30-26.急ごしらえ
暫くミヤコ達と話をして、ハルちゃんズ採用オーディション企画の内容を決めていった。
大体形になったところで、一旦残りは任せてみる事にした。
アニメ鑑賞会の時のように、後は上手くやってくれる筈だ。
皆優秀な子達ばかりだもの。
それはそれとして、また家族皆を集めて話をするべきだ。
カノンも言っていた通り、嫁探しになりかねない。
私にその気が無くても、周りはそう認識するはずだ。
本当に、もう増やすつもりはないんだけど。
精々、エリスやスミレまでだ。
いやまあ、まだミーシャ、イリス、リヴィ、ルビィ、セフィお姉ちゃん、メアちゃん、ナハト、そしてミヤコとコマチあたりは可能性も無くは無いのだけど。
あと、ルネルもいたわね。
合計十二人?
とにかく、現状でも二十一人ものお嫁さんがいるのだ。
三十人超えはいくらなんでやりすぎだろう。
今更過ぎるけど。
『それより私達の指輪は?
カノンとミユキ、それにラピスのもまだ渡して無いんでしょ?』
『いや、あの。
別に忘れてるわけじゃないのよ?
ただ、タイミングっていうか』
『カノンには昨晩渡しておけばよかったじゃない』
『レーネもいたし……』
『なら今すぐに誘いなさいよ。
今日も仕事ったって、それくらいの時間はあるでしょ。
今すぐ準備して、ランチに誘いなさい。
今なら丁度良い時間でしょ』
『そんな急ごしらえじゃ、カノンだって嫌がるわ』
『黙りなさい。
今まで積極的に動いてこなかったアルカのせいよ。
もうスミレには伝えたからすぐに行動なさい』
『そんなぁ!』
『その次はラピスよ。
夕方にはミユキね。
ナノハにも伝えたから、精々必死に頭を絞りなさい』
『無茶苦茶だよ!』
『無茶苦茶やってるのはアルカの方でしょ。
相手が我慢してくれるのを良いことに、なあなあで済ませてはダメよ。
もっとしっかりしなさい。
あの子達を幸せにしたいのでしょう?』
『そう……だね……
ごめんなさい……』
『私に謝罪したって意味ないでしょ。
そんな事するより、せめて着飾って準備なさい。
場所はシイナに用意させたわ。
あのホテルのアルカ専用フロアよ。
ほら、急いで』
『うっうん!』
私はイロハに急かされるままに、準備を始めた。
何だかんだと言いながら、イロハが場所までセッティングしてくれた。
厳しいことを言う割には、やっぱり私に甘い。
これもかつての命令のせいなのだろうか。
『アルカ』
『うん、ごめん。
もう切り替える』
『大丈夫よ。
カノンもきっと喜んでくれるわ。
シイナと自分とカノンを信じなさい』
『うん。ありがとう、イロハ』
私は準備を済ませた後、カノンを抱き寄せ魔法で召喚して、私世界のホテルの中に移動する。
既にシーちゃんが準備を済ませてくれていた。
料理まで準備万端らしい。
私達が席につくと、すぐに料理が運ばれてきた。
「急で驚いたわ。
どういう風の吹き回しなの?」
「スミレからは何も聞いてないの?」
「ええ。
昼食を一緒にどうかって言われただけよ」
「そっか。
そうよね。
ふふ。なら尚の事驚いたわよね。
気合い入りすぎだものね」
「そうよ。先に言ってほしかったわ。
アルカがそんなにおめかししてきてくれたのに、私は普段着のままだもの。
わかってたら準備くらいしたのに」
「大丈夫よ。カノンは何時でも綺麗で可愛いもの。
けれど、そうね。
私が一人で恥ずかしいから、カノンにも着替えてもらいましょうか」
私がそう言うと、カノンの服が一瞬で様変わりする。
商人向きの普段着から、場に相応しい華美なものへと変化した。
「スミレ?」
『違うよ?』
「シーちゃんの力よ。
その服はナノマシンで作られた一時的なものだけど、気に入ってくれたのなら、普通の素材で同じ物を用意してくれるわ」
私の意思に反応したのか、シーちゃんがどこからともなく姿を表す。
「是非。とっても気に入ったわ。
ありがとう、シイナ。
それにしても驚いたわ。
本当に何でもありなのね。
町一つ作れる子に言うのは今更過ぎるけど」
「いえ。お気になさらず。
私ではなく、マスターからの贈り物とお考え下さい。
後ほどニクス世界の方のお部屋に届けておきます」
「ありがとう。シイナ、アルカ。
けれど、シイナの在り様を理解できないとは言えないけれど、それでも感謝を受け取ってくれると嬉しいわ。
私達は家族でもあるのだから」
「はい。カノン。
どういたしまして」
そういうなり、再び姿を消すシーちゃん。
私も後でお礼をしたいな。
この食事もとっても美味しい。
いつもありがとう、シーちゃん。
食事が落ち着いた所で、私は改めて話を切り出した。
「カノン、これを受け取って欲しいの」
「ふふ」
何故か笑い出すカノン。
変な所でもあったのかしら。
「アルカ、熟れすぎよ。ふふ。
そうよね。十人以上に渡してきたのだものね。
思わず笑っちゃったじゃない」
「どうしてそれで?」
「ノアとセレネから、二人に指輪を渡した時の事を聞いていたからよ。
勘違いしないでね。
二人との事を笑っているわけじゃないからね。
私の時はどんな感じなのかなって、いっぱい想像していたから、想像と違いすぎて可笑しくなっちゃっただけなの。
別に悪いとかって意味じゃなくてね。
ごめんなさい。
こんなつもりじゃなかったんだけど。
とっても嬉しいわ。
ありがとう、アルカ。
少し待たせ過ぎだとは思うけど、本当に嬉しいのよ」
未だに笑みを浮かべながらも、カノンの目には涙が浮かんでいた。
たぶん、笑いすぎてって事では無いはずだ。
本当なら一日デートして、ゆっくりと雰囲気を作って渡すつもりだった。
実際はそうでは無かったのに、こんなに喜んで貰えた。
それがかえって、私の罪悪感を刺激する。
ダメだ。今はそんな事考えるな。
幸せな気持ちだけを感じているべきだ。
「どうしてそんな顔をしているの?
ごめんなさい。
私のせいよね。
やっぱり笑ってしまったのは場違いだったわよね」
やばい、顔に出ていたらしい。
「違うのよ。
そうじゃなくて。
もっと早く、ちゃんと渡しておくべきだったって思って。
本当に待たせてごめんね、カノン」
「そんな風に後悔してはダメよ。
折角の幸せな時間なのだから」
「うん。そうよね。
ありがとう、カノン。
受け取ってくれて嬉しいわ」
「まだでしょ。付けて、アルカ」
「はい。お姫様」
私がカノンの隣に立つと、私の服が変化する。
まるで王子様のような、騎士のような雰囲気だ。
どうやらシーちゃんが手を加えてくれたらしい。
私は騎士のように跪いて、カノンの手を取った。




