろそろ戻りましょうか。
色々片付けたら、ニクス世界に戻ってアリア達にも謝らなきゃだしね」
「やっぱり早まったかなぁ。
全然反省しているようには見えないんだけど」
「もうニクスの事を仲間外れになんかしないわ」
「そっちもだけど、それだけじゃないでしょ!」
「勝手にチハちゃんズを結成した事なら、ニクスにはもう責める権利は無いわ。
あなたはもう私達の共犯者よ」
「開き直らないでよ!
私はまだそこまで切り替えられないよ!」
「なら取り敢えずは見て見ぬ振りをするだけで良いわ。
ノアちゃんの秘密を守るのと同じようにね」
「それを言われるとあれだけどさ……」
「大丈夫よ。必要以上に悩む必要は無いわ。
いざとなったらノアちゃんの側についたって構わない。
そうなったらそうなったで、ニクスを責めたりしないわ」
「そんな事しないよ。
これ以上裏切るような真似が出来るわけないでしょ」
「そんな風に考えなくて良いって言ってるんだけど。
まあ良いわ。ニクスはニクスの好きに判断なさい。
私はニクスに全ての情報を共有するだけよ」
「程々にしてよ!
私が聞いた時に素直に答えてくれるくらいでいいよ!」
「やっぱりダメよ。少し考え直したわ。
相談にも乗ってもらうし、力も貸してもらいましょう。
どうやってノアちゃんに気付かれないようギルドに送り込むか困っていたのよ。
ニクスに隠蔽してもらえばどうにでもなるわよね!」
「さっき見て見ぬふりするだけで良いって言ったじゃん!」
「だから考え直したんだって。
この際だから、少しくらい力を貸してくれても良いじゃない」
「何で突然……まさか!
チグサ!そこにいるの!?」
『あはは~
バレてもうた~』
「アルカ!!」
「しょうが無いじゃない。
連れてきちゃったんだし」
「さっきも?ずっと?」
『ずっといたよ~』
真っ赤になるニクス。
先ほど私とニクスがイチャイチャしている間も、私の中にはチグサが同化し続けていた。
正直今更珍しい事でも無いのだけど、それでも完全な二人きりだと思い込んでいた場合は別の話らしい。
ニクス可愛い。
それから暫くの間、ニクスは機嫌を直してくれなかった。




