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29-30.不安定

「セルフィーさんについては以上です。

 他に何かありますか?」


『あのこのけん』


「まだ早くないですか?」


『ダメ』

『あのこ』

『まだきゅうけつき』

『しかもだんじょんから』

『ひきはなされた』


『いずれ』

『うえる』


「ああ、そうですよね。

 すみません、失念していました。

 どうせ引き合わせるなら、すぐにアルカと契約してもらいましょう」


「あの子って?

 またフィリアスのダンジョンが出現したの?」


「ええ。そういう事です。

 レヴィ達の件がもう少し落ち着いてからと思っていたのですが、そういうわけにもいかないようです」


「すぐに行きましょう。

 何処に居るの?」


『アルカせかい』


「え?どうやって?

 私入れてないわよ?

 アルカネットもまだ使えないわよね?」


『しゅうのうくうかん』


「入れちゃったの?」


『いれちゃった』


「それが出来るなら、ミーシャの世界からも帰れたんじゃないの?」


『はぁ~~~』


 心底呆れたと、ため息を付くハルちゃん。



『さんざん』

『せつめいした』


『それはむり』


「そんな怒らないでよ……」


『おこってない』

『しつぼうしただけ』


「ハルちゃん……酷い……」


『いいからうごく』


「はい……」


「すっかり尻に敷かれているわね」


「どうやらそれけでも無さそうですが……

 まあ、アルカならどうにかするでしょう。

 それより、アルカ達が戻るまでお姉さんには例の件についてどう思っているのか聞かせてもらいましょう。

 明日の方針を決めねばなりません」


「例の件って?」


「こちらはいいので、早く行ってきて下さい」


「はい……」


 私はハルちゃんとノアちゃんに冷たくあしらわれて、渋々と私世界に潜り込んだ。


 私世界のシーちゃんの船の中にある一室に、例の吸血鬼っ娘が囚われていた。



「褐色っ娘キター!!!」


「!?」


「なんで」

「テンションたかい?」


「マスターの好みなのでしょうか。

 私も変更可能ですが……」


「いえ、ダメよ!

 シーちゃんはそのままでいて!

 今のシーちゃんが一番可愛いのよ!」


「イエス、マスター!」


「そんなことより」

「はやくけいやく」

「なまえきめる」


「その前に、少しだけお話させて。

 すっかり怯えてしまっているわ」


「どう考えてもマスターのせいです」


「ただでさえ」

「ばけものなのに」

「おおごえだす」

「から」


「化け物って言わないでよ!」


「!?」


「マスター、落ち着いて下さい。

 これ以上脅かせば、対話が難しくなります」


「そうね、ごめんね。

 私はアルカっていうの。

 こんなところに閉じ込めてしまったけれど、仲良くしましょう」


「こんなところ?」


「シイナすてい」

「アルカざつすぎ」


「えっと、やっぱり先に名前を付けてしまいましょうか。

 話がし辛いわ」


「はやくする」


「ハルちゃん、いい加減機嫌直してよ。

 そろそろ泣くわよ」


「……」

「ごめん」

「いいすぎた」


「ハルちゃん!」


「でもいまは」

「このこのこと」


「そうね、えっと~

 あ!ありがとう、シーちゃん。

 後付けてないのは……」


 私は何時ものように、シーちゃんの差し出したタブレットと少女を見ながら、名前を考える。



「ナハト。

 あなたは今からナハトよ!」


「!?」


 私の宣言にビクビクと怯える褐色っ娘。

完全に拉致監禁状態だ。

更にここから、血を飲ませて洗脳教育を施すのだ。

あかんやろ。どう考えても。


 私は他の子にもしてきたように、ナハトを抱き上げて、背中をポンポンしながら、安心させようと試みる。


 ハルちゃんからの、はよ血飲ませんかいと言わんばかりの視線を無視して、ナハトにゆっくりと語りかける。


 それから暫くして、ナハトの強張った体から力が抜けたところで、何時ものように指を咥えさせた。


 ナハトの体が光りに包まれ、契約と進化が完了する。

案の定、ナハトも神力への耐性があるようだ。

大して苦しむ事もなく、進化できた。



「ナハト、これから宜しくね」


「そこまで」

「ナハトはこっち」


「どうする気、ハルちゃん?」


「まずはきょういく」


「その後は?」


「このせかいで」

「くらす」


「ハルちゃんズには加えないの?」


「そう」


「何で?今機嫌が悪いから?」


「そんなわけない」

「きりがないから」

「こんごは」

「せんべつする」


「アルカ……」


「大丈夫よ、ナハト。

 放りだしたりしないから安心して」


「アルカ!」


「今のハルちゃんには預けられないわ。

 どうしてそんな事をこの場になってから話したの?

 先に言ってくれれば心の準備も出来たし、接し方だってもう少し考えられたでしょ?」


「……」


「とにかく、一度外に出ましょう。

 ナハトはこのまま連れて行くわ」


「……」


「ハルちゃん、今のハルちゃんを一人になんてしないわよ。

 一緒に来なさい。

 私の側を離れるなんて認めないわ。

 これは命令よ」


「……」

「アルカのばか」


 私は咄嗟にハルちゃんを深層に引きずり込んだ。

小型船を一艘残しておいてもらって良かった。

まさか、こんな事に使うとは思わなかったけど。


 私はハルちゃんを抱き寄せて、語りかける。



「ハルちゃん、ごめんね。

 ハルちゃんが嫌がる事をしたかったわけじゃないの。

 ハルちゃんはきっといっぱい我慢してくれてるんだよね。

 それが抑えきれなくなっちゃったんだよね。

 ここでなら時間はいくらでもあるから。

 だから聞かせて。

 全て吐き出して。

 いくらでも罵っていいから。

 だからお願い。

 その後でいいから。

 最期には仲直りしましょう」


「ばか」


「うん」


「そんなのいらない」

「ののしるなんて」

「ひつようない」

「ただ」

「ぎゅって」

「してくれればいいの」


「うん、ごめんね」


 私はハルちゃんを強く抱きしめる。


「こんどは」

「いわれないでも」

「こうして」

「それだけ」


「それだけで」

「ちゃんとするから」


「ごめんなさい」

「いっぱい」

「いやなこと」

「いって」


「ごめんなさい」


「ううん。

 私こそ、ごめんね。

 ハルちゃんが何も言ってくれないなんて被害者面して。

 いっぱい我慢してくれたのに」


「まいにち」

「ぎゅってして」


「うん」


「なんかいも」

「して」


「うん」


「けんかしたら」

「して」


「うん」


「したくなったら」

「して」


「うん」


「なにもなくても」

「して」


「うん」


「やくそく」


「うん。

 約束よ」


「ならゆるす」

「アルカも」

「ゆるしてくれる?」


「うん、もちろん。

 ごめんね。ありがとう、ハルちゃん」


「うん」

「アルカ」

「だいすき」

「だよ」


「うん、私もよ。

 ハルちゃん大好き」


「うん」

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