29-44.老婆心
「ルネル、ノアちゃんがセルフィーさんを救出したわ。
会ってみてくれる?」
私はルビィとリヴィをセレネに預けて、ルネルの下を訪れた。
「……まあ、致し方ないのう。
いいじゃろう。お主も付き合え」
「わかったわ」
私はルネルを連れて再びノアちゃんの部屋に戻る。
扉をノックするとすぐに返事が帰ってきた。
私達が部屋に入ると、セルフィーさんは慌てて飛び起きようとした。
「よい。そのまま楽にせよ」
「ルネル様!
ご無沙汰しております」
「様はやめい。
堅苦しい話し方も無しじゃ。
以前のようにせんか」
「幼い頃の話でございます。
それに私は……
どうかご容赦をルネル様」
「ならん。
お主が気に病む必要なぞ無いのじゃ」
「ルネル、様」
「ここはエルフの国ではない。
国の決まり事なんぞに従う必要はない。
今はただの師と弟子じゃ。
なれば師の命に従うのは当然のことじゃろうが」
「……うん。久しぶり、ルネル」
「ああ。久しいのう、セフィ」
「ルネルはどうしてここに?」
「お前の妹弟子に囲われてのう」
「え?」
「あれ?そのつもりだったの?
早速指輪を用意しましょう」
信じられないという顔で私とルネルを見比べるセルフィーさん。
「冗談に決まっとろうが」
「まあ、実態としては大差なくない?
可愛い愛弟子の為にここに居てくれるのでしょう?」
「うむ。ノアの為じゃ」
「またまた~
照れちゃって~」
「随分と仲が良いのですね」
「セルフィーさんも私に敬語は要らないわ。
私もあなたの妹弟子よ。
よろしくね、セフィお姉ちゃん」
「いきなり馴れ馴れしすぎるじゃろ」
「ルネルがそれを言うの?」
「口ばかり上手くなりおって」
「やった!ルネルに褒められちゃった!」
「褒めとらんだろうが……」
「ぷっふふ」
「アルカは暫し黙っておれ。
漫才するために付き合わせたわけなかろうが」
「は~い」
「随分と愉快な妹弟子ね。
色々腑に落ちた。
ルネルが好きそうな子だもの」
「そうなの!嬉しいわ!」
「アルカ」
「は~い。黙ってま~す」
「まったく……
セフィ、早めにこの地を去る事を進める。
この馬鹿弟子はとんでもない人誑しじゃ。
既に両の指で数え切れんおなごを抱え込んでおる。
レヴェリーの身を案ずるのならば疾く決断せよ。
案ずるな。暫くはわしが面倒をみてやろう」
「待ってよ!ルネル!」
「黙れ」
「横暴よ!
レヴィとルビィを引き離すつもり!?」
「ルビィ?」
「私の妹なの」
私は説明不足のレヴィに代わって、セフィさんにレヴィとルビィの関係を説明する。
「ルビィはセフィに預ければよかろう」
「無茶苦茶言わないでよ!
ルビィはもう私の娘よ!
手放すわけないでしょ!」
「お母さん……レヴィは?」
「もちろんレヴィもよ!」
「え?」
「はあ~~~~~~。
いくら何でも手が早すぎるじゃろうが」
「変な言い方しないでよ!
二人とも娘として可愛がってるだけでしょ!」
「すまん、セフィ。
既に手遅れじゃ。
ここで暮らすしかないようじゃのう」
「え?え?」
「結局何がしたかったのよ。
別に今の今までレヴィに干渉しなかったじゃない」
「しかたなかろう。
こんなに早くセルフィーが見つかるとは思わなんだ。
そもそも生死すら不明だったじゃろうが」
「それで今更、ダメ元で引き離してみようと思ったの?
雑すぎるでしょ」
「お主と違って、セフィは可愛い愛弟子じゃからのう。
出来る限りの事はしてやるもんじゃろうが」
「だからって」
『違うわアルカ。
ルネルの本当の目的はそうじゃない。
引き離せるわけがないから、ここに住まわせる事を明言させようとしたのよ。
早くアルカにセルフィーを受け入れさせたかったの。
セルフィーに疑いの目を向けている現状が気に入らなかったのよ。
そうでしょ、ルネル?』
「……」
一瞬苦虫を噛み潰したみたいな顔をするルネル。
「図星みたいよ、イロハ」
「……お主、妙なもん飼っとるのう」
「可愛いでしょ?」
「なわけなかろう」
「というか、そんな回りくどい事しなくたって、ルネルが一言信用できると言えばそれで済む話じゃない。
私がルネルの言葉を疑うわけ無いでしょ?」
「うるさい」
「まさか思いつかなかったの?
私の事信じてくれて無かったの?」
『照れくさかったのよ。
冗談めかして愛弟子と呼ぶ程度ならともかく、信じられるなんて言うより、面倒見てやるって言う方が気楽なのよ。
これ以上気難しいお婆ちゃんをイジメてはダメよ』
「一番イジメてるのってイロハじゃない?
というか、年齢に関してはイロハも人の事言えなくない?」
『「……」』
「まあ、何にせよ、私はセフィお姉ちゃんの監視を止めれば良いのね。
ルネルがそう言うのなら、勿論従うわ。
それに受け入れも問題ないわよ。
セフィお姉ちゃんとレヴィの為に新しい家を建ててあげる。
ここで一緒に暮らしましょう」
「ありがとう、えっと、アルカ、さん」
「さんもいらないわ。
後の事は追々説明してあげるから、改めてゆっくり休んでいてね」
「うん、そうさせてもらう。
本当にありがとう、アルカ」
私は黙り込んでしまったルネルを連れて部屋を出る。
後で荒れないかしら。
今日はたっぷりお酒を出してもらうとしよう。
リヴィとノアちゃんにお酌をしてもらえば完璧だ。
キャバクラかな?




