29-35.即落ち?
『ノア、イロハと契約してあげて』
『つい先程まで反対していたのに突然どうしたのですか?』
『ごめん、聞かないで……』
そんなに情けない理由なのだろうか……
『そんなんじゃ!……無くもないけど……』
『まあ、良いです。
ルチアがそう言うのなら受け入れましょう。
先にイロハに頼み事をしたのはこちらなのですから』
『ありがとう、ノア、ルチア。
これから仲良くしましょう』
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数分前。
『ルチア、少しノアに内緒で話をしましょう』
『早速仕掛けてきたわね!
受けて立つわ!』
『ごめんなさい』
『え?』
『さっきの話は嘘よ。
私はノアにもあなたにも興味なんて無いわ。
ただ、ノアがやろうとしている事に興味があるの。
それを側で見せて欲しいだけなの。
契約はその口実でしかないわ。
だからお願い。
協力してくれないかしら。
決してノアを取り上げたりしないと約束するわ』
『何言ってるのよ!?
そんな事言われたら尚の事信用できるわけないじゃない!』
『そう。
なら仕方がないわ。
手を変えましょう。
素直に正面から示しましょう。
その方がノアの好みだものね。
私はノアの役に立つのだと実力で証明して、仲間に入れてもらうわ。
その結果私の方が、ルチアより気に入られてしまっても仕方が無いわよね。
折角ルチアに気を使ってあげたのに、突っぱねられてしまったのだもの』
『ふっふん!
そんな事あるわけ無いじゃない。
イロハがどんなに頑張ったって私とノアの間に入れるわけないんだから!』
『ええ、もちろん。
それはわかっているわ。
だから私が狙うのはルネルのような立場よ。
ルネルよりもう少しだけ身近にいてあげるの。
ノアはきっと頼りにしてくれるでしょうね。
私にはその力があるのだもの』
『くっ……
何が望みなの!』
『だから言ってるじゃない。
ノアのやろうとしている事を側で見ていたいのだと』
『その理由よ!
その先と言い換えてもいいわ!
興味本位だけじゃないんでしょ!
アルカの側に居られる時間を減らしてまで何をするつもりなの!?』
『ふふ。それはね……』
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『本気?』
『ええ。
納得できるでしょう?
私は常にアルカの為だけに在るのだもの』
『確かにそうだけど……』
『安心なさい。
私は決してアルカの為にならない事はしないわ。
ノアを害する事なんてするわけがない。
アルカに嫌われてまで、あなた達に構う理由なんて無いでしょう?』
『……わかったわ。
けれど、余計な事をしたら許さないわよ』
『ふふ。疑り深いのね。
私は私の目的の為に便乗するだけよ。
邪魔なんてするわけが無いじゃない。
ノア達のやり口は温すぎるとは思うけれど、方針そのものを否定する気はないのだもの。
精々私の、いえ、アルカの為に頑張ってもらいましょう』
『私が今の話をノアにするとは思わないの?』
『話しても構わないわよ。
ノアなら賛同するとまではいかなくとも、私の案も有用だと認めてくれるでしょう。
そうなれば、利用し利用される関係として、私達は共に行動する事になるだけよ。
私はそれでも構わないのだけど』
『ノアにそんな事はさせないわ』
『ええ。ルチアならそう言ってくれると思っていたわ。
ノアの為に、ノアには内緒にしておきましょう。
私達二人だけの秘密よ。
仲良くしましょう、ルチア』
『絶っ対!嫌!』
『残念ね』
『思ってもいないくせに』
『そんな事ないわ。
それなりにあなた達の事も気に入っているわよ』
『けど、本当はノアと契約するの嫌なんでしょう?』
『……そんな事を聞いて何になるの?』
『ああ、なんだ。
そういう事なのね。
イロハ、あなた可哀想だわ』
『どういう意味?』
『無理やり植え付けられた好意に従って、縋り付いて。
アルカの事だけを愛して、考えて。
アルカの為に望まない契約まで結ぼうとして。
そこまでしてもアルカの一番にもなれなくて。
けれどそんな不満を向けられる相手もいなくて』
『一つだけアドバイスしてあげる。
あなたもアルカ以外の一番を見つけなさい。
二番でも良いわ。
とにかくアルカ以外の、本心から大切に思える相手を見つけなさい。
さっき自分でも欲しいと言ったでしょ?
あの言葉は嘘だったなんて言ったけれど、実際にあなたはそう思っているのでしょうけれど、本当は自分でもわかっているのよ。
土壇場になって怖くて誤魔化しただけなのよ』
『また失うのが怖いからって立ち止まってはダメよ。
あなたは根本的に一人で生きる事に向いていないわ。
アルカではあなたの孤独を埋めるのは無理よ。
何時でも側にいてくれる相手を見つけなさい。
私も協力してあげるから。
あなたが本心から望むのなら、私とノアが隣に居てあげるから。
だからよく考えなさい』
『……』
『さっきの言葉は取り消すわ。
精々仲良くしましょう。イロハ』
『生意気な子ね。
まるでセレネやハルみたいだわ。
ノアとは似ても似つかないわね』
『ふふん!
もう負け惜しみにしか聴こえないわね!』
『本当に生意気』




