29-27.話し合い
早めの夕飯を食べていると、部屋にエリスが来てくれた。
家に帰る前に挨拶に来てくれたのだ。
今日は実家で晩御飯を食べるという話だったけれど、この家の皆が夕食を始めるギリギリまでこっちにいたらしい。
すっかり、アリア達とも仲良くなったようだ。
さっきまで一緒にお風呂に入っていたそうだ。
大丈夫?セクハラされてない?
というか、私から会いに行くべきだった。
レヴィとルビィの事があるからって、数分くらい席を外しても問題はなかったはずだ。
明日はもっと気にかけよう。
折角来てくれたのに、この扱いはあんまりだ。
私は部屋の外でエリスを抱きしめて、少しだけ話をした。
それからエリスは、もうすぐ晩御飯の時間だからと迎えにきたノアちゃんに連れられて、実家に帰っていった。
夕食後に三人でお風呂に入っていると、ルビィがうつらうつらとし始めた。
私は風呂から上がり、レヴィとルビィを私の部屋の布団に寝かせ、自分も隣に横になる。
このまま一緒に眠ってしまいたいけれど、ノアちゃん達とも話があるし、まだ眠るわけにはいかない。
徹夜明けでこれは危険かもしれない。
とはいえ、二人だけ寝かせるのも忍びない。
幸い、ルビィに続き、レヴィもすぐに眠りについた。
しばらく二人の寝顔を眺めてから、二人を起こさないように転移で部屋を抜け出した。
「お待たせ、ノアちゃん」
「二人はもう寝たのですね」
「ええ。
レヴィもルビィに釣られてすぐに寝てしまったわ。
明日からはルビィの為にお昼寝の時間も設けましょう」
「そうですね。
あの年齢なら必要でしょう」
「お姉ちゃんは?」
「ルネルさんと飲んでます。
例の件で、一応探りを入れておくつもりのようです」
「セルフィーさんの事ね。
ルネルなら知り合いの事は絶対に覚えているはずよ。
過去にエルフの国にいたのは間違い無いのだし、国外に出るような人なら、ルネルと接点があると考えた方が自然だわ」
「はい。
教えてくれると良いのですが」
「お姉ちゃんの頑張りに期待するとしましょう」
「そもそもアルカは聞いたのですか?」
「聞いてない」
「なんでです?」
「任せてって言っちゃったから?」
「その言葉とレヴィとどちらが大切なんです?」
「レヴィ。
私も言ってくるわ」
「待って下さい、今は取り敢えずお姉さんに任せましょう。
そうやって衝動的に動いて台無しにしたら本末転倒です。
先にリヴィの件を話し合いましょう」
「そうね、そうしましょう。
リヴィはどこに?」
「部屋にいますよ。
先に少しアルカと話しをしたいと伝えて、下がってもらいました」
「そう。
聞くわ。
話したい事って?」
「リヴィとの契約で生じる精神への影響を知りたいのです。
私は急激な成長等は望んでいません。
リヴィは魔物です。
最初からある程度成熟していたレーネとも異なります。
そのような心配は無いと言い切れますか?」
「正直、それを断言するのは無理よ。
契約そのものにそんな効力が無いことは、ノアちゃんもわかっているわよね。
仮に契約をキッカケに性格が大きく変わったとしても、それはあくまでも私との関係の変化か、力を得たことによる本人の意識の変化だけが原因よ。
けれど、これはあくまでも今までの経験でしかないわ。
フィリアス達も幼いとはいえ、最初からある程度の知識と自我を持っていた。
リヴィと大差ないような子もいるけれど、完全に同じ条件とは言えないわ」
「アルカはそれを踏まえてどう考えますか?」
「リヴィならきっと大丈夫よ」
「単なる思考放棄では?」
「いいえ。
今日もリヴィと一緒に過ごしていてそう思ったわ。
リヴィは実年齢以上にしっかり考えてる。
その成長の早さも魔物だからこそなのかもしれないけれど、当然それだけじゃなくて、リヴィ本人の頑張りとノアちゃんの教育のお陰だと思うの。
だから、リヴィなら大丈夫。
もうちゃんと自分を持ってる。
力を得たからって性格までは変わらないと思うの」
「そうですか……
ハルはどう思いますか?」
『きゆう』
「バッサリしすぎよ、ハルちゃん」
「アルカの話した事をたった三文字に縮めてしまいましたね」
『ぐだぐだなやむ』
『ひつようない』
『リヴィ』
『いいこ』
『それに』
『かしこい』
『ノアも』
『しんじる』
「なら、メアはどうなのですか?
変わっていませんか?」
『……』
「どうだろうって言われても知りませんよ……」
『メアは』
『メアは』
『……』
『べつわく』
「ハル、何を悩んだのです?」
「ハルちゃんはメアちゃんをあざとい子だと思ってるから」
『……』
「大丈夫よ、私はそんな風に思ってないわ。
私の思考は見えてるでしょ」
『……』
「もう少し待っててね」
『……』
「ごめんってば。
今度ちゃんと時間取るから」
「アルカは何を話しているんですか?
メアと何か話しているのだろうとは思いますが、相変わらずこちらには何も聞こえませんよ」
『ほっとく』
『いまは』
『リヴィのこと』
「そうですね。
とはいえ、後は私次第という事ですが」
『そう』
『はらくくる』
「……やはり、あと五年くらい待ちませんか?」
『ノア』
『アルカに』
『せまったとき』
『じゅうごまで』
『まていわれて』
『どうおもった?』
「それを持ち出すのは卑怯です」
『ノア』
『がまんできた?』
「ハルちゃん、追い打ちはダメよ」
『アルカ』
『メアとあそんでて』
「メアちゃんと話す度に機嫌損ねるのは止めなさい。
もしかして、ノアちゃんにもそれであたっていたの?
なんでそんなにメアちゃんにはムキになってしまうの?
ハルちゃんだって」
『アルカ』
『それいじょうおこる』
『けんかする?』
「横暴よ、ハルちゃん。
そんな事言うなんて、自覚してるって事じゃない」
『うるさい』
「うるさいなんて言わないで。
ハルちゃん、ちゃんと話しをしましょう。
私、ハルちゃんに嫌われるなんて嫌よ」
『そんなことありえない』
『ハルがアルカ』
『きらいなるわけない』
「ならちゃんと話して。
私だけじゃなくて、メアちゃんともよ。
メアちゃんの事が苦手なのはわかるけれど、そのままじゃダメよ。
私達は一心同体なんだから」
『……』
『ぜんしょする』
「一度、場を改めましょうか。
アルカもルネルさん達に合流するのですよね?」
『ダメ』
『にがさない』
『それはそれ』
『ノア』
『けつだん』
『する』
「そうね。
決断出来るかはともかく、話を戻しましょう」
「アルカまで……」
 




