31-3.陥落
今回もアリア視点のお話です。
近づいて来た子達が全員席に戻った所で、休み時間が終わって二限目が始まってしまった。
あの子達の相手をしているだけで、最初の休み時間はあっという間に過ぎていった。
私からも話しかけていきたかったけれど、次の休み時間に持ち越しだ。
二限目は魔術の授業だった。
これは私の得意分野だ!
座学の中では、唯一楽しい授業でもある。
何だかパズルみたいで面白いのだ。
それにグリア先生の教え方は特に上手だし楽しい。
そういえばグリア先生はどうしているのかしら。
ここ最近は全く会えていない。
どうやら、アルカ世界に引き籠もってしまったらしい。
そんなに居心地が良いのだろうか。
まあ、良いに決まってるか。
シイナが何でもしてくれるだろうし。
私も一回くらい試してみたい。
部屋でゴロゴロアニメを見て過ごし、お腹が空いたらシイナが何でも持ってきてくれる。
お菓子でもジュースでも好きな物を食べ放題、飲み放題だ。
それにルカにもノアお姉ちゃんにも怒られず、好きなだけ引き籠もれることだろう。
すっごく楽しそう。
でも寂しいかも。
やっぱりルカには居て欲しい。
一緒に横になってぎゅってしていたい。
二人で笑いながらアニメを見ている方がきっと楽しい。
何だかルカに会いたくなってきた。
ルカが側に居ないのは久しぶりかもしれない。
『ルカ、調子はどう?
上手くやってる?』
『アリア、授業中。集中して』
愛しの妹からの返事は素気ないものだった。
ちょっと悲しい。
『こっちは大丈夫。
心配してくれてありがとう』
そう付け足すルカ。
私の内心を察してくれたのかもしれない。
流石最愛の妹。ご褒美に後でキスしてあげよう。
「アリアさん」
「はい!」
いけない。全然授業聞いてなかった。
相変わらず授業の内容は初歩的な事だったのだもの。
まあ、それでも算術よりはマシだけど。
魔術大学の関連校だけあって、魔術には力を入れているそうだ。アルカがそんな事を言ってた。
魔術の授業の先生は年齢不詳の男の人だ。
何だか頭はボサボサだし、目の下には隈が出来ている。
引きこもりすぎて部屋から引きずり出されたグリア先生も、よくあんなふうになっている。
「この術式に足りないものを答えてくれるかな?」
黒板に書かれた術式を指す先生。
なんだろうこれ。
火炎球?
私の知ってるのとちょっと違うけど、多分間違いない。
だとすると足りないのは……
私は前に出てチョークを受取り、書き足していく。
やっぱり火炎球は速さが大切ね!
ここをこうして~
おっと!忘れちゃいけない大切なものがあったわ!
深雪お姉ちゃんがビジュアルも大切だって教えてくれたの!
火炎球は鳥の姿を模すのが必須だって!
お姉ちゃんのカ◯ザー◯ェニッ◯スは格好良いのよね!
ふふ。ルカは球じゃないってツッコんでたけどね。
あとは~
「もう良いよ、アリアさん。
素晴らしい知識をお持ちのようだ。
それに何より、とても魔術が好きなようだね」
先生が笑みを浮かべながらそう言った。
いけない。少し燥ぎ過ぎてしまったかもしれない。
アルカ達に散々やり過ぎないようにって言われてたのに。
まあ、実技じゃなければ大丈夫よね。
座学の方はむしろしっかり頑張るようにって言われてたし。
それにしても、この先生も魔術が大好きなのかも。
隈のせいで少し分かりづらいけれど、私の書き足した(というか書き換えた)術式を見て、楽しそうに笑っている。
そんな先生を見て、突然気が付いた。
あれ?グリア先生に少し似てる?
髪型とか隈とかじゃなくて、面立ちが?
もしかして、お兄さんとかなのかな。
後でグリア先生に聞いてみよう。
私はチョークを返して席に戻る。
また皆の視線に変化が生じた。
やっぱり燥ぎすぎてしまったのかも。
恥ずかしい……。
そこからは、私も真面目に授業を聞き始めた。
ちゃんと聞いてみると、この先生の授業もわかりやすい。
私にとっては既によく知っている事だったけれど、それでも楽しい時間だった。
そうして二限目があっという間に過ぎ去り、再び休み時間となった。
今度こそ!と、席を立ち上がろうとした所で、教室中の殆どの子達から意識を向けられている事に気付く。
それに一瞬気を取られた隙に、またも沢山の子達に囲まれてしまった。
しかも今度は前の倍以上だ。
殆ど教室中の全ての子達が、私とラピスを囲っている。
まあ、意識は私にしか向いてないんだけど。
ラピスは何故か気にされていないようだ。
なにか魔術でも使っているのかしら。
『そんな事してないよ。
アリアのせいでしょ』
『アリアが?
何もしてないよ?』
「アリアさん!あなた何者ですの!?」
甲高い声の女の子が代表して話しかけてきた。
金髪が沢山クルクルされている。
これがドリルってやつね!
ならこの娘も要注意対象だわ!
アルカがそう言ってた!
『それもアニメ知識だから参考にしちゃダメだってば』
ラピスは心配性ね。
大丈夫よ。すぐに仲良くなってみせるから!
『要注意の意味わかってる?
いえまあ、仲良くするだけなら良いのだけど……』
「アリアはアリアよ!
そういうあなたのお名前は?」
私は金髪ドリルちゃんの手を握って笑顔を向ける。
金髪ドリルちゃんも少し顔が赤くなったけれど、さっきの子達程ではない。
今度は女の子だからなのかしら。
「ぐっ……!
これが殿下達を射止めた手口ですわね!
ですがこの私には通じませんことよ!」
「流石です!ルイザ様!」
金髪ドリルちゃんの隣から、そんな声援が上がる。
どうやら、金髪ドリルちゃんはルイザというお名前らしい。
「あなた、ルイザって言うのね!
とっても可愛いお名前ね!
私の事は気軽にアリアって呼んでね!
これからよろしくね、ルイザ!」
「はうっ!」
ルイザの顔も真っ赤に染まった。
握りしめる私の手から自分の手を引っこ抜いて、胸元を押さえながらヨロヨロと離れていった。
突然どうしたのかしら。
胸が苦しいの?大丈夫?保健室行く?




