30-62.センス
私達はとある国の王都にある大型雑貨店に移動し、何グループかに別れて好きな物を探し始めた。
「アルk、コハル!これが欲しいわ!」
ギリギリ言い切る直前で思い出してくれたようだ。
とはいえ、そのよく通る声でそこまで言っちゃうと手遅れだ。
まあ、多少は仕方ない。
「良いけど、それ何?」
アリアが何かを手に持って戻って来た。
私はアリアから品物を受け取って、改めてよく見てみる。
カバン?
何だか変な形をしている。
なんだこれ?まさか猫なの?
だとすると、これは耳と尻尾なのかな。
まるでよくわからないアートのように崩れた猫だ。
そう言われると辛うじて納得出来る。
「本当にこれが良いの?」
「うん!とっても可愛いわ!」
そう?
アリアってたまに独特なセンスを発揮するのよね。
前にも、こんな風に木彫りの兎っぽい人形を持ってきた事があったっけ。
あれもなんとも言えない造形をしていた。
懐かしい。
確か未だに枕元に置かれて大切にされているはずだ。
まあ、アリアが気に入ったならいいか。
「アリア、それ可愛くない」
ルカ、容赦ない。
「そんな事無いわ!
ね!ア、ルカ!」
諦めないで、アリア。
コハルって呼んでってば。
さて、どう答えたものか。
正直、私もルカと同意見だ。
ぶっちゃけ可愛いとは言えない。
とはいえ、ハッキリ言うには心苦しい。
仕方ない。ここは上手く言い逃れよう。
「猫って可愛いわよね~」
「猫じゃないよ!兎だよ!」
しまった。ノアちゃんじゃなくて、ルビィだったか。
あれ?じゃあ、この尻尾と耳は?
「コハル誤魔化してる。
カバンの事は答えてない」
ルカたん鋭い……
「コハ、アルカ!どっち!可愛いでしょ!」
もうグダグダね、アリア。
「この尻尾は可愛いわ!」
「それ耳だよ!」
あれ?
もう片方は?片耳なの?
というか、耳だと思ってたこっちは何?
尻尾が二又なの?
「それはリボンでしょ!
耳はここ!」
片耳はショルダーストラップに描かれた模様なの?
じゃあ、もう片方のストラップの模様は尻尾?
こっちもグダグダだぁ。
「なるほど?
そう言われると兎にしか見えない……ような?」
「正直に答えてる?」
「まあ良いじゃない、ルカ。
アリアならどんなカバンだって可愛いわ」
「でっへへ~」
「……お揃いが良かったのに」
「大丈夫よ。ルカにも似合うわ」
「嬉しくない」
ですよね~。
「そもそも同じ物なんて無いよ」
まあ、一品物感はある。
そもそも、現代日本みたいに同じ物ばかりでもないし。
「仕方ないわね!
ルカに似合うのも私が選んであげるわ!
さあ!行きましょう!」
ルカの手を引いて走り去るアリア。
お客様、店内ではお静かに。
『ツクヨミは何か探してみなくていいの?』
『少々人の多い場所は好かぬのです』
『ツクヨミにも意外な弱点があったのね』
『お恥ずかしい限りです』
『別にそんな風に思う必要は無いわ。
気にしないで休んでいて』
『感謝致します、アルカ様』
さて、他の娘達はどこかしら。
なんだかいつの間にか一人になってしまった。
厳密には三人か。イロハもツクヨミも中にいるし。
各々、好きなように気になる物を物色している。
セシルはレーネに付いて行った。
ちゃんと私の意図を汲んでくれたようだ。
それにセシルなら万が一の危険も無いだろう。
リヴィとエリスも一緒に行動しているはずだ。
あの二人にはイリスも付いている。
こっちも安心だ。
アリアとルカには、当然ラピスとクルルも付いている。
後は、コマリとヤチヨはどこかしら。
リヴィ達に付いて行ったのかな。
むしろあの二人が一番心配かも。
まあ、お菓子屋の後にしっかり言い聞かせておいたし大丈夫だろう。
きっとたぶん。




