29-45.お菓子
夕方頃になって、ノアちゃんが帰ってきた。
どうやらお姉ちゃんとハルちゃんは敵の本拠地とやらに残ったらしい。
私も後で顔を出すとしよう。
私はノアちゃんを自室に招いてセフィお姉ちゃんの現状を説明する。
「それで?
私達に確認もせずに決めたのですか?」
「あっ……はい」
「あっじゃありませんよ!
何度言わせれば気が済むんですか!」
「いや、その、ルネルに乗せられちゃって……」
「だからなんなんです!
私達が拒絶すると思うんですか!?
先に一言くれと言ってるだけですよね!」
「はい……すみません」
『ノア、その辺にしておきなさい。
また後悔するわよ』
「……そうですね。
すみません、カッとなりました。
こうなる事はわかっていて連れてきたのです。
……すみません」
「ノアちゃん!?」
私は急に泣き出してしまったノアちゃんを抱きしめる。
突然何が!?私の勝手が原因!?
私が何度指摘されても直さないから!?
『落ち着きなさい』
でも!
『今更そんな事で泣くわけないでしょ。
いいから落ち着きなさい』
でもでもだって!
『ノアは悔しかったのよ。
変わろうと決意したのに、激情にかられてしまった事が。
自分の事が情けなかったの。
ただそれだけの事よ。
ノアは成長しようとしているの。
アルカはしっかり見守ってあげなさい。
アルカの行為がキッカケでも、それはそれよ。
何も言わずに抱きしめて上げなさい。
アルカが取り乱せばノアにも伝わるわ。
それではノアが安心できないでしょ。
落ち着いて受け止めてあげなさい』
『うん……ありがとう、イロハ』
私はノアちゃんを抱きしめたまま、ベットに腰掛ける。
そのままノアちゃんが落ち着くまで慰めていた。
「すみません、もう大丈夫です」
「いつもごめんね、ノアちゃん」
「いえ、先程の話は関係無いんです。
あ、いえ、関係ないというのも少し違いますが」
「ノアちゃんは頑張り過ぎなのかもね。
少しゆっくりしましょう。
そうだ!セフィお姉ちゃんが元気になったら、皆で旅行にでも行きましょう!
もうすぐアリア達の学園も始まるから、皆の時間がある内にね!」
「それは構いませんが、お姉ちゃんとは?」
「ああ、セルフィーさんは私達の姉弟子だから」
「セルフィーさんにも手を出すのですか?」
「なんで皆そっち方向に結びつけてしまうの?」
「日頃の行いです」
「そもそも、セフィお姉ちゃんには旦那さんがいるはずじゃない」
「今はどうされているんでしょうね。
流石に聞き辛いですが」
「そうねぇ」
「何にせよ、新しい家族を歓迎しましょう。
いい加減夕飯の支度を始めなくては。
セルフィーさんもレヴィ達と同じメニューで良いのですよね?」
「ええ。そうしてあげましょう。
ルビィはもう少し増やしても大丈夫かも。
お菓子とかもよく食べてるし」
「アルカ……」
ドン引きするノアちゃん。
「ダメ。責める前にちゃんと話をする。
落ち着け私」
遂にはぶつくさと独り言まで呟き始めた。
「いや、あの、大丈夫そうなのを少しだけ、ね!
食べ過ぎないように気を付けてたから……」
「ダメですよ。
何のために特別メニューにしていたと思ってるんですか。
あんな小さな子が、今まで碌なものを食べさせてもらえなかったのです。
少しずつゆっくり増やしていかなければ、お腹を壊してしまいますよ」
「獣人だから丈夫だったりはしないの?
猫と兎で違うとかは無い?」
「アルカ」
「ごめんなさい……」
「可愛がりたい気持ちはわかりますが、親としてしっかりして下さい」
「はい……」
「収納空間のお菓子を全て私の方に移して下さい」
「そんなぁ……」
「アルカ」
「はい……」
私はノアちゃんの指示に従った。
たっぷりと溜め込んだお菓子達は全てノアちゃんの収納空間に収まった。
「いくら何でも多すぎるでしょ。
買い占めは止めて下さい。
見張られている自覚はあるのですか?」
「いや……あの……変身魔法で……」
「尚の事です。
アルカが変身魔法を使えると感づかれれば、私達は手札を一つ失うのです。
そんな下らない事で尻尾を掴ませないで下さい」
「はい」
「必ず私がどうにかします。
アルカが何にも気兼ねなく生きられるようにしてみせます。
ですから、もう少しだけ辛抱していて下さい」
「うん。ありがとう、ノアちゃん」
「わかってくれたようで何よりです。
さあ、動きましょう。
そろそろ本当に時間がありません」
「私も手伝うわ。
子供達はセレネが見てくれているし」
「お願いします」
「そうだ、さっきのお菓子の中に私が作ったものもあるの。
別にそれに限らないけれど、ノアちゃんも好きに食べていいからね」
「それは嬉しいです。
ありがたく頂きます」
「どれが一番美味しかったか教えてね。
私が作ったやつじゃなかったら泣いちゃうかも」
「勘弁して下さい。
そんな事言われたら食べ辛くなってしまいます」
「ふふ。ノアちゃんなら大丈夫よ。
絶対に当ててくれるわ」
「なんですそれ。
何かお菓子自体にヒントがあるのですか?」
「ううん。
ノアちゃんは私の事が大好きだもの。
それだけで十分でしょ」
「無茶言わないで下さい」




