30-8.久しぶり
私とセレネは暫くお説教を受けた後、ようやく晩御飯にありついた。
どうやらノアちゃんも食べないで待っていてくれたらしい。
三人分の食事を温め直して持ってきてくれた。
私達は私の部屋に移動して、久しぶりに三人だけで食事を始めたのだった。
「ノアちゃんも後で行きましょうね。
夜に遊ぶのもきっと綺麗で楽しいと思うの」
「やることが済んでからにして下さい。
先ずはマリアさんの所に行きましょう。
エリスの外泊許可を貰わなければなりません」
「うん。
久しぶりに私も顔を出すわ」
「ここ数日は余裕があったでしょうに」
「そうでも無いんだけど……」
「何してたの?」
「色々溜め込んでいた事を片付けていたのよ」
「もしかして、深層の準備とやらも済んでいるのですか?」
「ええ。設備面ではばっちりよ。
ただ、あそこで長く過ごすには、まだ私の精神状況が安定しないから、頻繁に訓練がてら潜るようにはしているの」
「無理しすぎないで下さいね。
それにあんまり潜りすぎると、本来やるべき事の優先順位が狂っていきますよ。
自分の体感で何日も経ってしまえば、その時やらなきゃいけなかった事に対する認識は薄れていきますから」
「そうだわ。
ノアちゃんとはその件でも話したかったのよ。
うっかり忘れていたわね」
「アルカが状況に流されて、やろうと思っていた事を忘れるのは元々でしたね」
「ノアちゃん、真剣な話よ。
ノアちゃんはまだ深層に潜ってはダメよ。
ルチア、これは命令よ。
ノアちゃんに頼まれても深層に連れ込むのは禁止よ。
ノアちゃんはまだ若いのだから、あんな空間に閉じこもっていてはおかしな成長の仕方をしてしまうわ。
ちゃんと人間らしい時間を過ごしなさい」
『承知したわ』
「……何故そこまで確信しているのですか?」
「別にルチアから聞いたわけでも、ハルちゃんが暴いたからでもないわ。
ノアちゃんの成長速度を見ればわかるわよ」
「なら……いえ、ごめんなさい。
もうしません」
「ノアちゃん、その代わりではないけれど、もう少しノアちゃんの負担を私達にも背負わせて。
今も家事に調査にと忙しく動き回っているでしょう?
そんな生活では、自分の訓練の為に使える時間なんて無いはずよ」
「それは……」
「あんまり頑固だと、ルチアを介してノアちゃんにも命令してしまうわよ。
ノアちゃんとの契約に命令権は無いけれど、ルチアに見張らせる事は出来るのよ?」
「止めて下さい」
「私だってルチアにそんな事をさせたくは無いわ」
「ノア、アルカの現状は知っているでしょう?
あれこれと抱え込んで、何もかも中途半端にして。
どう考えても手が回っていないでしょう?
ノアも同じことをするつもり?」
「なら尚の事です。
アルカに頼むわけにはいきません」
「もちろん、アルカにノアの補助をさせるつもりはないわ。
他にも手伝える子はいくらでもいるじゃない」
セレネの言葉に合わせてか、突然サナが姿を表した。
「ボクが手を貸すのです。
ノアとルチアが外に出ている間、家の事は任せるのです。
そうすればノアの時間も少しは空くのです」
「サナ、良いの?
最近、籠もって何やら企んでたじゃない」
「そっちは目処が付いたのです。
後はチグサ達に任せるのです」
「何をしようとしていたの?」
「言うわけ無いのです」
「まあ、そうでしょうけど」
「ノア、返事は?」
「……わかりました。
お願いします、サナ」
「任せろなのです!」
早速サナは部屋を飛び出していった。
こんな時間から何か始めるつもりかしら。
かえってノアちゃんの仕事を増やさないといいのだけど。
「もうすぐリヴィも学園が始まるわ。
もう一人くらい手伝ってくれる子が欲しいわね」
「セフィに頼んだら良いじゃない。
学園が始まる頃には元気になってるでしょう?」
「セフィさんはいつまでここに居て下さるのですか?」
「いつまでもよ。
末永くよろしくって、アルカが求婚していたわ」
「アルカ?
手が早すぎませんか?」
「違うってば!
そういう意味じゃないの!
セフィお姉ちゃんはエルフの国の代わりに、私達を頼ってくれたの!
だから何時までも居てねって言いたかっただけなの!」
「まあ、いいです。
一時的な滞在を勝手に決めた時ですらあれだけ叱ったのに、永住まで勝手に決める事に対して思う所はありますが、もういいです」
「ごめんなさい……」
「まあ、多めに見てあげなさいな。
ノアだってあの場にいたら同じ決断を下したわ」
「そういうセレネは、受け入れているのか、けしかけてるのか、相変わらずわからないわ」
「どっちでも良いのよ、私は。
私がアルカの一番で在りさえすればね」
「それだけじゃないですよね?
レヴィとルビィが可愛いいから、手放したくないのですよね?」
「まあ、その部分も無くはないわね」
「二人は今はセフィお姉ちゃんの所?」
「ええ。アルカ達がいつまでも帰って来なかったので寂しがっていましたよ」
「言っても数時間くらいじゃない。
依存させすぎも良くないわよ」
「そうですね。
セフィさんもいる以上、過剰に構う必要はありません。
追々訓練にも加わってもらうとしましょう」
「とはいえ、ルビィにはまだ誰か付いていないとだわ。
リヴィとは違って、年相応に幼いのだから。
一回全員で集まって、其々の役割を整理しましょう。
アリア達の学園が始まるのに合わせて、必要なら配置換えもしなきゃね」
「ところで、最近グリアさんの姿を見ませんがどこに?」
「あれ?
ああ、ごめん、私世界だったわ。
一緒に悪巧みしてるみたいね」
「そろそろまたお母様の下へ顔を出すべきでは?」
「明日行きましょう」
「明日は子供達と遊んであげるのでしょう?
そうやって適当に予定を詰めてはダメよ。
私がグリアさんを連れて行くわ。
アルカは残って皆と遊んで上げなさい」
「うん、ありがとう、セレネ」




