30-11.心尽くし
私とセレネが皆の所を一巡する頃には、先に就寝する子達も出始めた。
夜通し遊ぶ子もいるようだが、全員ではなかったらしい。
何だかんだと眠気も出てきたのだろう。
今晩は全員が併設のホテルに宿泊する事にしたようだ。
各々、好きなように部屋を占拠し始めた。
「マスターの為に最上階をワンフロア押さえてあります」
「ありがとう。
素直に嬉しいわ、シーちゃん」
「一部ご満足頂けないアトラクションがあったようで申し訳ございません。
早急に改善致します」
「ゆっくりでいいからね。
きっと、少し難しいと思うから」
「というと?」
「なんて言うか、シーちゃんのは高度過ぎたの。
野暮ったさというか、独特の間というか、とにかくもう少し技術レベルを落として再現した方が、良いものになると思うわ。
って所なんだけど、シーちゃんはその辺りの機微はまだ難しいでしょ?
これは、シーちゃんの機能云々の話ではなくて、シーちゃんの経験の足りなさが故なの。
シーちゃんには人としての経験が不足しているわ。
だからゆっくりでいいからね。
私達と経験を積んで、それからで構わないの。
人を楽しませるというのがどういう事なのか、よ~く考えてみてね。
それにこういう話なら、きっとアリスは良い話し相手になるはずよ。
アリスの話が参考になるかは別として、話し合う事にも意味はあるのよ」
「はい。
精進致します、マスター」
「ふふ。ありがとう、シーちゃん」
「そろそろ行きましょう、アルカ」
「シーちゃんはどうする?」
「私は遠慮します。
今宵はセレネと二人でお楽しみ下さい」
「何でか、他の子達もそんな事言ってるのよね。
いったいどうしちゃったのかしら」
「それだけ仲睦まじくセレネを連れ歩いていれば、マスターの気持ちを察する事もできます」
「だからと言って、他の子達を蔑ろにするつもりはないのだけど」
「勿論、順番です。
個別に対応してくださると信じています」
「あくまでも、今日がセレネの番ってだけなのね。
本当はエリス達に付き合うつもりだったのだけど」
「エリスは既に就寝しています。
無理もありません。
本来の身体的には、最も一般人に近い子ですから」
「そうね。
ならせめて、明日起きたら迎えに行ってあげましょう。
後で部屋教えてね」
「はい、マスター」
私はシーちゃんとの会話を終わらせて、ようやくセレネと共にホテルの部屋に移動した。
当然なのだけど、私の記憶にこんな場所は無い。
お姉ちゃんも流石に宿泊した事はないだろう。
恐らく色んな記憶をツギハギしたのだろう。
映画やドラマ、興味本位で見たホームページの部屋紹介。
全然関係ない温泉旅館の想い出。
もしかしたら、他の部屋の記憶に高級感を与えただけの部分もあるのかもしれない。
何が言いたいかと言うと、部屋の様式がごちゃまぜだ。
どうやら、シーちゃんもアリスもその辺りのセンスは……。
いやまあ、もちろん文句なんて言うつもりは無いのだけど。
折角私のために頑張って用意してくれたのだ。
明日二人に会ったら、最高だったと言うつもりだ。
それはそれとして、何で寝室は和室なのかしら。
遊園地に併設された高級ホテルの最上階に、年代物の和室が再現されている。
かと思いきや、その隣もベットの置かれた洋風の寝室になっていた。
そちらは、大昔にテレビで見たキャラクターコラボの部屋仕様になっていて、グッズ等も置かれている。
ちなみにこの遊園地とは一切関係ないやつだ。
そもそも、このホテルがコラボしたわけでもなかろう。
なんでこの遊園地のキャラグッズにしなかったのかしら。
私が行きたがった記憶を見たからなのかもしれない。
私の記憶から、私が喜んだり、私が欲しがったものを再現したのかもしれない。
もしかしたらこのホテル自体も、その為に用意したのかもしれない。
全ては、私一人を喜ばせる為だけに用意したのだろう。
かもしれないなんて、白々しい事を考えるのは間違いね。
あの子達がどう考えてこれを用意したのかなんてよくわかってる。
私は我慢できずにベットに飛び込んだ。
ベットの上に置かれていたぬいぐるみを抱きしめた。
別に今更このぬいぐるみが欲しかったわけじゃない。
だというのに、堪らなく嬉しい。
きっと、当時同じ物を抱きしめても、ここまで嬉しいとは思わなかっただろう。
それくらい心の奥底から湧き上がってくる。
後何度こんな気持を味わう事になるのだろう。
前回、程々にしてくれと頼んだのに。
これではまたハルちゃんに褒めてもらえそうにないわ。
「可愛いぬいぐるみね。
アルカの好きなやつなの?」
「うん、そうだったのかも」
「なんだか曖昧な返事ね」
「昔好きだったんだ。
けれど、今はそれだけじゃなくて」
「ふふ。
愛されてるわね」
「セレネも負けないでね」
「挑発のつもり?」
「今はそんな気分じゃないわ」
「まあ、私もこの部屋では落ち着かないわね」
「観客が多すぎる?」
「こっちも動き出したりしないわよね?」
「どうかしら」
「悪いけど私は苦手かも」
「まあ、気持ちはわかるわ。
人形が独りでに動き出すのって怖いわよね。
実際に見てしまうと尚の事」
「シイナも私達と一緒に生活させたら?」
「本当はそうしたいんだけどね。
ただ、流石に人数が多すぎるわ。
早めに今後の人員配置について相談しましょう」
「明日の夜にでも年長組で集まりましょう。
……年長組ってなんか違和感あるわね」
「多分最年長ってルネルかイロハよね」
「ニクスは?」
「ニクスはわからないけど、この世界を見守っていたのは数千年って話だし、万年単位で生きているっぽいルネルやイロハには及ばないんじゃないかしら。
あれ?ミーシャって、ニクスより年上なの?
体感時間と誕生してからの時間がズレているだろうから、わけわからないわね」
「私もその辺の話はよくわからないわ」
「まあ、敢えてほじくり返すような話でも無いしね」
「そんな事より!
とりあえず、お風呂に入りましょう。
約束通り、変身してくれているのだし」
「いや、これは別にそういう意図じゃなかったんだけど」
「なにか?」
「ううん、行きましょう、セレネ」




