29-31.度量
私はハルちゃんと仲直りした後、再び私世界の表層に浮上し、ナハトを連れてニクス世界に帰還した。
「何故連れてきたのです?」
ナハトは無言で私にしがみつく。
ノアちゃんの第一声のせいか、それとも無理やり拉致された時に何かあったのか。
私はナハトを抱きしめて、安心させようと背を撫でる。
「少し怖がらせ過ぎてしまったの。
いきなり誘拐されて密室に閉じ込められれば無理もないでしょ」
『マスターの力のせいです。
あちらでは隠蔽が効かないのです。
私のせいみたいに言わないで下さい』
シーちゃんは私だけに伝わるように苦言を呈した。
後でシーちゃんも抱きしめに行こう。
『お待ちしております』
ごめんね、シーちゃん。
話が回りくどくなるから、このまま通させてもらうわ。
『仕方ありませんね』
ありがと~
「……そうですね。
アルカの言うとおりです。
ですが、アルカでなくとも、頼りになる子達がいくらでもいたでしょう?
それに何時もなら、ハルの教育を優先するのでは?」
「まあ、そうなんだけどさ。
少しくらいはメンタルケアしようと思っただけよ。
皆してそんな風に邪推して責めないでよ。
そろそろ泣くわよ」
「やめてください、その脅しは卑怯です。
アルカに泣かれたら本気で困ります。
もう二度とあんなの嫌なんですから」
「私だって嫌よ。
けれどもう少しだけ信用して。
どの口でって思うだろうけど、なんとか飲み込んで」
「随分と無茶苦茶言ってるわね。
一年も経たずに二十人以上も抱え込んでおいて、本当にどの口で言っているのよ」
「お姉ちゃんは黙ってて」
「小春、私も言えた立場じゃないって事くらいはわかっているわ。
けれど、ノアちゃんに押し付けるのは止めなさい。
何を言われてもあなたが我慢するのよ。
それがあなたの責任よ。
心の弱さは克服なさい。
飲み込むべきはあなたの方よ。
私達全員を受け止めきれるのだと、度量を示しなさい」
「はい……ごめんなさい。
仰るとおりです」
「まあいいです。
アルカが抱えきれないのなら私も支えます。
もちろん、お姉さんもそうしてくれます。
だから、折れないで下さい。
腐らないで下さい。
何時でも笑っていて下さい」
「ごめんなさい……」
「はい、もうこの話はお終いです。
遅くなりましたが、レヴィとルビィはどうですか?
夕飯前に見た時には既に十分元気になっていたようですが」
「ええ。
まだ流石に側を離れるわけにもいかないけど、だいぶ落ち着いたと思うわ。
明日は買い物に行こうと思うの。
レヴィとルビィの分はカノンが十分に揃えてくれたけど、リヴィの新しい服も必要でしょ?
ついでだから、レヴィとルビィも連れ出してあげたいのだけど」
「……性急過ぎませんか?
二人共元々、人の町から離れた場所で暮らしていた事は認識してます?」
「あっ……」
「忘れていたのですね。
先ずは普通に外を出歩いてからではないですか?
そこで慣れてから、町に行くべきでは?」
「えっと、実は今日少し外を歩いたというか」
「そうなんですか?
ずっと部屋に籠もっていたのかと思っていました」
「いやまあ、そうなんだけどさ」
「どういう事です?」
「私世界に皆が町を作ってくれたの。
私の故郷とそっくりのね。
まだ人こそいないけど、その町の中を少し歩いたのよ」
「行きましょう」
「今から?」
「はい。気になります。
今すぐ行きましょう」
「お姉ちゃんも行く?」
「ええ、現地で小春の感想も聞かせて」
「お姉ちゃん……きもい」
「小春!?」
「私の部屋拘りすぎよ。
匂いの再現なんてどうやったのよ」
「私は監修しただけだし……」
『リテイク回数は最多でした』
「シイナちゃん!?
聞いてたの!?」
『もちろんです。
ミユキが保身に走ったのも聞いていました。
まあ、マスターに気持ち悪いとまで言われてはそれも致し方ありませんね』
「ごめんなさい……」
「シーちゃん、私も改めてごめんなさい……」
『お二人はよく似ていますね。
ダメなところが』
「遂にシイナにすら辛辣な事を言われるようになったのですね」
「あ、いや、シーちゃんには自分から頼んだの……」
「そういう趣味だったのですか?
先程は嫌がっていましたが」
「趣味とかじゃなくて!
シーちゃんともっと仲良くなりたくて!」
「ああ。
もっと気楽に話せって事を極端に伝えたのですね」
「何で今のでそこまで読み取れるの?」
「ノアちゃんと私は以心伝心だからよ、お姉ちゃん」
「私の心は中々伝わりませんが」
「抱きしめて良い?」
「珍しく察してくれましたね」
「さっきハルちゃんにも叱られたから……」
「それは聞きたくありませんでした。
それより、まずは抱きしめて下さい。
一緒に寝れない時は、せめてそれくらいして下さい。
それから、町に行ってみましょう。
アルカの育った場所を見せて下さい」
「うん。
ハルちゃん、ナハトをお願い。
ナハトもごめんね。
同化してくれれば、きっと安心できるから」
私の頼み通り、ハルちゃんが黒い霧でナハトを取り込む。
一通り済んだら、後でナハトの様子もみるとしよう。
それからようやく、私はノアちゃんを抱きしめる。
暫くそうしてから、私世界に連れ込んだ。
私世界ではシーちゃんが待ち構えていた。
シーちゃんを抱きしめると、次はイロハが順番待ちしていた。
その次にメアちゃん、ルチアと続く。
あかん、この調子だと切りが無い。
そんな心配を余所に、他の子達が出てくる事は無かった。
遠慮してくれたのかしら。
ノアちゃんに自宅を見せて満足してもらったら、全員にハグして周る事にしよう。




