30-34.(圧迫)面接
お説教と反省会を終えた私達は、再び席に着いた。
今度は一人ずつ面接していく事になる。
先ずは、暫定三位のツクヨミからだ。
会場も先程までとは大きく異なり、映画やドラマで見る大学のような、扇状の教室みたいに変化している。
教壇の位置には座席が用意されており、黒板の代わりに設置されたスクリーンには、ツクヨミの個人情報が表示されている。
これが履歴書代わりなのかしら。
それにしては赤裸々過ぎるけど。
スリーサイズとかいるの?見た目殆ど幼女だよ?
あれ?でも年齢は無いのね。
配慮したのか、必要無いと判断したのか。
興味すらない可能性もあるか。
そもそも個々人が把握していない可能性も高い。
この子達にプライバシーの概念って無いのかしら。
まあ、思考を全部覗かせている私が言うのもあれだけど。
ところで好きな物に、アルカ様って書いてあるけど?
私とツクヨミって殆ど会ったこと無いわよね?
あからさまなおべっかは良くないと思うの。
履歴書代わりなら仕方ないかもだけど。
私達がツクヨミの情報に目を通し終わったタイミングを見計らって、ミヤコの先導でツクヨミが現れた。
まるで転校生の紹介のように、簡単にミヤコが説明したあと、ツクヨミがお辞儀して席についた。
ここからはノアちゃんが話を進めるそうだ。
私が話を進めると、全員採用の方向にもっていくと懸念しているらしい。
面接官役を買って出る事で、主導権を握るつもりだ。
とはいえ、流石に私に喋るなとまでは言えなかった。
今回の主旨を考えれば当然だ。
なので、私から質問を振ることも出来る。
けれど、取り敢えずは成り行きを見守る事にしよう。
ツクヨミの内定は元々堅いのだ。
それに、セシルの時に警戒されるわけにもいかない。
セシルは私の援護射撃が必要な可能性もある。
まあ、かえって足を引っ張る可能性も無くはないけど。
「それでは面接を始めます。
ツクヨミ、先ずは改めておめでとうございます。
ここ数日は色々と大変だった事でしょう。
あなたのここまでの努力に敬意を評します」
「ありがとうございます、ノア様。
全てアルカ様のお側に置いて頂きたい故でございます。
この度の機会を下さった事、皆様に感謝申し上げます」
え?なんで?本気?
私の側が楽しそうだから?
それとも、私の事好きなの?
フィリアスだからあり得なくはないけど突然すぎますわよ。
いかん、何かパニクってきた。
ツクヨミの凛とした語り口には何か説得力を感じてしまう。
これが単なるお世辞だったら、相当ショックかも。
「そうですか。
ところで、事前に通達があったかと思いますが、どなたかにはレーネとの契約も受け入れて頂く必要があります。
そちらも承知して頂けていますか?」
二人とももう少しどうにかならない?
ノアちゃんとツクヨミだと、本当に堅苦しい面接じゃない。
もう少し和気藹々と肩の力を抜いて話してほしいんだけど。
「はい。存じ上げております。
私が指名された暁には、必ずや誠心誠意勤め上げさせて頂きます」
「それは結構ですね。
とはいえ、私達も無理強いするつもりは無いのです。
ハルちゃんズ採用は、私達の家族になるのと同義です。
自らの望みで、協力し会える関係が理想です。
それを踏まえて、逆にツクヨミからの希望はありますか?
これは合否判定や、今後の役割には関係の無い話とお考え下さい。
単純に、ツクヨミ個人の気持ちを聞いてみたいのです」
この空気で真面目な口調の"ハルちゃんズ"って聞くと、少し吹き出しそうになるわね。
やっぱり別の名前も考えておくべきだったかしら。
「アルカ様のお側に仕えさせて頂く事が、私にとっての至上でございます」
何でそこまで?
フィリアス達はその起源がダンジョンに使役される存在だ。
その為、使われる事への認識が私達人間と大きく異なっているのは理解している。
それは理解しているけど、でも……
「何故そこまで?
確かにアルカは貴方に名と力を与えはしました。
とはいえ、貴方達を別の世界から拐かしてきた存在でもあります。
崇拝の対象とするには、些か問題が有りませんか?」
「些事でございます。
私も"あにめ"や"どらま"にて人間の精神性については学んでおります。
ノア様がそう仰るのも無理からぬ事なのでしょう。
それは理解しております」
「ですが、我々はそうではないのです。
先ずは力。それが一番でございます。
かつてイロハ様が君臨されておりましたのも力故のこと。
世界一つを支配する強大さに、否応なく平服するのは当然の事でございます」
「そして、それだけではございません。
アルカ様との同化。
あの一時の悦楽が忘れられないのでございます。
あれは、我々にとっての毒とさえ言えるでしょう」
「純粋な力の揺り籠に包まれる心地よさ。
その力を我が物とすら錯覚する程の一体感と、それ故に得られる全能感。
そして何より、この身全てを我らが主に捧げられる幸福。
一度経験すれば、二度とは離れ得ぬのです」
「そして、それを成せるアルカ様を主と崇め、お役に立ちたいと希うのは必然の事でございます。
時には、それが恋心へと変遷するのも無理からぬ事なのです」
え?突然何?
私ガチ恋勢?
何か全員の総意みたいに言ってるけど、そこまで熱烈なのは多分ツクヨミだけよ?
クルルとミヤコ辺りはたぶん私よりイロハの方が好きだよ?
「悪いけど、アルカの嫁採用はまた別の話よ。
先ずはハルちゃんズの一員として頑張りなさい」
「セレネ、何を勝手な事を言っているのですか。
まだ面接は終わっていませんよ」
「もう良いじゃない。
今ので熱意は伝わったわ。
能力面で不安があるはずもなし。
それに何でもやるって言ってるのよ?
面接って言ったって、これ以上に何か必要な事ある?
まさか、圧迫面接でもして態度の変わりようとか見てみるつもり?」
まあ、三十人以上で囲ってる時点で、十分に圧迫面接だと思うんだけど。
とはいえ、セレネの言い分もわかる。
もっと普通の話がしたい。
これは企業面接じゃなくて、家族との面談だ。
ただの顔合わせだ。
お見合いとか、お嫁さんを下さいの挨拶に近いやつだ。
そこで断るような場合もあるだろう。
けれど、仕事の話だけで進めるような場面ではない。
一回仕切り直しが必要だ。
合否判定に関係ないって切り口だったのに、いつの間にかそっちの話に寄っちゃってるし。
『ノアちゃん、もう少し趣味とか好きな物とか、普段何をして過ごしているのかとか、そんな話題はどうかしら。
ここで少しでも仲良くなれそうだなと思えば合格。
この娘とは無理そうだなって思えば不合格。
話はそれくらい単純で良いと思うのだけど』
仕事の話は、内定者が全員出揃ってからにしましょう。
どうせこちらも誰に何を頼むかなんて決めてないんだし。
「失礼しました。
それでは、誰か質問はありますか?
一人ずつ、気になる事を聞いていく事にしましょう。
アリア達はどうですか?
最初は楽しげな質問だと助かります」
ノアちゃんがそう言って背後を振り返る。
「あるわ!
ツクヨミは何歳くらいなの?
お姉ちゃん?妹?
先ずはそこをハッキリさせましょう!」
今までの空気を吹き飛ばす、アリアらしいマイペースな質問が飛び出した。




