30-51.再誕
「それで明日はどうしましょうか。
皆で集まれるのは明日を逃したら暫くは無いから、家族全員で何か出来ないかしら」
また遊園地でも良いかもだけど、もう少し何か皆でできないかしら。
「先ほどの明日次第でとはそういう意味だったのですか。
何で今更そんな事を言い出すのです?
今日のイベントがそういうものだったのでは?
明日は一日ゆっくりして、入学に備えさせるのだと思っていました」
呆れた口調で答えるノアちゃん。
「……そうなの?」
「何でアルカが把握してないのよ。
というか、誰も計画してないんだから気付きなさいよ。
まったく。こんな土壇場に何を言い出すんだか」
セレネにも呆れられてる……。
「でも、ほら。
コマリ達が皆と交流する機会はもう少しあった方が……」
「なら買い物にでも行ってきて下さい。
明日だけ特別に許可をあげますから」
「え!?良いの!?」
ノアちゃんから言い出してくれるなんて珍しい。
「当然、変装してですよ。
それに、昼過ぎから夕飯前までの数時間だけです。
必ず早く帰ってきて、子供達に十分な休息を与えて下さい」
それでも十分だ。
また爺さんの店を冷やかしに行くか、学園で使えそうな小物を探しに行っても良い。
「全員で行くの?
流石に多くない?」
「いえ、行くのはアルカと新人組、あと学園組だけです。
まあ、それでも十分多いですが」
そうね。確かに。
今のところ学園組四人、新人組四人、プラス私で計九人か。
新人組とラピスには、場所次第で同化してもらうとしよう。
「セフィお姉ちゃん達にも来てもらって良い?」
「一緒に行くのは止めておきましょう。
セフィさん達とは午前中に行ってきて下さい。
時間も短いので、それぞれ目的を絞るべきでしょう」
これって新人組の親睦会というより、私と出かける事の方が主目的なの?
アリア達が入学して寂しくなるから、その前に少し想い出を作っておこう的なやつかしら。
まあ、確かにそれはそれで重要だ。
というか、今日もそろそろ切り上げて合流したいくらいだ。
アリアとルカ、それにリヴィは既に部屋に戻っている。
今晩はあの娘達に混ざろうと思っていたのだ。
とはいえ、流石に難しいかしら。
この後、レミィへの名付けと契約もある。
少し話をする必要もあるだろう。
それはそれで重要だ。
うん。
やっぱり、あの子達に混ざるのは明日の夜にしよう。
午後からずっと一緒にいれば、十分に時間はある。
「私はそれで構わないよ。
どこに連れて行ってくれるの?」
既に乗り気なセフィお姉ちゃん。
午前組の他のメンバーは、レヴィとルビィかしら。
ルビィが来るならセレネも同行するわね。
そうすると何処に行くべきかしら。
既に生活に必要な物は揃っているし、服も仕立て券がある。
他には何が必要かしら。
「指輪でも作りに行く?」
「ふふ。良いよ。
私も仲間に入れてくれるんだね」
「まったく。二人とも何を言ってるんですか……」
「そうよ。そんな雑な誘い方無いわ。
求婚するならもっと相応しい場を用意しなさい」
「そういう意味じゃありません!」
まあ、適当過ぎたのは認めるわ。
とはいえ、なんかセフィお姉ちゃんとそんな雰囲気になる場面は想像出来ないわね。
そんな状態で求婚しているのは確かに不誠実過ぎたけど。
「皆、悪いけど中座させてもらうわ。
そろそろクレアと変わってこなきゃ。
小春、程々になさいよ」
「え?こんな時間から何処に?」
「何時もの所よ」
何時もの所?
って敵の拠点とやらよね。
え?クレアが行ってたの?
クレア、ごめん。
付き合い悪いとか思って。
今度お詫びに指輪でも贈ろうかしら。
要らないか。
「いってらっしゃい。お姉ちゃん」
「うん。いってきます」
お姉ちゃんが抜けたのをキッカケに、私達も解散する事になった。
私は解散した後、私世界のシーちゃんの船にある一室に向かった。
部屋の中には、レミィが一人で待っていた。
既にハルちゃんが指示を送っていたのかもしれない。
「レミィ。これから貴方に新しい名前を贈るわ。
受け取ってくれるかしら」
ニコニコと私を見上げるレミィ。
オーディションの時の様子を見る限り、全く喋れないわけではないのだろうけど、どうやら今は声を聞かせてはくれないようだ。
先ずは契約を済ませるとしよう。
それで諸々の問題も解決するのかもしれない。
私が指を差し出すと、レミィは迷いなく咥えこんだ。
「レミィ、あなたの名前は、今から千春よ。
ハルちゃんと私の娘として、これからよろしくね」
私の言葉に合わせて、レミィ改め、チハルが私の指に歯を立てる。
何時ものように、レミィの体を光が包み込む。
どうやら契約は上手くいったようだ。
何時もと違う流れだったから、ほんの少し不安もあった。
「チハル?大丈夫?
おかしな所はない?」
「問題ない」
チハルの口から言葉が紡がれる。
「チハル」
それでもまだ、心配そうにチハルの顔を覗き込むハルちゃん。
「大丈夫」
「心配ない」
「母」
「元気出す」
「ママ」
「よんで」
「拒否」
「母は母」
「むう」
「はんこうき?」
「違う」
「ならよぶ」
「拒否」
「むう」
「何だかハルちゃんみたいな話し方ね」
「肯定」
「母」
「尊重」
「ハルちゃんの事が大好きなのね」
「肯定」
「てれや?」
「否定」
「ならママ」
「よぶ」
「拒否」
「頑なね。
私の事はなんて?」
「……」
「小春」
「ママ」
「!?」
ハルちゃんが思いっきりショックを受けている。
「今のは冗談?
それとも、意地悪?」
「冗談」
「チハル」
「いじわる」
そう言いながら、私にしがみついていじけるハルちゃん。
可愛い。
「母」
「被虐趣味」
喜ばそうとしたの?
じゃあ、やっぱり意地悪の方じゃないの?
「多分、そういう方向性は望まないと思わうよ」
「驚愕」
「失敗?」
「しっぱい」
「ふつうにして」
「チハル」
「ハルのこと」
「あまやかす」
「めいっぱい」
「合点」
「それで良いの?
ハルちゃんがお母さんじゃなかったの?」
「?」
「ママだから」
「だよ?」
何故か素でキョトンとするハルちゃん。
どうやら本気で言っているらしい。
まあ、良いか。そういう親子がいても。
「さっそく」
「チハちゃんズ」
「かおあわせ」
「ううん。それはまた明日にしましょう。
それより、折角お話出来るようになったんだから、ハルちゃんとチハルの二人きりで過ごしてみたら良いと思うの。
私はコマリ達と会ってくるわ」
「小春母様」
私の腕を掴んで引き止めるチハル。
「どうしたの?」
「名前と契約」
「感謝する」
「ふふ。喜んでもらえたなら何よりよ」
「肯定」
「嬉しい」
「三人だけ」
「特別」
「そうね。私達だけの繋がりよ」
「ハル」
「チハル」
「コ、アルカ」
「何で途中で訂正したの?」
「いわかん」
「ふふ。何よそれ」
「千春」
「小春母様」
「ハ、母」
「むう」
「違和感」
「ぷっふふ。
二人揃って何言ってるのよ。ふふ」
「すこしきょういく」
「ハルをからかう」
「ゆるさない」
「大人げないわよ、ハルちゃん」
「むすめ」
「ぜったいふくじゅう」
「拒否」
「むむ」
「二人とも仲良くしてね~」




