30-17.家族会議・続々
今まで話したのは、なんだったかしら。
子供達の学園の件。
ノアちゃんの調査の件。
この家の家事の件。
カノンのパンドラルカ活動の出店の件ね。
後話すべきは、えっと。
セレネの教会とニクスの信仰の件。
レヴィとルビィの件。
私世界の深層に作った設備の件、くらいかしら。
後で他にも無いか聞いてみましょう。
「セレネ、教会の方はどう?
ニクスも、信仰は順調に集まってる?」
「私の方からは特に無いわ。
未だ国を超えてとまでは行かないけれど、少しずつ浸透しているはずよ」
「ほんの数パーセント程度だけど、確かに集まってるよ。
私としても、このペースなら問題ないかな」
「そう。流石ね、セレネ。
とはいえ、あまり派手にはやりすぎないでね。
教会や教徒が力を持ち過ぎては、戦争に繋がりかねない。
教会の力を狙って、どこからか戦争を仕掛けられる可能性もあるし、強引過ぎる教徒の暴走でって事もありえるわ。
重々承知の上だとは思うけれど、少しばかり短期間の内に勢力を伸ばし過ぎかもしれないから」
「ええ。グリアさんも同じことを懸念していたわ。
根回しは徹底しているけれど、世界中に信仰をとなれば、何れ必ず起こるだろうって」
「ニクスはその辺どう思ってるの?」
「まず前提として、皆にこう言うのは悪いけれど、人間同士の戦争そのものは私にとって忌避するべき事では無いんだ。
私はこの世界の守護者であって、人間の守護者じゃない。
この世界の人々の営みに必要以上に干渉する気は無いし、普通に戦争する程度の生き死には許容範囲だ」
「私が警戒するのは、あくまでも世界の危機に繋がる事だけなんだよ。
それに、もっと大きな、神の視点や歴史的な観点で見れば、戦争も悪いことだけではないんだよ。
戦争によって技術の進歩や国の成長が起こり得るのも事実だ。
結果的に戦争によって産まれた大国が力を持って、より大きな脅威に立ち向かうんだ」
「だから、この世界そのものの免疫力を高めて貰うために、私は望んでいるんだよ。
人々が試練を乗り越えてくれる事を。
何せ、私は災いを以って祝福とする悪辣な神だもの」
「今更そんな言い方して悪ぶってんじゃないわよ。
あんたがその一つ一つに心を痛めるお人好しなのはバレてんのよ。
私達の前でカッコつけんじゃないわよ」
「うるさいやい。
たまには神様らしい事言っても良いでしょ」
「もはや、マスコットか使いっ走りしかしてませんものね」
「ノア!?そんな風に思ってたの!?」
「ダメよ、ニクスをイジメては。
ニクスは私のものなの。
ニクスを虐めて良いのは私だけなのよ」
「なんか今、虐めるの言い方違ってなかった?
アルカは私になにする気なの?」
「設備の準備はバッチリよ」
「何の!?」
『ハルがさき』
「アルカ様、私もお願いします」
「三人ともまとめて可愛がってあげましょう」
「私、そっち方向はあんまり好きじゃないのよね。
一方的に攻めるのは好きなんだけど」
「止めなさい。
子供達の前でなんて話始めてるんですか」
「ごほん。
それで、教会と信仰集めの件だったわね。
何れにせよ、戦争云々はこの場で話すことでは無かったわね。
まだ気になる点もあるけど、そういう話は別の機会を設けましょう。
今日の所は、あくまでも家族の今後についてだから。
という事で話を進めるわ。
二人とも、それでいい?」
「「異議なし」」
「ありがと。
それで、次はレヴィとルビィの件ね。
レヴィはさっき家事の手伝いをしてくれると言ったけれど、それ以外にも訓練にも参加してもらいたいの。
最低限、身を守る為の術は身につけて欲しい。
どう、レヴィ?
やってくれる?」
「……うん」
元気の無い返事が返ってきた。
「ごめん、レヴィは好きじゃないんだ。
争いというか、そもそも訓練自体が。
誰かに向けて魔法を放ったり、何かを壊したり全般が苦手なんだよ」
それでレヴィは高い資質を持っているにも関わらず、覚視の扱いが未成熟なのね。
これはどうしたものかしら。
無理強いする必要があるかという事になるわね。
フィリアスがいれば、最低限の護身は問題ないし、レヴィの素質を考えれば、トレーニングに参加せずとも何れは覚視の習得すら可能だろう。
ならいっそ、フィリアスだけ与えて非戦闘員としての扱いをするという手もある。
けれど、私達家族は誰も彼もが勤勉で少々脳筋気味だ。
訓練参加を嫌がる子は今までにいなかった。
いつか、レヴィが居づらくなったりはしないだろうか。
別に戦う力が無いからって軽く見る子はいないし、足手まといだなんて思うような事もありえない。
そもそも、明確な敵もいない。
単純に、話が合わなくてみたいな事を心配しているだけだ。
まあ、何時心変わりして訓練を始めても良いのだけど、近い内に自分だけ……ってならないかしら。
今もそういう気持ちがあるから、渋々頷いてしまったのではないかしら。
何か訓練の代わりになるものは無いかしら。
レヴィが自信を持ってここにいられるような役割が必要な気がする。
「レヴィ、それなら特別メニューにしましょう。
訓練って戦うためだけのものではないの。
家事をこなすにも、魔法は必要なのよ。
だから、その為の魔法を覚える時間にしましょう。
それならどう?やれそう?」
「うん。それがいい。
ありがとう、お母さん」
「ふふ。よかった。
それなら、レヴィにもフィリアスをあげましょう。
きっと色々教えてくれるわ」
「メアちゃんみたいな子?
お母さんみたいに、体の中に入ってくるの?」
「そうよ、詳しいことは後で説明するね。
もちろん、無理やり押し付けたりはしないから。
よ~く話を聞いて、それから判断してね」
「うん、わかった」
「ありがと、レヴィ」
「私も興味が、」
「ママはダメ!」
「セフィお姉ちゃんはレヴィの許可を貰ってからね。
フィリアスを渡したら、レヴィが嫉妬してしまうもの」
「レヴィ~」
「ダメ!」
「ふふ。
それじゃあ、話を進めるわね。
次はルビィの件よ。
とはいえ、ルビィにはなにかして欲しいわけじゃないわ。
子供らしく、よく食べて、よく遊んで、よく寝てくれればそれでいい。
基本的には私やセレネ、あとセフィお姉ちゃんが側にいるわ。
少しずつ、言葉も覚えていきましょう」
『うん、がんばる』
「ふふ。ルビィならきっとすぐね。
これで一通りの事は話したかしら。
なら後は、私から一点だけね。
一部の子は知っているけれど、私世界の深層にとある設備を用意したの。
私世界の深層は、このニクス世界とは時間の流れが違うから、私世界深層で過ごした一日が、このニクス世界では一瞬で過ぎるのよ。
それを利用して、皆との個別の時間を過ごすための場所を用意したわ。
使えるようになるまでにはもう少しだけかかるけど、近い内に解禁するから、楽しみにしていてね」
「一瞬で過ぎるのに、準備の時間が掛かるの?」
流石ルカ、賢い。
ちゃんと今の話を理解している。
隣のアリアは能天気にはしゃいでいるだけなのに。
「ごめんね、ルカ。
まだ私がその空間で長く過ごせないの。
少しずつ居られる時間を伸ばしてはいるのだけど、挑戦する度にこっちのニクス世界で休まなければならないのよ。
だから、もう少しだけ待っていてね」
「うん。わかった。
楽しみにしてる」
「アルカ、くれぐれも気を付けてよ。
ほんの些細な失敗が致命的な事故に繋がるからね。
もし万が一、同行者を忘れてアルカが一人で外に出たりしたら、こっちの世界で一瞬後にその事に気付いても、救出できるのは体感で数万年後とかになりかねないからね」
「ニクス、怖いこと言わないで。
当然対策も考えてあるわ。
シーちゃんが新たに船を作ってくれたの。
万が一があっても、自力で脱出できるようにね」
「まあ、世界間航行が出来るのなら、それくらいは可能だろうけどさ」
「出来れば自力で浮上する術を身に着けてくれると良いのだけど。
ハルちゃんが出来るんだから、他の子もどうにかなるんじゃない?」
『むり』
『こうなんど』
『それにアルカ』
『まえとちがう』
『そもそも』
『しんそう』
『じゆうにさせる』
『ダメぜったい』
『がいいなくても』
『なにがあるか』
『わからない』
「ハルの言う通りだよ。
いくら普段から心を覗かせているからって、深層はダメだよ。
これ以上、無闇に物を持ち込んではダメだからね」
「うん、わかった。
二人がそう言うなら従うわ」
ところで、ハルちゃんの隠し部屋にはあれから物は増えてないのかしら。
今度見てみようかな。
『ダ~メ!』




