30-3.気遣い
盤上遊戯で適当に時間を潰していると、セレネとルビィもやってきた。
どうやらルビィが我慢できなくなったようだ。
大好きなお姉ちゃんと一緒に遊びたいのだろう。
レヴィとルビィが遊んでいるのを眺めながら、セレネがセフィお姉ちゃんに質問する。
「セフィの旦那様って今は?」
セレネぇ……
「亡くなってるよ。
レヴィが産まれてすぐにね。
あの人も冒険者だったから」
セフィお姉ちゃんは特に気にした風も無く、懐かしむように答えた。
「そう」
「まあ、そもそも結婚していたわけでもないんだけどね」
「けれど、愛してはいたのでしょう?」
「どうだったかなぁ~。
もうあんまり覚えてないの」
「そんな風には見えないわよ」
「セレネ、止めなさい」
「大丈夫よ、アルカ。
元々人間とエルフの寿命は違いすぎるの。
すぐに別れが訪れるのも最初から覚悟の上だった。
まあ、流石に早すぎたけどね。
あまり覚えていないというのも本当の事よ。
仕方ないのよ。
あの人と過ごしたのはほんの一瞬の事だったのだもの。
私の人生の百分の一にも満たない極僅かな時間だったの。
だから、レヴィを残してくれただけでも十分よ。
お陰で本当に大切にしたい事は忘れないで済むもの」
「それは?」
「セレネ!」
「ふふ。ごめんね。
ここまで話しておいてなんだけど、それだけは内緒よ。
レヴィにも言ったこと無いんだから」
「そう」
「レヴィの事を気にかけてくれたの?」
「興味本位よ」
「ふふ。そんな風には見えなかったよ。
セレネも良いお姉ちゃんね」
「違うわ。私も母親よ。
私はアルカの伴侶だもの」
「え?」
「あれ?
言ってなかったっけ?」
「ちゃんと説明しておきなさいな。
そうでなきゃフェアじゃないわ」
「ノアちゃんみたいな事言わないでよ」
「騙し討ちは好みじゃないの」
「そもそもそんな目論見は無いってば」
「二人共何の話をしてるの?」
「ここの子は大体アルカの伴侶よ。
ルカやリヴィすらもね。
だから、レヴィの事も気を付けなさい。
勿論、セフィ自身もね。
二人とも、十分アルカの守備範囲よ」
「え?」
「セレネ!
言い方に悪意が有りすぎよ!
そんな見境なく手を出すみたいに言わないでよ!」
「事実じゃない。
言っておくけど、ルビィに手を出すのは許さないわ。
あの子は私が守るから」
「何バカな事言ってるのよ!
あんな小さな子になにするってのよ!」
「リヴィにしてるような事でしょ?」
「うぐっ……
いや、それ言い出したらノアちゃんだって……」
「ルネルの言っていたのはそういう事なのね。
早く元気にならなくちゃ」
「セレネ!
セレネが変なこと言うから、セフィお姉ちゃんが出て行く決心しちゃったじゃない!」
「え?
そういう意味じゃなかったんだけど」
「え?」
「お母さんが本当のお母さんになるの?」
「賢いわね、レヴィ。
まさかそこまで理解しているとは思わなかったわ」
「手を出す?は良くわからないけど、伴侶はわかるよ!
私もお母さんの伴侶になるの?
あれ?でも、ママもお母さんの伴侶?
あれ???なんか変?」
「本当に賢いわね。
そうよ。変な関係になってしまうの。
だから用心してね。
アルカは実の姉にも手を出す危ない人だから」
「本当になんなのよ。
なんで今さらそんな言い方するのよ。
なんかおかしいわよ、セレネ」
「私だって、流石にこの母娘を私達に巻き込むのは良心が咎めるのよ。
無駄なあがきだとしても、逃がしてあげる努力は必要よ。
自分の罪悪感を誤魔化す為にね」
「気持ちはなんとなくわかるけれど、結果的にけしかけているようにしか聞こえないわ」
「気の所為よ」
「逃げたりしないよ?
お母さんとずっと一緒にいたいよ?」
レヴィは状況を把握しきれず、戸惑いながらもそう言った。
「結局、セレネは私達に気を使ってくれたのね。
けれど、恩も返さず逃げたりはしない。
何か望みがあるなら、あなた達の人生分くらいは付き合うよ。
レヴィだってハーフとは言え、エルフの血が流れているもの。
人間よりはずっと長く生きれるのだから、大した問題じゃないよ」
「ダメよ、セフィ。
そんな事を言っては。
私達に寿命なんて無いんだから」
「え?」
「私達はルネルと同じ存在なの。
そう体を作り変えてしまったの。
半永久的に生き続けるわ」
「……本当に?」
「ええ」
「なら、尚の事ここに置いて欲しい。
私達はエルフの国には戻れないから。
レヴィと共に生きてくれる人がこんなにいるのなら、私達にとってここは理想の地よ」
「もの好きね。
まあ、好きにしなさい。
アルカは既に受け入れているのだし」
「ありがとう、セレネ、アルカ」
「こちらこそ。末永くよろしくね」
「早速プロポーズしてんじゃないわよ!」
「そういう意味じゃないわよ!」
「二人とも!もう喧嘩しないの!」
「「はい」」
「ふふ」




