29-29.報告
暫く馬鹿騒ぎを続けた後、突然我に返ったノアちゃんが解散を宣言した。
アリア、ルカ、リヴィ、レーネは揃って大寝室に向かい、私とノアちゃんはルネルとお姉ちゃんの飲み会に向かった。
だいぶ時間が経ってしまったが、二人もまだ飲んでいたようだ。
「こ~は~る~!!」
酔っ払いが飛びついてきた。
うっわ酒くっさ!
どんだけ飲んだの!?
酒に強いと豪語するお姉ちゃんがこの体たらくとは。
本題忘れてないでしょうね。
ちゃんと聞き出したのよね?
「ようやっと来おったか」
「追加いりますか?」
「いや、もう十分じゃ。
いつも済まんな」
「いえ。
普段お世話になっていますから。
これくらいならいくらでも」
「ノアは良い子じゃのう」
ルネルはそう笑って、部屋を出ようと歩き出す。
心做しか、僅かに、もしかしたら、若干体の芯がブレている気がする。
今ならやれるかしら。
私は背後から、ルネルに抱きつこうと襲いかかった。
「へぶっ」
「何じゃお主、体を動かしたいのか?
済まんが、わしはもう寝る。
明日にせい」
ルネルはいつも通りの身のこなしで私を放り投げ、部屋を出て歩き去っていった。
ちくせう。
「何バカやってるんです?」
「今ならルネルに勝てるかなって」
「そんなわけないでしょう。
何故今更そんな事を考えたのですか?」
「……ルネルがくれるって言うから」
「はい?」
「ルネルが言ったのよ。
私がルネルに勝ったら、ルネルを私にくれるって」
「それは酔った状態を不意打ちして認められるものなのですか?」
「ルネルなら認めるわ。
叱りもするでしょうけど」
「まあ、そうですね。
とはいえ、程々にしてください。
鬱陶しくなって旅立ってしまっても知りませんからね」
「そうね。
次はちゃんと真っ向勝負を挑むわ」
「頑張ってください。
あまりのんびりしていたら、私が先に勝ち取ってしまいますからね」
「それはダメよ!
ノアちゃんより速く強くなるなんて無理に決まってるじゃない!」
「そんな事を言うようでは、ルネルさんに勝つなど不可能です。
私を軽く越えていくくらいの気概は持って下さい」
「そうだけどさぁ!」
「小春、話をするのでしょう。
何時までも転がっていないで席に付きなさい」
「お姉ちゃん、もう復活したの?」
「酔覚ましの魔法って便利よね」
「そう言いながら新しく飲もうとしないでください」
ノアちゃんはお姉ちゃんの手からグラスを奪い、テキパキとテーブルを片付けていく。
「待って!そのおつまみ私も食べたい!」
「お酒はダメですよ」
そう言って、席についた私の前におつまみを寄せてくれるノアちゃん。
「うん。ありがと~」
「それで、ノアちゃんは何処まで話したの?」
「まだ調査結果については何も話していません。
お姉さんがルネルさんに、セルフィーさんの昔の事を聞くつもりだと伝えただけです」
「そう、わかったわ。
じゃあ、」
「いえ、日中の出来事については私から話します。
気になる事があれば補足して下さい」
一瞬視線を交わし合って何やら打ち合わせる、ノアちゃんとお姉ちゃん。
何か私に話したくない事でもあるのかしら。
『……』
ハルちゃん?
何その反応?
ハルちゃんもグルなの?
そんなに酷い結果だったのかしら……
でも、それならセルフィーさんの過去を探ったりはしないだろうしなぁ。
『とりあえず』
『きく』
がってん。
「結論としては、まず間違いなく何者かがセルフィーさんを襲撃しました。
破壊の痕跡から、私達はそう結論付けました。
セルフィーさんの生死は不明です。
過去に冒険者として活動していた為、冒険者ギルドの記録を元に関係者にも当たってみましたが、何れもセルフィーさんの現状について詳しい者はいませんでした。
同様にレヴィの父親の影すらも掴めてはいません。
明日は、ギルドにセルフィーさんの捜索依頼を出す予定です。
今日の流れとしてはそんな所でしょうか。
お姉さんはどうでしたか?
ルネルさんから何か聞けましたか?」
「いいえ。大した事は聞けなかったわ。
強いて言うなら、ルネルさんの弟子の一人でもあるみたいだから、それなりに強いはずってくらいね」
「やはり口を噤みましたか」
「ええ。
話したがってはいなかったわね」
「ルネルと長老は今回の件について何かを知っているのかしら。
それとも、単にエルフの国の決まり事なのかしら。
国を出た者について言及してはいけないとか。
けれど、ルネルは普通に出入りしてるしなぁ」
「ルネルさんの個人的な感傷かもしれません。
あまりそういう事を話したがる人でもないですから」
「むしろお姉ちゃんはよくルネルの口を割らせたわね。
話す気が無い事は徹底して口にしないでしょうに」
「ルネルさんだって精神性は人のそれだもの」
「まあ、神様ですらあれなのですし」
「あれ呼ばわりは酷いわ。
ニクスもノルンもとっても可愛いじゃない」
「可愛いかどうかなんて話していません。
しかも、ミーシャの事は省きましたね。
とにかく、セルフィーさんを見つけ出すにはそれなりの時間を要するでしょう。
当然、生きているのならですが」
「時間については仕方ないわね。
悪いけれど、もう少しだけお願いね。
何れは手を引くことも考えなければいけないかもだけど」
「そうですね……」




