30-7.ストライキ
「大丈夫って言ったわよね」
「すぐに制圧してくるよ……」
「これがストライキってやつデス?」
「ハルちゃんは何でそんな事まで教えてるの?」
「さあ?」
私達の前には、パレードの列が停止していた。
さながらバリケードのように、道の真ん中を陣取っている。
私達の下からはアリスが、そして別方向からはシーちゃんが前に出て、メインマスコットらしき着ぐるみと何やら話を始めた。
暫く話を続けていたが、遂に交渉が決裂したらしく、シーちゃんは眼の前の着ぐるみをナノマシンに分解した。
容赦ねえ……
新しく同じ着ぐるみを産み出し直したシーちゃん。
そうして一人ずつ入れ替えていった。
きぐるみや従業員達は逃げ惑う者と、寝返って捕縛に動く者に別れ、暫し混乱が発生するも、抵抗虚しく全員の入れ替えが完了した。
えげつねぇ……
ああいうの遠隔では出来ないのかしら。
まだ手探りの試作段階だったりするのかな。
それとも何らかの手違いだろうか。
「お待たせ~
これでもう大丈夫だよ」
「何が原因だったの?」
「なんかよくわからないけど、自分達の好きにやらせてくれって」
「なんでまた?
開園してから大した時間経ってないでしょ?」
「さあ?」
「暫く話してたじゃない」
「シイナがね。
私にはよくわからなかったよ」
『シーちゃん、カモン』
『イエス!マスター!』
シーちゃんの分体が目の前に現れる。
もう、キャスト全部シーちゃんで良いんじゃないかしら。
「詳しく」
「イエス、マスター。
パレードや一部アトラクションの内容を指示通りのものではなく、自分たちの考案したものに差し替えたいと要求されました。
性能を高くしすぎた結果、不相応な拘りを獲得したようです」
「仕事熱心になりすぎたって事?」
「その認識で間違いありません」
「それはそれでも良いんじゃないの?」
「認められません」
「そうだよ!
私達が頑張って考えたんだよ!
小春に披露もしていないのに変えて良いわけないよ!」
「とりあえず事情はわかったわ。
アリス、わからない事はちゃんと確認しなさい。
今のシーちゃんの話を聞けば理解できたのでしょう?
よくわからなかったで済ましてはダメよ。
最低でもわかる子に質問くらいはしなさい」
「はい……」
「シーちゃん、ありがとう。
もう大丈夫よ。
暫くしたらそっちにも合流するわね。
リヴィとレーネをお願い」
「イエス、マスター!」
シーちゃんの分体が消失する。
やっぱり分体の維持には負担がかかるみたいね。
そうは言っても百人くらいは平気みたいだし、今も何処かで働かせているのだろうけど。
「さて、気を取り直して次に行きましょう。
あの山のジェットコースターだったわよね。
折角だから園内を歩いて向かいましょう」
「うん!」
元気いっぱいに私の手を握るエリス。
エリスのもう一方の手は、イリスと繋がれている。
私はもう片方の手をアリスに伸ばした。
「案内お願いね、アリス」
「うん!任せて!」
落ち込んでいたアリスの顔に、パアっと満面の笑みが広がっていく。
やっぱりチョロいわね。
アリスも可愛い。
私達は仲良く歩き出す。
私達以外に客の居ない園内は記憶にあるものと大きく違う。
けれど、決して寂しいものではない。
色と音が溢れ、十分な賑やかさを提供してくれている。
何より、両手の先には可愛いく愛しい少女達がいてくれる。
笑顔であちこちを指差し、話しかけてくれる。
これで寂しいなんて思うのはあり得ない。
私達は時間を忘れて遊び倒した。
エリス達の後はレヴィとレーネの下へ、その次はアリアとルカの下へ向かい、楽しい時間を過ごしたのだった。
「おばか」
「はい……」
「ノアかんかん」
「ですよね……」
「セレネは?」
「まだ私の家だと思う」
「かいしゅうする」
「アウラに聞けなかったの?」
「ちゃっきょ」
「アウラが?」
「アウラ」
「いいなり」
「なんでまた」
「さあ?」
「そもそもアルカネットって、フィリアス側の意思で切断できるの?」
「せつだん」
「ちがう」
「ふさいでる」
「ハルちゃんなら無理やり突破できそうだけど」
「ひつようなら」
「無闇に乱暴な事はしたくないのね」
「とにかくうごく」
「は~い」
私はニクス世界に子供達を送り返してから、私宅に転移した。
「セレネ?
いるの?」
「こっちよ~」
「何でお風呂入ってるの?」
「汗かいたからに決まってるじゃない」
「何してたの?」
「いいからアルカも入ってきなさい」
「うちのお風呂ってそんなに広くないじゃない」
「たまにはくっついて入るのも良いでしょ」
「というか、そんな暇は無いのよ。
ノアちゃんが怒ってるわよ。
何で着拒なんてしたの?」
「ああ、ごめん。
忘れてたわ。
アウラ、もう良いわよ」
「まったく……」
「アウラも一緒に入ってたのね。
って、それじゃあ私まで入るのは無理でしょ」
「アルカが子供に変身すればいいだけよ」
「はいはい。
食後にでも一緒に入りましょう。
変身もしてあげるから。
それより早く上がってきなさい」
「ノアのご機嫌取りが済んでから呼んでよ」
「グダグダ言ってると、素っ裸のまま向こうの世界に送り返すわよ」
「いや~ん、えっち~」
「棒読みすぎるでしょ」
「仕方ないわね」
ざぶ~んと音がして、セレネがお風呂から上がってきた。
アウラは服も着ずにセレネと同化した。
まあ、フィリアス達は自分の魔力で服を作ってるから、同化時にどんな格好だろうと関係無いんだけど。
「体拭いて」
「やりたい放題ね」
「今まで放置してたんだから、それくらい良いじゃない」
「まあ、いいけどさ」
今日の事だけでなく、何日もセレネと過ごせていなかったので、少しくらいは甘やかしても構わない。
むしろ目一杯甘やかしたい。
私は甘えられるのが大好きだ。
とはいえ、あまりゆっくりもしていられない。
既に夕食の時間は大きく過ぎている。
ノアちゃんが仁王立ちで待っている事だろう。




