30-14.のんびり
私はグリアさんと連れ立って王都の町並みを歩く。
グリアさんのお母様とのお茶会も既に終わり、帰る前に少し寄りたいところがあると、グリアさんにおねだりしたのだ。
グリアさんは渋った。
むしろ嫌がった。断固拒否だった。
それでも結局は私のお願いに頷いてくれた。
何だかんだと私に甘い。
私はよく知っている。
グリアさんが私を娘のように可愛がってくれている事を。
「グリアさん、こっちよ」
「手を引くのは止めたまえ。
私は自分で歩ける」
「ダメよ。
こんな人混みの中で手を離したら直ぐ見失ってしまうわ」
「私が小さいと言いたいのかね?」
「事実じゃない。
ところで、それってどうやったの?
魔法なのは間違い無いのでしょうけど」
「六百年程前に不老不死を求めた者がいたのだ」
「お姉ちゃんの事ね」
「その研究資料の一部が、何の因果か我が家に流れ着いた」
「それを元にグリアさんは不老魔法を使ったの?
お母様も?」
「母様にこの魔法を使ったのは私だとも。
幼さ故の愚かさというやつだ」
「ところで、それって本当にただの不老魔法なの?
寿命、あるの?」
「……術式は何度も確認した。
間違いない……はず、だとも」
「お姉さんってこの世界に悪影響残しすぎじゃないかしら」
「違いない」
「本人に確認は?」
「したとも」
「うろ覚えなの?
記憶引っ張り出すくらい、お姉さんならすぐでしょ?」
「どうやらアルカ君の産み出す魔法と似たような存在でな。
そもそも当時のミユキ君には、術式の内容を正確に理解する事は出来なかった。
研究の結果、寿命を無くすことは出来ないと判明したのだ」
「研究って?
人体実験でもしたの?」
「もちろん違うとも。
そもそも、それでは確認に時間がかかり過ぎる。
術式を手に入れた遺跡を調べたり、小動物を実験台にしていただけのようだ」
「それって、そもそも魔法はかかってたの?」
「わからん。
本人はそのつもりだったようだが」
「どうしてそれ信じたの?」
「……」
「信じたかったのね」
「仕方なかろう」
「じゃあ、賭けをしましょう。
グリアさんの寿命が無かったら、私のお嫁さんになって。
寿命があったら、最期は私が看取って上げる」
「何だその二択は。
意味がわからん」
「きっとグリアさんって、皆に囲まれて最期を迎えるなんて嫌がるでしょう?
だから、最期の数年は私と二人きりで暮らしましょう。
アルカ達とも別れて、森の奥に小さな家を建てて。
静かにひっそりと、二人きりで。
私が目一杯お世話してあげるわ」
「いい加減にせんか。
縁起でもない話は止めたまえ。
私はまだ三十代だぞ」
「まだまだ一緒に居られるわね、お母さん」
「まったく。
困った娘だな」
私はグリアさんの手を引いたまま、レストランに入る。
以前にもアルカ達と来た事がある場所だ。
もう少しだけグリアさんと二人きりの時間を楽しむとしよう。
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私は今日も子供達と遊園地で遊んでいた。
エリス達は飽きもせずに燥ぎまわっている。
普段鍛えているだけあって、体力も無尽蔵だ。
このペースだと、私は先にバテてしまいそうだ。
体力じゃなくて精神的にだけど。
大人組は誰もいない。
既にニクス世界に帰っている。
皆何だかんだと忙しくしているのだ。
忙しいと言えば、お姉ちゃんの事が気になる。
もう数日は帰ってきていない。
私もそろそろお姉ちゃんに会いたい。
少しでもいいから帰ってきてくれないかしら。
私もニクス世界に帰ったら、お姉ちゃんに念話してみよう。
「アルカ様!これ付けて!」
「え~!似合わないよ~!」
「いいから!そんな事無いから!
絶対に合うから!」
いやまあ、似合うは似合うで微妙なんだけど。
エリスから耳付きカチューシャを受け取って頭に付ける。
なんだか無性に気恥ずかしい。
まさかこの歳になって付ける事になるとは思わなかった。
「ふふ!可愛いよ!アルカ様!」
「あはは。ありがと~。
エリスとお揃いなのね。
エリスもとっても可愛いわ」
「えへへ~」
「イチャつき過ぎなのデス。
イリスもお揃いなのデス」
「イリスはどっちに嫉妬してるの?
アルカ?エリス?」
「アリア、首突っ込まない」
「リヴィはちがうよ?」
「リヴィのは私とお揃いですね。
可愛い帽子が付いています」
「アリアとルカのは何だったかしら。
おさげ?耳?」
「犬のやつよ!」
「アリアとお揃い。嬉しい」
「ルカは相変わらずのシスコンっぷりね」
「しすこん?」
「なんでもないわ。
それより、そろそろお昼にしましょう。
お腹ペコペコだわ」
「「「「「「うん!」」」」」」
 




