30-27.修練
「あるじ!ラピスから来てあげたわ!」
諸々終えてカノンを送り届けてから部屋に戻ると、ラピスが眼の前に現れた。
ラピスは今朝からアリアと行動を共にしていた。
契約はまだだけど、とりあえず一緒にいてもらう事にしたのだ。
既に私の状況は把握しているらしい。
相変わらずフィリアスは話が早い。
とはいえ、何の準備も出来ていない。
「気にしないで!あるじ!
そのままポンと渡してくれれば良いのよ!」
「いや、その擬音はどうなのよ。
ムードも何も無いじゃない」
「良いのよ!
あるじと同じ指輪をするのが楽しみで堪らないの!
さっそく付けましょう!」
さては、気を使って出てきてくれたというより、我慢できなくなっただけね?
「さあ!あるじ!」
結局私はラピスの勢いに押し切られて、互いの指に指輪をはめる。
ラピスは感激して抱きついてきてくれた。
ラピス可愛い。
それから一頻りイチャイチャすると、ラピスはアリア達のところに戻っていった。
その時になると、私の方が名残惜しんで引き止めそうになってしまう。
けれど今度は、ラピスは私の内心に構わずあっさりと戻っていったのだった。
むしろこれも、気を使ってくれたからなのかもしれない。
お互い、他にもやることがあるでしょ、と言われたのかもしれない。
私も頑張ろう。
ラピスにも負けないくらい。
とはいえ、次は訓練に参加しようかと思っていたところだった。
まるでラピスを追っかけるみたいになってしまうけど、しかたないよね。
『先にルビィのところに行きなさい』
『それも悪くないわね。
それはそれとして、突然どうしたの?』
『訓練後じゃあ時間無いじゃない。
すぐに夕食だし、アリア達の契約もある。
それに、ミユキに指輪も贈るのだし。
ルビィは丁度お昼寝から起きたところよ。
先に顔を出しておきなさい』
『は~い』
私はルビィを求めて、セレネの部屋を訪れた。
セレネはルビィを膝に乗せて、ルビィの発声練習をしていた。
「あうあ!」
「ルビィ~!」
「そこでストップ。お触りはご遠慮願うわ」
「おうぼ~!」
「おうお~!」
「ぷっふふ。ルビィ、そんな言葉を真似してはダメよ。
可愛いけれど、あまり良い言葉ではないわ」
「あ~い!」
「あ~もう!やっぱり可愛いわね!
私の娘は最高よ!」
セレネに頬ずりされて、キャッキャと喜ぶルビィ。
もうすっかり母親の座を奪われてしまったのかもしれない。
「セレネ~!
私も~!」
「ダメよ~
ルビィは私のよ~」
「そんな事言うなら、こうしてあげるわ!」
私はセレネごとルビィを抱きしめる。
ルビィは私とセレネに挟まれて上機嫌だ。
暫くの間、そのまま三人で燥ぎ続けた。
何だか今日は忙しいと言いつつ、殆どこうしてイチャツイていただけな気がする。
もちろん、お嫁さん達や他の家族と過ごすのも大切な時間なのだけど。
不服とかは無いけど、これで良いのかしらとは思わなくもない。
暫くルビィとセレネと遊んだ後、私は訓練に合流した。
随分と遅くなってしまったけれど、ルネルは何も言わずに受け入れてくれた。
いつものようにルネルに転がされながら、暫くは普通に体を暖めていった。
フィリアス達の力も借りずに、只ひたすら、がむしゃらに向かっていく。
やはり鈍っているのを感じる。
一日サボると取り戻すのに三日は必要だと言うけれど、私の場合はもっと必要なんじゃなかろうか。
ルネル達にも指摘されたけど、私世界深層での自己鍛錬は、今のところあまり意味がないようだ。
次はせめて誰かに付き合ってもらうとしよう。
暗闇への恐怖は、誰かと一緒にいる事で薄れさせられる。
ハルちゃんと籠もった時には、それなりの時間を過ごすことができていた。
なら先ずは、ハルちゃんと籠もる事にしよう。
ハルちゃんとあの空間に行くとつい甘えたくなってしまうけど、厳しく訓練をつけてもらうとしよう。
『なら私にしなさいよ。
そういう話ならハルより適任よ』
イロハは……厳しそうだし……
『厳しくしなきゃ意味ないでしょ。
むしろハルではダメよ。
何だかんだとアルカに甘すぎるもの』
イロハが言うのもどうなの?
イロハもよっぽどじゃない?
『いいから一度くらい試してみなさいな。
直ぐにトラウマを克服させてあげるわ』
荒療治は嫌よ?
『根性見せなさい。
早くノルンとも契りたいのでしょう?』
そうだけど……
『なら今すぐよ。
ほら、行くわよ』
いや、今は休憩中というか、体動かないし!
『アルカ世界なら肉体の状況は関係ないでしょ。
アルカは精神体なんだから』
そんな事無いよ?
結構、本来の肉体の状況を引きずるよ?
『なら丁度いいウエイトだとでも思いなさいな。
体に負荷をかければ、より鍛錬も捗るというものよ』
いや、そういう問題じゃ!
というか、精神体の訓練に体の負荷関係無いし!
『まどろっこしいわね。
えっと?こうかしら』
え?
私はイロハによって深層に引きずり込まれた。
そうだった。
ハルちゃんに出来るんだから、イロハが出来るようになってもおかしくないんだった。
「さて、早速やるわよ」
「いや!ちょ!まっ!
私一人でイロハに敵うわけ!」
「問答無用!」
容赦なく襲いかかってくるイロハ。
私はイロハの攻撃をどうにか凌いでいく。
どうやら、本当にギリギリ私が凌げるように攻撃してくれているらしい。
そうして、暗闇への恐怖だとか気にしていられないくらいには追い詰められ続けた。




