29-39.危機感
今回もノアちゃん視点のお話です。
「カリアさん、今日は帰りますね。
また明日改めて来ます。
よろしいですか?」
「いや……」
カリアさんは未練がましげに、お姉さんの方に視線を向ける。
どうやら例の話を続けられる精神状況で無いことは自覚しているようだが、お姉さんとは未だ話足りないようだ。
もしくは、出来るだけ側にいたいのかもしれない。
昔はアルカとエイミーさんのように、姉妹や母娘のような関係を築いていたのかもしれない。
流石にそこまで詳しく聞くわけにもいかないけど。
お姉さんに残ってもらうべきだろうか。
それとも、一度冷静になってもらうために連れて帰るべきだろうか。
お姉さん次第かもしれない。
これからも会いに来るつもりがあるのか、フェードアウトするつもりでいるのか。
流石にやり過ぎただろうか。
お姉さんの気持ちも禄に考えず押し付けすぎたのだろうか。
教えない事がカリアさんの為だったのかもしれない。
結果的にカリアさんがお姉さんに未練を持っていたからプラスに働いただけなのかもしれない。
それを踏まえても伝えないべきだったのかもしれない。
私の浅慮で二人を引っ掻き回しただけなのかもしれない。
正しい事が何時でも正解だとは限らない。
それくらいはわかっていたつもりだったのに……
「ごめんね、ノアちゃん。
戻って来てもらったのに悪いけれど、ここは私に任せてくれる?」
「はい。すみません。
お願いします。お姉さん」
「ふふ。何でノアちゃんが謝るの?」
「いえ、なんでもありません。
それでは失礼します」
「うん」
「すまんな」
私は二人に頭を下げてから、再び自宅に転移した。
「さて、どうしましょうか。
セルフィーさんの行方をこちらでも探してみますか?
それか、例のスライムモドキを追いましょうか。
どちらも手がかりはありませんが」
『アルカなら』
『ほうほうある』
「そうなのですか?」
『うん』
『ノアもしってる』
『おなじどうぐ』
『つかってるひと』
『てんいもん』
『ひらける』
『あのまどうぐ』
『こわれてるけど』
『まだもってる』
「ありましたね。すっかり忘れていました。
とりあえず、おじいさんに修復を頼んでおきましょうか」
『たぶん』
『ひつようない』
『こわれたまま』
『いけるはず』
「なら今すぐに特定出来ますね。
問題はアルカに話すかどうかですが……」
『すらいむもどき』
『ひがいじんだい』
『かのうせい』
『ある』
「悩んでいる余裕は無さそうですね。
ですが、お姉さんにも相談しなければいけません」
『ごめん』
『さきにいう』
『べきだった』
「いえ、タイミングが無かったのでしょう。
優先度が高いのは事実ですが、正直な所危機感があるわけでもありませんから」
『それも』
『しかたない』
『ひがいでても』
『きょういでは』
『ない』
「私も自分の事ながら、良くない兆候ですね。
どこか他人事みたいな気持ちが抜けきれません」
『それがふつう』
『みたわけでも』
『いるとわかってる』
『わけでもない』
『あいて』
『てきいもつ』
『むずかし』
「そうですね」
『ハルがいう?』
「いえ、自分で言います。
気を使ってくれてありがとうございます。
結局アルカの力を借りる事になってしまいましたね」
『ハルも』
『ちからぶそく』
『かいせき』
『できなかった』
「それも仕方がない事です。
ハルに出来ないのなら他の誰にだって出来はしませんよ」
『イロハなら』
『ワンチャン』
『でも』
『イロハもいない』
『めんぼくない』
「ですから、気にする必要はありませんよ。
それにまだ、特定する手段をその方法に頼る必要は無いかもしれません。
例のスライムモドキが派手に行動しているのなら目立つ筈です。
なら、私達に出来る方法でも特定出来るかもしれません」
『てきのねらい』
『きになる』
「次の事件が起きるまでの残り時間がどれくらいかって事ですか?」
『それもある』
『けどもっと』
『おおきなもんだい』
『スライムモドキ』
『エルフてんてき』
『しゅういのまりょく』
『すいつくす』
『てきのねらい』
『エルフのくに』
『かも』
「それならかえって私達がなにかする必要なんて無いのかもしれませんね。
緊急事態となれば、長老さんがルネルさんを呼び戻すでしょう。
ルネルさんならどうとでもするのでは?」
『かもしれない』
『けど』
『たぶんそれは』
『ひがいでたあと』
『どうしようもない』
『それから』
『きっと』
『ルネルにたよる』
『よしとしない』
『ルネルのおしえご』
『そうかんがえる』
『はず』
『ノアも』
『そうでしょ?』
「まあ、そうですね……
確かに、ハルの言うとおりです。
戦いにおいてはルネルさんを頼ろうなんてしません。
アルカですら頼る事はないでしょう。
ルネルさんの教え子は全員知っています。
あの方は強くなる事が好きでも戦いは嫌っているのだと。
教えるのは好きでも、力を頼りにされるのは嫌うのだと。
誰もが知っているはずです。
……知っているはずでした。
すみません、先程の発言は忘れて下さい」
『しかたない』
『くにのきき』
『ルネルだって』
『だまってない』
『それもじじつ』
『まちがいじゃない』
『ただ』
『おしえごたち』
『かんがえちがう』
『それだけ』
「とにかく様子を見に行きましょう。
既に戦いが始まっているのなら一大事です。
とはいえ、今の私ならあれを倒せます」
『ハルも』
『ちからかす』
『もちろん私もよ!』
「感謝します」
 




