30-45.内緒話
私達が親睦会会場に戻ってきても、特段騒ぎになっているような事も無かった。
まあ、当然か。誰も気付けない程の一瞬だったのだし。
とはいえ、本当に皆無なわけでもない。
ハルちゃんのように常に私の意識を覗いているような子であれば、私の意識に差がありすぎて状況を把握するのも容易い筈だ。
それに、今回はノアちゃんの行動もある。
元々人目を引いていたのは間違いないだろう。
そのノアちゃんが一瞬で大人しくなり、私から離れているのだ。
他の子達には瞬間移動したように見えたんじゃないかしら。
これも仕方がない。
体感三日前の体勢を忠実に再現するのは難しい。
なので、ノアちゃんは本来の席の位置に戻した。
まあ、大体の子は私達の情報をある程度把握しているみたいだし、何があったのかは察してくれる事だろう。
ノアちゃんの酔い方も既に知っていたのだろうし。
親睦会は何事もなく進行していく。
カルラ、フェブリ、シオン、リリカ、アメリの五人も、私達に挨拶に来てくれた。
その際、ノアちゃんの事に言及する者は誰もいなかった。
うむ。やっぱり皆良い子なのね。
欲しいな~側に置きたいな~
私の個人的な手駒にどうかしら。
家族として迎えるのには許可がいるけど、それくらいなら内緒でも良いかな。
ダメかな……。
でもなぁ……。
『ハルのぶたい』
『つくる』
『レミィ』
『もんだいあり』
『ハルちゃんズ』
『べつどうたい』
『ごにんは』
『そのメンバー』
『レミィのほさ』
『どう?』
『ハルちゃん!!!ありがとう!!
是非お願い!』
『おけ』
『なら』
『なまえかんがえる』
『ぶたいめい』
『あと』
『レミィも』
『アルカ』
『なづけて』
『え?なんで?
もうレミィって可愛らしい名前が付いているじゃない』
『じっけん』
『レミィふかんぜん』
『アルカとのけいやく』
『ひつようかも?』
『それに』
『たんじゅんに』
『つけてほしい』
『アルカに』
『なまえ』
『ハルの』
『かわいい』
『まなむすめ』
『本当に良いの?
ハルちゃんがそれで良いなら、私は構わないけど』
『おねがい』
『かわいいの』
『つけてあげて』
『がってん!』
『ありがと』
『けれど、レミィの事はこの親睦会が終わって落ち着いてから、ゆっくり考えましょうか。
先ずは別働隊の話を進めてみましょう。
折角目の前にいるのだし、打診しちゃいましょう。
ついでに少し打ち合わせもしておきたいわ。
少し念話で内緒話するだけだけど』
『おけ』
私はハルちゃんと別働隊の大枠を固めていく。
ハルちゃんズ遊撃隊(仮)には、ニクス世界に出てもらって私とハルちゃんの個人的な手駒として動いてもらう事にした。
まずやってもらいたいのは、パンドラルカの縮小版だ。
メンバー六人で、世界中の情報を集めてもらうつもりだ。
様々なところに潜入してもらうとしよう。
先ずはギルドかしら。
これはノアちゃんにバレないような対策が必要だ。
シーちゃん達にも相談してみよう。
この件に関してハルちゃんはあくまでも中立の立場だ。
私にノアちゃんの情報を直接教えてくれる事はないけど、私がノアちゃんをというか、ギルドを探るのを止めたりはしない。
ただ、ハルちゃんが付いてさえくれれば、私の思考配信を上手く誤魔化してくれるはずだ。
ルチア達に筒抜けだと、ノアちゃん達に内緒にするのは難しいのだ。
ノアちゃんの情報を知るのはあくまでも副次的なものだ。
そういう建前は必要だ。
私は私なりに、家族の為に力を尽くすだけだ。
流石にこの件でノアちゃんが私を責めるのは無理がある。
ノアちゃんも私に隠し事をしているのだから。
そもそも、私はノアちゃん自身からギルド絡みの事なんて聞いていないのだから。
そう、自分に言い訳して方針を定めていく。
これらの仕事自体も、遊撃隊(仮)の皆と接点を持ちたいが為のこじつけが発端だ。
しかも、名目上はハルちゃんの個人部隊だし。
まあ、ハルちゃんのものは私のものなんだから、問題なかろう。
別にジャイアニズム的なやつじゃなくて、ハルちゃんと私は二人で一人という意味だ。
なんかこれ、最近都合の良い時しか言ってない気がするけど、ともかくあの娘達は私の部隊だ。私の手駒だ。
ハルちゃんの部隊という名目は、何かあった時の言い訳の為のものだ。
建前とも言える。
ハルちゃんは、防波堤の代わりをしてくれると言ってくれているのだ。
私がノアちゃん達に責められる時は、自分が身代わりになると言ってくれているのだ。
少し卑怯な気もしないではないけど、ありがたく頼らせてもらう事にしよう。
私とハルちゃんの仲だ。今更遠慮などするはずもない。
という事で、早速本人達にも打診を開始する。
有り難いことに、全員が参加を希望してくれた。
良き良き。
となると、先ずは名前をちゃんと考えよう。
それと、改めて第一回会合の場も用意せねば。
なんだか楽しくなってきたわね。
やってほしい事はいっぱいあるのだ。
アリア達の学園にも、教師として一人送り込みたい。
むしろ私が自分で行きたいところだけど、流石にそこまで時間があるわけでもない。
例え最近、半ば家に軟禁されているだけとは言えだ。
なんか、ノアちゃんが外出を嫌がるのよね。
私が出歩けば、事件の方から来るなんて言うのよ。
まるでトラブルメーカーみたいじゃない。
失礼しちゃうわね。
『じじつ』
『おとなしく』
『ひきこもる』
『いまは』
『しふくのとき』
『至福?雌伏?』
『こうしゃ』
『だよね~』
いやでも、至福の時間でもあるよ?
可愛い娘達にチヤホヤされてるだけでもあるんだから。
皆、私の事が心配だから、閉じ込めて危険から遠ざけたいんでしょ?
それくらいわかってるもの。
これが幸せでなくて何だと言うのかしら。
『ならおとなしくする』
『ゆうげきたい』
『アルカのめになる』
『みみになる』
『じょうほうとどけて』
『たのしませる』
『そうつかう』
『そのあいだ』
『アルカは』
『たんれん』
『がんばる』
『しんらい』
『かちとる』
『アルカならだいじょうぶ』
『おもわせる』
『ハルちゃんはどう思ってるの?』
『ぐもん』
『しんじてる』
『いつだって』
『ふふ。ありがと、ハルちゃん』
『共通回線でイチャイチャしないでくれない?』
痺れを切らして苦言を呈するリリカ。
良いよね。初っ端から上司に食ってかかれる子って。
そういうガッツは大好きよ。
『私達と打ち合わせ中なのを忘れているのでしょうか』
少し戸惑っているアメリ。
良い子なアメリは突然始まった私とハルちゃんのノリに付いてこれていないようだ。
それでも言いたい事は言える芯の強い娘だ。
『お二人共、失礼ですよ我らが主に向かって』
シオンは誰より私達に尽くしてくれそうだ。
口数は少ないけれど、言葉の隅々まで私達への敬意が溢れている。
流石パーフェクトメイドさん。
『アルカ、ハル大好き~』
無邪気なフェブリは何故か嬉しそうだ。
可愛い。
この子外出して大丈夫?
飴貰ったらついて行っちゃわない?
『アルカ様!これ美味しいよ!
アルカ様も食べてみて!』
自分のテーブルに付いたまま、私に向かって骨付き肉を掲げるカルラ。
カルちゃん、ダメよ。降ろしなさい。
お行儀が悪いし、今は内緒話しているのよ。
そんなアクションしたらバレちゃうじゃない。
少し不安も無くはないけど、皆良い子たちだ。
早く部隊名を考えなきゃ。
もっと可愛いのが良いわね。
それに、遊撃隊というか諜報部隊とかスパイとかの方が役割に近そうだ。
いっそ何かコードネームとかも考えてみようかしら。




