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31-4.苦手科目

今回もアリア視点のお話です。





二限目の休み時間も一時限目と同じように、握手を繰り返している内に過ぎていった。


 どうやら皆歓迎してくれたようだ。

最初はともかく、後半の子達は何やら興奮したり、恍惚としながら近づいてきた。


 それに今度は全員の名前を聞くことができた。

これで友達が一気に二十人くらい増えた事になる。


 まだうちの家族より少ないわね。

というか、クラスメイト自体が家族より少ないのね。


 これは他のクラスの子達ともお友達にならなくちゃだわ!

いっそ、学園の子達全員とお友達になってみせましょう!



『授業に集中して、アリア』


『は~い』


 遂に見かねたラピスに注意されてしまった。

仕方ない。集中しよう。


 三限目は歴史の授業だ。

正直、既に何を言っているのか殆どわからない。


 この国の歴史なんて大して知らないもの。

過去の偉い人の名前や事件をポンポン出されてもついて行けない。


 とはいえ、全く勉強してないわけでも無いんだけど。

単に私が覚えていないだけな部分もある。


 予め多少は教えてもらったけれど、グリア先生自身も魔術の時ほどのやる気はなかったし。

いや勿論、グリア先生のせいになんてするつもり無いけど。

同じ授業を受けていたルカは全部わかるんだろうし。



「どうかね、アリア君。わかるかね?」


 どうしてどの先生も私に答えさせるのかしら。

これが新入りへの洗礼ってやつなの?

ラピスには全然聞いてこないのに。


 この国の十三代前の王様の名前なんて覚えて無いわ。

ここは素直にわからないと答えるしかなさそうね。



『ディミトリス七世よ』


 私が意を決した瞬間、ラピスがそう教えてくれた。


 どうしたのかしら。

ラピスがわざわざ教えてくれるなんて。

ラピスは優しいけど甘いわけじゃない。

勉強不足がバレれば、容赦なくお姉ちゃん達に伝えられて補習が決定すると思っていた。



『いいから早く答えなさい』


 私はラピスに急かされるまま、ラピスに教えられた名前を答える。


 初老の先生は満足そうに頷いて褒めてくれた。

どうやら正解らしい。

取り敢えず難を逃れたようだ。



『ありがとう、ラピス』


『今回だけよ』


『どうして今回は?』


『王様の名前を王族の前で忘れるわけにはいかないでしょ。

 しかも他の勉強は出来ているのに。

 そんなのかえって目立ってしまうわ。

 この国の人間じゃ無いって言ってるようなものだもの。

 あるじ達が目立つなと念を押していたからやむを得ずよ。

 言っておくけど、補習はやるからね。

 次からは自分で答えられるようにならなきゃダメよ』


 そんなぁ~


 そこからは真面目に授業を受けてみた。

ここでしっかり覚えておけば、補習も早く終るかもだし。


 とは言え、やっぱり難しい。

単純に興味が湧かない。


 何でこんな勉強が必要なのかしら。


 別に歴史を学ぶ意味が全くわからないわけじゃない。

過去の出来事を知る事で教訓とする。

その考えはわかる。


 それらの情景を正確に理解し共有する為に、当時の偉人達の名を知ることにも意味はある。


 それはわかるけれど、苦労と成果が見合っていない気がする。

回り道が過ぎると思う。

重要な事は過去の出来事から何を読み取り、何を学ぶかだ。

過去の出来事そのものじゃない。


 その学び自体を効率化して伝えていく方法を考える人はいないのかしら。

それが難しいから、歴史を学ぶ必要があるのかしら。


 フィリアス達みたいに、記憶を情報として抜き出して、保管して、直接共有していく方が手っ取り早いと思う。

記憶操作の魔術は確かに難しいけれど、不可能なわけではないはずだ。


 しかもそれなら、算術とかだってすぐに身につくだろう。

直接知識を共有していけば、勉強なんて一切必要無くなる。


 けれど、ミユキお姉ちゃんは認めてくれなかった。

それをすれば、何れ人では無くなるのだという。

フィリアス達と私達は、その在りようが違うのだから、同じに考えてはいけないと。

フィリアスだからこそ、そんな事をしても自己の境界が曖昧にならずに済んでいるのだと。


 よくわからない。

ラピスと私は同じだ。

目があり、鼻があり、耳があり、口があり、手があり、足がある。

当然他の部分だって全く同じだ。

実際、この場の誰一人として、ラピスの正体に気付いている者なんていないだろう。


 ラピスには寿命が無い。何れは私の寿命も無くなる。

ラピスも私と同じように、食べて眠って勉強して訓練して遊んでいる。

ラピスも私と同じように、笑って怒って泣いて喜ぶ。


 ラピスと私の何が違うんだろう。

ダンジョンで産まれた事?


 なら私は?

産まれた家の事なんて覚えていない。

本当のお母さんの記憶だってもう殆ど残っていない。


 アルカと出会ってから、もう四年近くになる。

最初に会った時は、まだ七歳だった。

ルカなんて四歳だ。


 私達にとって、お母さんよりアルカとの思い出の方がずっと多い。


 だから、私を形成するものの殆どは、アルカ達と出会ってからの思い出だ。

フィリアス達とどう違うのだろう?

ラピスとの違いなんてあるのかしら。


 私はラピスを妹だと思ってるのに。

人だとか、フィリアスだとかって分ける必要があるんだろうか。


 そもそも人らしさってなんだろう。


 私にとって、「人らしさ」とは制約でしかない。

それを理由に、行動を制限しているだけにしか思えない。


 実際それだけなのかもしれない。

方舟計画とパンドラルカの意図がわからないわけじゃない。

行動に制限をかけて、人から外れすぎないようにしたい。

それが、アルカ達の望みだ。


 あくまでも、アルカ達自身がそう望んでいるから、自らに制約をかけているだけだ。

本当にそれだけの事なのだろう。


 ただそれが、私にとっては窮屈にしか思えないだけだ。

決して勉強をサボりたいが為の言い訳なんかじゃない。



『言い訳してないで授業に集中して、アリア』


『言い訳じゃないってば!』


『アリアは賢いのに、おバカよね』


『ルカみたいな事言わないで!』


『アリアはルカの言う事を疑うの?』


『そんな言い方はズルいわ!』


『アリア、人の大人は割り切るものなの。

 何でもかんでも疑問を持って突き詰めようとはしないわ。

 だから、アリアがどうしてそこで止まっちゃうの?って思うような事でもそれ以上は進まないの。

 経験上、その先に意味がないとわかっているから』


『意味がない?』



『人らしさの話よ。

 そして、ラピスとアリアの違いの話しよ。

 この二つは関係があるようで、関係が無いの。

 ノア達は別にフィリアスを人として扱っても構わない。

 だからこそ、ラピス達を家族と呼ぶの』


『そしてラピス達にも部分的に人らしさを押し付けるの。

 けれど決して、徹底はしないの。

 家族としてのラピスにはルールを守らせる。

 けれど、ラピス達が意識を共有しても文句は言わない』


『だから結局、人らしさって個人差があるものなのよ。

 一括りに人らしさと言っても、種族的な違いはあるの。

 誰もフィリアスに血を吸うなとは言わない。

 リヴィに翼で空を飛ぶなとも言わない。

 幼い見た目のルネルにお酒を飲むなとは言わない。

 人魚のレーネに水中で呼吸するななんて言わない。

 ノアだって隠れて尻尾を舐めたりしてるのよ?

 どれも、アリアの思う人らしさとは違うでしょ?

 だから、人らしさとラピスとアリアの違いは関係ないの。

 だから、違いを突き詰めたりはしないの。

 だって、ノア達は皆で目指しているんだから』


『ノア達が守りたいのは、人間社会の一員という立場よ。

 エルフでも人魚でも、ドワーフでも獣人でも、勿論フィリアスでも無く、この世界で最も大きな社会を作り上げている人間達の中に混ざっていたいの。

 誰も彼も隣人が欲しいのよ。

 孤独になりたくないの。

 世界の中で孤立したくないのよ』


『アリアにもそうあって欲しいから、勉強を教えるの。

 だからこそ、こうして学園にも通わせているの。

 勉強だけでなく、隣人との関わり方を学んで欲しいの』


『人間の社会で隣人と関わるには、その国の歴史や風土を学ぶのは大切な事なのよ。

 アリアだって、自分を何も知らない人とよりも、自分をよく知ってくれている人との方が話がしやすいでしょ?

 それがどれだけ些細で取るに足らない事でも、知ってくれている方が嬉しいでしょ?

 家族と今日知り合ったばかりの友人とでは、話せる事が全然違うでしょ?』


『だからアリアも先ずは学んでみましょう。

 そうして相手に寄り添いましょう。

 努力して、仲間に入れて欲しいのだと示してみましょう。

 そうすれば、今度は手を振り払われずに済むかもしれないわよ?』



『うん……わかった。ちゃんと勉強するわ。

 もう授業終わっちゃったけど』


『……ごめん、長く話過ぎたわ』


『ううん。ありがとう、ラピス。

 ラピスが真剣に答えてくれて嬉しかった』


『……長々と話しておいてなんだけど、アリアなら要らない心配よね。

 むしろ好かれすぎて手を払われてしまったんだし』


『え?』


『何でもないわ。

 それより良いの?

 今度は自分から話しかけに行くんでしょ?』


『そうだったわね!

 行ってくるわ!』

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