30-66.編入前夜
少し作戦会議を済ませた後、全員を引き連れて私世界の表層に戻り、私世界組を残してニクス世界に帰還した。
今度はハルちゃん、イロハ、チハル、ヤチヨ、ツクヨミの五人を同化させたまま、また大寝室に向かった。
アリア達の希望で、今日は家族の殆ど全員で寝る事になったのだ。
もちろん、セフィ姉達も一緒だ。
これはもう、今日は大人しく眠るしかない。
少し残念ね。
出来ればちょっとくらいイチャイチャしたかったんだけど。
アリア、ルカ、リヴィを侍らせて、再びベットの真ん中に寝転がる。
アリアは眠れるのかしら。
夕食前にたっぷり寝てしまっていたけれど。
「アルカ~」
案の定眠れそうに無いらしい。
甘い声を出しながら絡みついてきた。
私はアリア、ルカ、リヴィ、ラピスを連れて再び深層に潜り込む。
一時間程度なら大丈夫よね。明日に響かないよね。
どの道ノアちゃんには怒られるだろうけど。
「ふっふっふ~!」
深層のベットに転がると、何故かギラギラした目つきのアリアに迫られた。
欲求不満だったのかしら。
最近一緒に寝る事も少なかったし。
「今日は程々にね、アリア。
一時間くらいで戻るからね」
「大丈夫よ!すぐに考え直す事になるわ!」
私に覆いかぶさりながら、自信満々に宣言するアリア。
どうやら相当張り切っているようだ。
「本当にダメだからね。
明日何かあったら、私が怒られるんだからね」
「大丈夫だってば。
楽しんだ分、しっかり休んでから戻れば良いだけでしょ」
休んだらまた始めるくせに。
無限ループダメ絶対。
「全部で一時間までよ」
「こんなにいるのに無理に決まってるでしょ。
そうしたいなら四人も同時に連れてこないで、一人ずつにすればよかったじゃん」
アリア賢い。
いや、私がアホなだけか。
全員纏めてだと、確かに一時間じゃ足りないだろう。
何故気づかなかったのか。
いやまあ、私がハーレムの気分だっただけなんだけど。
「アルカが悪い」
いつもならアリアを窘めるはずのルカにすらも言われてしまった。
「アルカかんねん!」
リヴィも飛びついてきた。
さっきのでは足りなかったのかもしれない。
「待ってあるじ。
こういうのラピスは良くないと思うわ。
ノアと互いにコソコソしあってないで、ちゃんと話し合うべきだと思うの。
怒られなければ、バレなければいいなんて考え方は最低だわ。
もちろん、内緒話そのものがダメって話じゃないの。
少し話す程度ならともかく、本気で何日も籠もるのはダメだって言ってるの。
このままだと、あるじは流されてしまうでしょ?
絶対にそんなの認めちゃダメ。
本当ならあるじが皆のお手本にならなきゃいけないのよ?
なのに、率先して引きずり込むのは間違ってるわ」
突然ラピスから本気の説教が飛んできた。
ラピスの言葉で、アリアとリヴィも距離を取る。
私も体を起こして、ラピスに向き直る。
「そうね、ごめんラピス。
ラピスの言う通りね」
そんな事を言わせてしまってごめんね。
ありがとう、ラピス。
「あるじ!」
「皆もごめんね。自分勝手に引きずり込んで。
どうしても我慢できなくなっちゃって。
悪いけど今日は少しお話するだけにしましょう。
また今度、皆の新しい生活が落ち着いたら、ちゃんと時間を取るから。
今度はそれぞれと二人きりでね」
「そうね。
ラピス。アリアもごめんなさい。
調子に乗りすぎました」
「ごめんなさい」
アリアの後にリヴィも続いた。
私達は改めて話を始めた。
普段の訓練の事や、翌日からの学園生活について、穏やかな気持ちで会話を続ける。
「アリアは本当に気を付けてね。
やり過ぎはダメだよ。
周りをよく見て、他の娘達に合わせてね」
「わかってるってば~。
もうノアお姉ちゃんにも何度も言われたんだから~」
アリア達が通うのは魔法大学と共同運営されいる学園だ。
当然、魔法に関する授業も存在する。
今のアリアが本気を出せば、教師達ですら遠く及ばないだろう。
少しばかり力を与えすぎたかもしれない。
アリアは天性の才能でスポンジのように吸収していくので、ルネルもノアちゃんも深雪お姉ちゃんも、そしてニクスすらも気合が入りすぎてしまった。
結果、齢十にして魔法も武術も万能なハイスペック幼女と化した。
まあ、その分勉学の方は微妙なんだけど。
いや、やる気さえ出せばそっちも完璧なんだけども。
ルカは逆に勉学の方が完璧だ。
カノンやお姉ちゃんが用意する筆記試験もほぼ必ず満点を取っている。
代わりに、戦闘に関する事は程々だ。
現時点でも普通の戦闘職の大人以上には戦えるだろうけれど、上位のSランクとかが相手だと厳しいかもしれない。
もしかしたらアリアは愛しの妹の領分を侵さないように気遣っているのかしら。
うん。無いわね。
アリアはそういうタイプじゃない。
もし満点取ったら笑顔でルカに褒めて貰いに行くタイプだ。
ルカの方がお姉ちゃんっぽい。
ちなみにリヴィはアリア以上の天才枠だ。
そもそも種族が違うんだから比較しても仕方ないけど。
「本当に不安なのよ。
アリアは唯でさえ目立つんだから。
いい?変な人が近づいて来たら必ずラピスに任せるのよ?
決して自分で解決しようとはしないでね」
「それも何度も言われたわ!」
「それだけ皆心配しているのよ。
アリアの事が心配で心配で堪らないの。
みんなアリアが大好きなんだから」
「それもわかってる!
アリアも皆大好きよ!」
「二人でイチャイチャしすぎ。
ルカも混ぜて」
「ルカはずっと抱っこされてるじゃない!」
「それならリヴィも。
アルカの背中にずっとくっついてる」
「なんだか、あるじの背中に翼が生えてるみたいね。
ラピスも生やしてみようかしら」
「そう言えば、ハルちゃんの竜◯人計画はどうなったのかしら。
どうせならラピスも教えてもらってみたら?」
翼も生えると思うよ。
「ママの研究は少し怖いわ」
ごもっとも。
下手をすると、嬉々としてラピスを実験台にしかねない。
万が一顔だけドラゴンになったらどうしましょう。
「リヴィのまねっこ?」
「うん。たぶんそう。きっとそう」
「?」
私の曖昧な答えに、リヴィが疑問符を浮かべる。
いや、ほら、もしかしたらドラゴン以外の要素も加えちゃうとか、竜◯人とか関係なく新しいドラゴンを生み出すとか、別方向に研究が発展している可能性も無くはないから。
「あるじ、ママの事はしっかり監督しておかなきゃダメよ。
いくらノアに預けてるからって、放置して良いわけじゃないからね」
仰るとおりです……。
「そういえば、ルカ、クルルは?
どうして出てこないのかしら」
今もルカの中にいるはずよね?
「いじけて寝ちゃった」
「え?」
「アルカが忘れてたから」
「ごめんなさい……
ルカは何で教えてくれなかったの?」
「クルルが言ったの。
アルカが自分で気付くまで言わないでって」
「ごめんなさい……」




