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29-40.長老

今回もノアちゃん視点のお話です。


『ルネルさん、今お話よろしいですか?』


『なんじゃ、ノア。

 構わんぞ』


『今からエルフの国に行きたいのです。

 許可を頂けないでしょうか』


『何用じゃ?』


『セルフィーさんを襲撃した犯人の目的が気になります。

 エルフの国が狙われているのかもしれません』


『いらん。

 お主が出向かんでも、奴らならばどうとでもするじゃろ』


『敵の特徴が厄介です。

 周囲の魔力を吸い尽くす為、エルフ達の使う魔法とは根本的に相性が悪いのです。

 対抗するには神力が必要です』


『なるほどのう。

 じゃが、それでもいらん心配じゃ。

 よかろう。許可は出す。

 じゃが、手を出すことは認めん。

 精々見学でもしてくるんじゃな。

 良い勉強になる筈じゃ。

 お主も少々天狗になっとるようじゃしのう』


『……わかりました。

 ありがとうございます。

 行ってきます』


『うむ、レルネ、いや、長老にはわしが許可したと伝えよ。

 特等席を用意してくれる事じゃろう』


『はい、感謝します』


 ルネルさんから予想外の返事を貰い、釈然としない気持ちを拭いきれないまま、私はエルフの国に転移した。


 真っ先に長老さんの家を訪れると、長老さんは快く迎え入れてくれた。



「ご無沙汰しております、長老様。

 突然お邪魔してすみません。

 少々お話したい事がございます」


「ふふ、そう固くならなくてもいいのよ。

 あなたはアルカの娘なのだから、もっと気楽になさい」


「アルカはこの国で一体何を?」


「ノア、話したいのは本当にそんな事なのかしら?」


「失礼しました。

 実は、」


 私はスライムモドキがこの国を襲うのではないかと懸念している事と、ルネルさんから言われた事を伝えた。



「あらあら。

 ルネル様らしいこと。

 ならば私達も張り切って良いところを見せなければね」


 長老様も大して気にした風も無く、微笑みながら答えた。

スライムモドキの事なんかよりも、ルネルさんの期待に応える方が大事だと言わんばかりだ。



「対抗手段をお持ちなのですか?」


「ノア、この国を落とそうとするならば、あなたは最初に何をするかしら」


「それは……」


「魔法や魔力を封じる事は、そう珍しい事ではないの。

 当然、私達はその対策を用意しているわ。

 そうでなければ何万年も変わらずにはいられないのよ」


「そう、ですよね……」


 万年?あれ?

ニクスがこの世界を守ってきたのは数千年じゃなかったの?



「どうやら随分とタイミングが良かったようだね」


「え?」


 突然周囲の光景が切り替わる。

長老様が私を転移させたようだ。

ルネルさん以外にここまでの使い手がいるなんて……

いや今はそんな事よりもと、眼の前の光景に意識を移す。


 ここはエルフの国の入口あたりだろう。

眼前には見覚えのある巨大スライムモドキと、見覚えの無い男が立っていた。

どう見てもあのパタラとかいう男ではない。

なのに、手にはダンジョンコアらしき球体を持っている。


 既に戦闘は始まっていた。

敵を囲うエルフ達と、スライムモドキの間では、魔力の奪い合いが行われていた。


 エルフ達は自らの制御技術だけで、あのスライムモドキに拮抗していたのだった。

いくら人数が多いとは言え、アルカがあの杖を用いてやった事を単なる基礎技術だけで凌駕している。

これが対策なのだろうか。

それとも、そんなものは必要ですら無いのだろうか。


 暫く眺めていた長老様だったが、中々拮抗が崩れないのを憂いたのか、遂に自らも魔力の掌握を始めた。

長老様が加わると早々に均衡は崩れ、スライムモドキはみるみる縮んでいき、最後には魔石の砕け散った魔道具だけが残された。


 それを見た男は慌てる様子もなく、コアから二匹のスライムモドキを呼び出した。

再び魔力の奪い合いが始まる。

スライムが縮んでくると、三匹目、四匹目と増えていき、再び拮抗状態に陥った。

ダメ押しの五匹目が現れた事で、遂にその拮抗状態も崩されてスライムモドキ達に魔力が集まっていく。


 手を出すべきなのだろうか。

長老さんは未だ涼しい顔だ。

今まさに高度な魔力制御をしているようには見えない。


 そんな長老さんがようやく動きを見せた。

スライムモドキと男の足元が急激に陥没していく。

アルカも使う地形操作の魔法だろう。

あのスライムモドキが居るのに、こんな大規模魔法を使えるなんてどういうカラクリなのだろう。

あっという間に男の姿は地面の中に消えていった。


 眼の前で視ていても理解できない。

単純に魔力を専有する力が勝っているようにしか見えない。

本当にそんな事が有り得るのだろうか。

何か仕掛けがあるのだろうか。

アルカなら見抜けるのだろうか。



『ちがう』

『まりょくじたい』

『こたえてる』


『魔力に意思があるのですか?』


『ちかい』

『エルフと』

『なかいい』

『エルフのたのみ』

『ききやすい』


『対策というのはその事なのでしょうか』


『たぶんそう』


『このち』

『エルフのみかた』


『なんぜんねん』

『なんまんねん』

『かけて』

『かいならした』


『あの男はどうなったのでしょう』


『ちょうろうみて』


 長老様の手には、いつの間にかダンジョンコアらしきものが現れていた。

どうやらドサクサ紛れに転移で奪い取ったようだ。

もしかしてやろうと思えば最初から奪えたのだろうか。

先程も別にスライムモドキが消えていたわけではない。

五匹のスライムモドキを掻い潜って、あの男の手元に転移魔法を使ったのだろうか。

無茶苦茶にも程がある。



『それもぜんぶ』

『このちのまりょく』

『だからこそ』


「これはノアに。

 あなたの調べ物の役に立つわ」


 長老様は私にダンジョンコアを手渡した。

ありがたく受け取っておく事にしよう。

ハルなら調べられるはずだ。



『まかせろ』

『ログみる』


『お願いします』


 男の方も回収するべきだろうか。

既に地面の中とは言え、今ならまだ生きてるかもしれない。

聞きたいことがある。

セルフィーさんの行方を知っているかもしれない。

地中に飲みこまれた時にスライムに取り込まれていないと良いのだけど。

それか別のダンジョンに転移した可能性もある。



「ノア、今日の所は帰りなさい。

 この者の身柄はこちらで預かるわ」


 長老様が指した先には、地中に飲まれたはずの男がエルフの兵士達に捕縛されていた。

どうやら意識を失っているようだ。

こちらも長老様が回収していたのだろう。

当然この国もこの男には聞くことがあるはずだ。

ここは素直に帰るとしよう。



「承知いたしました」


 私は長老様に感謝を伝えて、自宅に転移した。

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