29-38.経緯
今回もノアちゃん視点のお話です。
「話は出来ましたか?」
「ああ。
待たせて悪かったな」
「いえ。
気にしないで下さい。
お姉さんも大丈夫ですか?
今後は協力関係を築けそうですか?」
「……うん」
「なんか顔が赤くないですか?」
「気の所為よ」
「カリアさんとお姉さんってどんな関係だったのですか?
もしかして恋人だったとか?」
「突然何を言い出すんだ。
そんなわけがないだろう。
妙な勘違いをするな。
……強いて言うなら、以前のお前とアルカに近い」
「どういう事ですか?
お姉さん。お姉さんの口から説明して下さい」
「……えっとその」
「言葉を濁さず正直に説明して下さい。
これ以上失望させないで下さい」
「いやあのその」
「ミユキさん!」
「はい!」
「はいじゃありません。
説明して下さい」
「違うのよ。私にそんなつもり無かったのよ。
ただ、助けた子に仕事を紹介して面倒見てただけなの。
カリアがそこまで私のことを気にしていたなんて知らなかったの」
「自分の家に住まわせていたのですか?」
「……その……はい。
でも、そんな長い間じゃなくて、半年くらいの話で……」
「けれど、その後も五年くらいは一緒に仕事をしていたんですよね?
自分の部下として面倒を見ていたのですよね?」
「はい……そうです……」
「もしかして、カリアさん以外にもそんな事をしていたのですか?」
「……なんどか」
「その度に死んだことにして放り出してきたのですか?」
「いや、そのでも、はい……」
「はぁ~~~」
「ごめんなさい……」
「全員抱え込む分、アルカの方がまだマシです」
「ごめんなさい……」
「いえ、言い過ぎましたね。
マシと言うほどにも大差はありませんか」
「どの道、アルカの姉だという話も納得だな」
「ごめんなさい……」
「もう謝るのは止めて下さい。
何に対するものかもわからないような謝罪はいりません」
「はい……」
「そもそも私は謝られるような立場では無いのですが。
もう少し穏便に済ませられなかったのですか?
カリアさんがこちらのテッサ支部に来てからならば簡単に行方を晦ませられたのでは?
いえ、すみません。
今更こんな質問に意味はありませんね。
余計な事を聞きました」
「いや、ノア違うんだ。
シエルの訃報を聞いた時点で、既に私はこの支部に来ていた。
今思うと、私の異動もシエルが手配していたのだろう」
「……そうです」
「それは、すみません。
早合点して言い過ぎました。
一応手は打っていたのですね。
残り数年で行方を晦ますつもりにしては、深入りしすぎだったとは思いますが。
けれどそれも、お姉さんの孤独を思えば責められる事でもありませんね。
すみません、ミユキお姉さん」
「ううん。
私がちゃんと説明していれば、ここまで拗れる事も無かったのよ」
「まあ、理由はどうあれカリアさんの人生に大きな影響を与えてしまったのは事実です。
その結果、ギルドの掌握などという大事にまで発展したのです。
責任を取って、お姉さんも協力して下さい。
可能な限り早く終わらせて、カリアさんを解放してあげましょう。
あれ?
カリアさんが自分の事を気にしていると思わなかったのに、わざわざ他の支部にまで飛ばしたのですか?」
「……」
「お姉さん?
嘘を付いたのですか?」
「……いえ、違うの。
そうじゃなくて、想像より想ってくれていたというか、ここまですれば忘れられるだろうと思ってたと言うか、そもそも名乗るつもりも無かったし……。
まさか乗っ取りまでして私を探そうとしてくれていたなんて想像出来るはず無いじゃない……」
「お姉さんがそれを言うのですか?
アルカと再会するために六百年も耐え忍んできたのに?」
「ノアちゃん!カリアの前よ!」
「すみません、口が滑りました」
「……何も聞いとらん。
私は知らん。
というか知りたくない……」
カリアさんは尻すぼみにそう言いながら、項垂れてしまった。
流石に色々と衝撃的過ぎたのだろう。
一旦、日を改めるとしよう。
どう見ても今から悪巧みをするという雰囲気ではない。




