30-57.今更
朝食を済ませた私は、最初にハルちゃんとチハルに会いに来た。
二人は未だ私世界に残っていたようだ。
チハルの過ごしていた部屋で、二人仲良く抱き合ってスヤスヤと寝息を立てている。
可愛い。
昨晩は随分と遅くまで起きていたのだろう。
ハルちゃんも普段なら寝坊なんてしないのに。
このまま二人の寝顔を見つめていたいけれど、そろそろノアちゃんが仕事に出る時間なので、渋々起こすことにした。
「ハルちゃん、起きて~」
「zzz」
「ハ~ル~ちゃ~ん!
起きないとチューしちゃうよ~!」
だからなんなんだろう。
今更それがなんの脅しになるんだろう。
自分の言葉に、思わず内心でツッコミを入れてしまう。
「zzz」
とはいえ、仕方ない。
口にしてしまった以上は、実行せねば。
口だけに。
アホな思考を中断して、ハルちゃんの唇に視線を向ける。
ちょっと角度が悪い。
抱き合っているチハルが干渉して、ハルちゃんにキスするのは難しい。
ハルちゃんを抱き寄せ魔法で転移させるという手もあるけど、ここは敢えて別の手段を選ぶ事にした。
先にチハルを起こすとしよう。
幸い、チハルにならキスできそうだ。
何が幸いなのだろう……
チハルの方が体が大きいので、厳密には抱き合っているというより、チハルがハルちゃんを抱きしめている体勢だ。
私はチハルの顔を少し傾けて顔を近づけた所で我に返る。
私は一体何をやっているのだろう。
何故、寝ている愛娘の唇を奪おうとしているのだろう。
感覚が麻痺しているのではなかろうか。
チハルとは昨晩出会ったばかりだ。
昨晩名付けて、認知したばかりだ。
だというのに何故いきなり手を出そうとしているのだろう。
「小春母様?」
「!?
おはよう、チハル」
「中断?」
「え?」
「接吻」
「中断?」
「あはは~何の話かな~」
バレて~ら。
「起床」
「拒否」
「接吻する」
「宣言」
「起きてたの?」
「肯定」
「されたかったの?」
「肯定」
「そっかぁ~」
それならまあ、やぶさかでも。
「ダメ」
「チハル」
「むすめ」
「てをだす」
「きんし」
ハルちゃんNGが出た。
「おはよ、ハルちゃん」
「横暴」
「母」
韻を踏んでるの?
「しかたない」
「チハルたいせつ」
「母過保護」
二人合わせて俳句にならないかな。
五七五だけど季語無いからだめか。
「むむ」
「はんこうき?」
「否定」
「従順」
それはそれでどうなの?
「って、そんな事よりハルちゃん!
ノアちゃん出ちゃうよ!
寝坊だよ!」
「おはよう」
「ちゅー」
寝起きのキスをせがむハルちゃん。
先ほどチーちゃんにダメって言ったばかりなのに。
そういうとこだぞ、ハルちゃん。
「母!」
「意地悪!」
「そうよ、ハルちゃん。
チーちゃんに禁止するなら、眼の前ではしないわ」
「むむ」
「こまる」
「チハル」
「ずっとそば」
「キスできない」
「許可要請!」
「ダメ」
「だんかい」
「ひつよう」
「ハル」
「がまん」
「しかたない」
「妥当」
「承認」
そう言いながらも、チーちゃんは不服そうだ。
まさに、渋々納得したという感じだ。
まあでも、ハルちゃんの言う通りだ。
いくらフィリアスが私に好意を持つとは言え、段階を踏むのは必要な事だ。
先ずは順当に仲良くなるところから始めよう。
取り敢えず話が纏まった所で、ニクス世界に移動する。
そのまま、ハルちゃんとチーちゃんをノアちゃんに預けた。
チーちゃんズの結成式は今晩隙を見て深層で行うとしよう。
今晩はアリア達とも過ごしたいし。
やっぱり予定詰め込み過ぎじゃないかしら。
まあでも、明日からはもう少し暇になるものね。
今日一日、しっかり頑張ろう。
それから、セフィお姉ちゃん達とデートに向かうための準備を始めた。




