30-54.すてごろ巫女
「ツクヨミは何か武器は使うの?
薙刀とか似合いそうよね」
「武具の類は用いません。
鍛え上げたこの身一つ。それで十分でございます」
「ステゴロ?」
「"すてごろ"にございます」
脳筋ジャンキーステゴロ色欲巫女に進化した。
属性過多が過ぎない?
欲望に忠実なだけかも。
「ルネルに挑んでみる?」
「是非に」
即答だった。
ハルちゃんズ入りしたかったのって、それが一番の理由だったりしないわよね?
「そう言えば、ツクヨミとイロハって付き合い長いの?」
「ええ。イロハ様は良き目標であり、好敵手かと」
え?
『一方的に挑んでくるのよ。
本当にしつこいのなんのって』
道場破り?
「結局一度も土を付ける事は叶いませんでした。
何れまた、"りべんじ"の機会を頂きたく思います」
『嫌よ。二度とごめんだわ。
今なら他に相手もいるんだし、私じゃなくてもいいでしょ』
「イロハから見てツクヨミはどう?強い?」
『私と殆ど互角よ。
力の差でゴリ押してただけで、技術だけなら私より上ね』
「ご謙遜を。イロハ様」
うへぇ~
ツクヨミってそんなに強いの?
まあ、イロハはそもそも戦闘特化の娘でもない。
ダンジョンコアの制御とか、戦闘以外の技術もずば抜けている。
本人の性格的にもどちらかと言うと、研究職の娘だ。
元々戦いを好んでいるわけでもない。
とはいえ、それでもフィリアス最強は間違いなくイロハだ。
そのイロハをして、自分と同等の強さを持っていると言うのだからツクヨミも相当なものだろう。
『ツクヨミがそう産まれた事にも一応理由があるのよ。
ツクヨミは私が産み出した娘じゃないわ。
コアが産み出した、私に対抗する為の存在だったのよ』
「どういう事?」
『どうもこうもないわ。
まだ私が掌握しきれてなかった頃に生まれた娘なの。
あの頃、世界にはまだいくつかのコアが存在していたわ』
「過ぎた話でございます。
それに、私は一度たりともそのような意図で挑んだ事はございません」
『そうね。
コアにとっても誤算だったでしょうね。
ツクヨミの我が強すぎて制御できなかったのだもの』
何でイロハはツクヨミにトドメを刺さなかったのかしら。
まあ、イロハならやらないか。同族相手に。
誰よりも優しい娘なのだし。
『そんなんじゃないわよ、バカアルカ』
可愛い。
ツクヨミの事情を知ったのも、コアを制御してからなのだろう。
その頃には、それなりに情も産まれていたのかもしれない。
まあ、そうでなくとも始末したりはしなかっただろうけど。
あれ?
それなら、私がイロハに挑んだ時も、ツクヨミが本気で力を貸してくれていればもう少し楽に勝てたんじゃないの?
いやまあ、そんな関係なら望まないか。
ツクヨミ自身の力で勝ちたいんだろうし。
「ツクヨミは何でシーちゃんに従って捕まったの?
撃退できたはずでしょ?」
「理由はいくつかございます。
アルカ様から感じる力に圧倒された事。
そこから、世界の生末を理解した事。
何より、飽いていたのでございます」
「でもイロハにはまだ勝ててなかったんでしょ?」
「イロハ様は滅多に相手をしてくださらなかったものですから」
『百年に一度なら十分でしょ』
「足りませぬ」
まさか、私に近づく為だったの?
わざと捕まって、側まで寄って、挑んでみるつもりだった?
あのタイミングで挑まれてたら最悪だったわね。
唯でさえ、イロハとの戦いもギリギリだったのに。
「何で私には挑まなかったの?」
「我々との契約によって日増しに力を増していたからでございます。
どうせならばもう少しばかり様子をと判断致しました」
私が一番強くなるタイミングを狙ってたの?
けど同化した事で気が変わったのかしら。
戦うより、力になる事の方が楽しくなちゃったのかも。
それでも、イロハとの戦いには手を出さなかったのね。
まあ、気持ちはわからないでもないんだけど。
「今はどう?」
「お許し頂けるならば是非」
『フルモードでいきなさい』
「え?」
『ツクヨミなら良い実験台になるわ』
「望む所でございます」
「なら今度ハルちゃんにも相談してみましょうか」
そう言えば、ツクヨミ達も契約更新しなきゃだわ。
いっそ全員まとめて出来ないかしら。
そっちもハルちゃんに相談してみよう




