29-25.接点
今回もノアちゃん視点のお話です。
「まさか元パーティーメンバーすら、レヴェリーちゃんの父親を知らないなんてね」
「タイミング的には既に接点が有ってもおかしくはないのですが。
それだけ、セルフィーさんが秘密を厳守していたのでしょう」
「そもそも、何故秘密にしていたのかしら。
確かに、恋愛関係はトラブルの元にもなり得るけれど、パーティーと一切関係のない相手なら、むしろ話しておいた方が面倒にならずに済むと思うのだけど」
「パーティーメンバーの誰かでは無くても、共通の知り合いだったのかもしれません。
知られると不都合があったのか、単に気恥ずかしかったのか、そんなところではないでしょうか」
「そうね……
まあ、聞いた話の中に嘘が混じっている可能性だってあるのだけど。
本当は知っていて口を噤んでいるのかもしれないわ」
「記憶は覗かなかったのですか?」
「流石にそこまでしないわ。
犯罪者相手ならともかくね」
「……」
「その反応は、ノアちゃん、感情を読む力を使ったのね?
まあ、それくらいなら良いんじゃないかしら。
調べたのは嘘を付いているかどうかくらいでしょ?」
「ええ、まあ……
とりあえず、語っていただいた内容は真実のようです」
「とはいえ、何も知らなかったとわかっただけなのよね」
「セルフィーさんが依頼で立ち寄った場所も辿ってみます?
どこかにヒントとなる痕跡が残されているかもしれません」
「他に良い手がなければ、その方法しか無いでしょうね。
とはいえ、十年以上は前の話だもの。
碌な痕跡が残っているとも思えないわ」
「そうですね……」
「小春ならこんな時どうするのかしら。
あれだけ色々と解決してきたのだから、ノウハウでもあるのかしら」
「いえ、そうではありません。
全く別の理由で向かった先が、偶然敵の本拠地だったりするだけなので、アルカ自身が意図時に突き止められるわけではないんです」
「敵からしたら悪夢みたいな存在ね」
「お姉さんにも同じような特殊能力はないのですか?」
「あるわけないじゃない。
というか、そういう理由のあるものなの?
ニクスが何か授けたの?」
「いえ、ニクスが授けたとは違うみたいです。
どうやら、異世界から来た者にはそんな運命が付き纏うそうです。
ニクスは因果と言っていました」
「因果ねぇ。
その話が事実なら、私も同じ事が言えるのでしょうけど。
とはいえ、あまり心当たりは無いわね。
強いて言うなら、不老を手に入れた時のが……
いえ、なんでもないわ。
とりあえず、その件は考えるだけ無駄ね。
素直に現実的な手段を考えましょう」
「人が駄目なら物や場所ですね。
極端に魔力が減っている場所などを特定できないでしょうか」
「世界中を調べるのは無茶だし、ダンジョン内も含めて考えなければならないわ」
「それだと、ニクスでも無理かもしれませんね」
「もういっそ諦めてしまわない?
何れ小春が敵の本拠地を見つけ出すのでしょう?
その為の支援準備を整えておく方が有意義じゃない?」
「ダメですよ。
気持ちはわかりますけど」
「冗談よ。
半分くらいは」
「突然どうしたのですか?
やる気が無くなってきましたか?」
「そんなはず無いわ。
例の組織については私も無関係とは言い切れないもの。
関わっている可能性がある限り、知らんぷりするつもりはない。
ただ、もう少しどうにかならないのかと思って。
折角優秀な子達が集まっているのだから、出来ることはもっとあると思うのだけど」
「つまり、調査方針を見直したいのですね。
確かにカノンやセレネの力も借りれば二人で調査するより調べられるものも増えるとは思いますが」
「まあ、そんなところよ」
「他にもなにか?」
「グリアさんやルネルさん、それにクレアのご実家にも力を借りたらどうかしら?
それにギルドだって信用できないからって遠ざけるだけではなく、もっと利用しても良いと思うの」
「ギルドの方はお姉さんがしたような秘密裏のものではなく、正面からという事ですよね?
つまり、私がAランクとしての権限で何かを頼めば良いのですね?」
「そうよ。
何でもかんでも私達だけでやる必要なんて無いわ。
使えるものは何でも使っていきましょう」
「もしかして、なにか案があるのですか?」
「いいえ。
単純に人海戦術をしましょうって話よ」
「大事になりすぎませんか?
いくらギルドが一枚岩では無いとは言え、一度は壊滅まで追い込んだ上で尚、取り逃した相手です。
今度は確実に殲滅するまで止まれなくなるのでは?」
「そうね。
可能性は十分あるわね。
かえって私達のやる事も増えるかもしれない。
けれど、敢えて私個人の事情は抜いて言わせてもらうけれど、私達が何でもかんでも責任を持つ必要なんてないわ。
この世界の人達にも責任を取らせましょう。
ノアちゃんがニクスに頼りすぎてはダメだと思っているように、この世界の人達だって、小春や私達に任せきりではダメなのよ。
私達が何もかも手を出していたら、きっといつかニクスの邪魔になるわ」
「その為ならば、大きな争いも致し方なしと?」
「ええ。
戦争なんて何処の世界でも起きているのだもの。
人間である以上は絶対に避けられない要素なのよ」
「話の内容は理解できますが、納得するのは難しいです。
争いを止めようとする想いも、人間らしさです」
「それを言うには、私達は力を持ちすぎたわ。
上から一方的に押し付けるだけになってしまう。
だからといって、言葉だけで止めようとするのは無理よ。
争いに望む者たちは力を見せなければ納得しないわ。
つまり、最初から関わらない事が一番なのよ。
それでも関わる必要があるのなら、せめて真っ当な人に任せるべきなのよ。
世界中に影響を及ぼしかねないような出来事なら尚更よ」
「話が飛躍しすぎです。
私達は保護した幼子をお母さんに合わせてあげたいだけです。
スライムモドキが確定情報では無い以上、それを前提として考えるべきではありません。
想像だけで戦争を起こすなんて論外です。
巻き込む人が増えれば、想像が事実と誤認されたまま、大きな流れが出来上がる可能性すらあります。
それを利用しようとする者も出てくるかもしれません。
大勢を巻き込むならば、もっと慎重になるべきです」
「そうね、その考えも尤もだわ。
なら、あくまでも人探しに留めましょうか。
ギルドにセルフィーさんの行方を探してもらうの。
それなら私達の目的にも反しないし、上手くすれば誰かが何かしらの反応を見せるかもしれないわ」
「セルフィーさんを探されると困る人達がいるかもしれないという事ですか?」
「それだけではなく、セルフィーさんと関係のある者が何事かと興味を持つかもしれない。
そうすれば、手がかりが向こうから近づいてきてくれるでしょうね」
「ならギルド内部の情報を集められる人が必要ですね。
そんな人に一人心当たりがあります。
今日はそろそろいい時間ですし、明日にでも会いに行きませんか?」
「カリアの事でしょ?」
「え?」
「テッサのギルド長、カリアの事でしょ。
ノアちゃんの心当たりって」
「カリアさんと親しいのですか?
地下の町の件でエイミーさんとして会った時は初対面でしたよね?」
「まあ、昔色々とね」
「エイミーさんになる前という事ですか?」
「そんなところ」
「カリアさんっておいくつなんですか?
エイミーさんの前って十五年くらい前の話ですよね?」
「そういうのは聞いてはダメよ。
とはいえ、ノアちゃんの想像とは違うわ。
カリアの時はカリアが私の部下だったの。
昔本部に勤めていた時のね」
「お姉さん、それは迂闊すぎませんか?
今までずっと身を隠していたのですよね?
何でそんな人の多いところに?」
「情報の為よ。
ギルドには世界中の情報が集まるもの。
ギルド本部に勤めていたのは一度や二度じゃないわ。
心配しなくても大丈夫よ。
ちゃんと後腐れなく終わらせてきたから」
「カリアさんには伝えないのですか?」
「ええ、もちろん。
あの子は私を死んだものと思っているはずだしね」
「そうですか……
それ、本当に後腐れ無いですか?
カリアさん、引きずっていたりしませんか?」
「無いわよ。
私なんて口うるさい上司の一人でしかなかったもの」
「その割には、お姉さんも随分と親しげでは?」
「まあ、そうね。
上司の一人は少し控えめ過ぎる表現だったかも。
とにかく、色々とあったのよ」
「本当に大丈夫でしょうか。
お姉さんとアルカはダメな所がそっくりですから、散々に誑し込んでから放りだしたりしていないでしょうか」
「……」
「お姉さん?」
「いや、でもほら、もう十五年も前の話だし」
「何か心当たりがあるのですね?」
「カリアに協力してもらうのは止めない?」
「ダメです。
むしろ、お姉さんにはカリアさんの目的にも協力して貰います。
今決めました」
「ノアちゃ~ん、勘弁してよ~」
「アルカみたいな情けない声出さないでください。
明日まで時間を上げますから、心の準備をしっかりしておいて下さい。
ナノハ、悪いですがそのままお姉さんの中で逃さないように見張っておいてください」
『…………がってん』
「そんなぁ~」




