29-19.いつもの
今回もノアちゃん視点のお話です。
『ノアちゃん、今大丈夫?』
『はい、何か見つかりましたか?』
『ええ。
セルフィーさんはかつて冒険者だったの。
それも、Sランクよ。
おかげで足取りもある程度終えたわ。
とはいえ、最後の目撃情報でも十年以上は前の話だけど。
とりあえず、次はその目撃情報を追ってみようと思うのだけど、ノアちゃんはどうする?』
『そちらはお任せしても良いですか?
こちらは新しいダンジョンに来ています。
今回の件と関係は無いと思いますが、これはこれで対処が必要ですから』
『ハル絡みなの?』
『ええ、その可能性を懸念しています』
『ごめんなさい、本当なら私が行くべきなのだけど』
『いえ、気にしないで下さい。
ハルを産み出してくれた事には私も感謝しています』
『ノアちゃん……』
『それにそもそも、まだ決まったわけではありません。
もしかしたら、このダンジョンは例の首領が新たに産み出したのかもしれませんよ?』
『ふふ、そうね。
それなら全部一遍に片付くわね』
『はい、次は逃がしません』
『お願いね、ノアちゃん』
『はい、任せて下さい。
お姉さんもセルフィーさんの件、お願いします』
『うん、じゃあまた後で』
お姉さんからの念話が途絶える。
向こうは手がかりを見つけられたようで何よりだ。
それにしても、お姉さんはどんな手を使ったのだろう。
詳細は教えてくれなかったけれど、随分と前から仕込んであったようだ。
お姉さんも、六百年の間に様々な事があったのだろう。
いつかその間の出来事も詳しく聞かせてくれるのかな。
でも、秘密主義なのは経験や習慣だけでなく、性格とかポリシー由来な部分もありそうだから難しいかもしれない。
カリアさんとの企みにも協力してもらえないかな。
お姉さんが加わってくれれば心強い。
本部へのコネまであるのなら尚の事。
念の為慎重に考えてから相談する事にしよう。
お姉さんは秘密主義の癖に、失言癖もある。
意外と中身はアルカとそっくりだ。
アルカがシリアスモードのまま長い時間を過ごしたら、お姉さんのようになるのかもしれない。
けど、アルカには秘密主義なところなんてないかな。
たまに妙なことだけ口が硬い事もあるけど。
それにしても、このダンジョンは随分と変わった作りだ。
殆ど魔物は出現せず、ひたすら罠が設置されている。
なにより通路が狭い上に迷路のように入り組んでいて、一つ一つの部屋も小さい。
そのせいで、進みづらくてしかたがない。
その癖、外から見ただけでも山のように大きい。
ピラミットという奴だろうか。
山のような石積の四角錐だ。
しかも、地下にも広がっているらしい。
こんなもの攻略できる私達以外の冒険者など存在するのだろうか。
魔物も出ないという事は、食料の補給が出来ないという事でもある。
当然、草木の一本も生えてはいないし、水源があるようにも見えない。
ならば、大量の物資を運び込んで攻略して行くしか無いのだが、部屋も通路も狭く罠も多いので、大人数での攻略には適していない。
きっと荷物持ちなど連れて来る余裕は無いだろう。
当然、収納魔法や転移魔法なんて普通の人には使えない。
エルフにだって無理だ。
ルネルさんは特別だ。
真っ当な手段でやるとしたら莫大な期間と資金をかけて、少しずつ進めて行くしか無いだろう。
見た所、特殊な宝物の類も存在しないので、そこまでする者が出てくるかは疑問だけど。
流石に少し面倒になってきた。
罠の回避や謎解きの類も嫌いではないけど、こうまで何度も続くと、焦れったくなってくる。
いい加減、転移で無理やり先に進むべきかもしれない。
今はあまり時間もかけていられない。
仮にここに例の首領がいるのなら、私の侵入にも気付かれているかもしれない。
既に逃げられた後かもしれない。
折角の目新しいダンジョンだけど、これ以上は止めておこう。
夕飯の時間までには家に帰らなければいけないのだし。
『なら後は任せて、ノア』
『お願いします、ルチア』
『大丈夫?
私がやった方が良いんじゃない?』
『問題ありません。
万が一、転移先で罠を踏んだ所で、私に傷を負わせられるものでも無いでしょう』
『そこは万が一なんて無いって言って欲しいわ』
『信じてますよ、ルチア』
『もう、ノアったら』
ルチアが探知範囲を最大まで広げて、安全の確認できた一番遠い部屋に私達を転移させる。
何度もそれを繰り返していき、ようやく最下層に到達した。
案の定、そこには吸血鬼の少女が待ち構えていた。
いい加減、ワンパターン過ぎる。
どうせなら、もっと工夫を凝らして欲しい。
まあ、私達がその可能性が高いダンジョンを狙って潜っているせいもあるのだけど。
『どうします?』
『連れて帰らないの?』
『始末してしまいましょう。
今は共有も切っているのだし』
『悩ましいですね。
正直、今更一人二人増えてもとは思わなくもないですが、これ以上無闇矢鱈と増やしたくないのも事実です。
なにより、アルカにも多少の経緯を説明する必要が出てきます』
『結局、連れて帰りたいの?
それなら、そんなの調査の過程で知ったで良いじゃない。
何でもかんでもペラペラ喋る必要は無いわ』
『もちろんそれはわかっています。
そうではなく、レヴィとルビィの事を気にしています。
それにエリスの事だって、まだ放り出して良いような段階じゃありません。
今はあの三人の為に時間を割いて欲しいのです』
『ならやっぱり、始末したらいいじゃない。
所詮はダンジョンボスよ。
欲しいなら、ハルが生み出せば済む話よ。
こんなの全員回収していたらキリが無いわよ?』
『イロハにとっては他人でも、私にとっては妹よ。
もう少し言い方に気を使ってよ』
『ルチアは保護したいのですね?』
『うん。お願いよ、ノア』
『わかりました。
とりあえず、私と契約させれば良いのでしょうか?』
『……そうね、そうしましょう』
『嫌なら無理しなくてもいいのよ?
私がコアごと無力化して、アルカの下へ届けてあげるわ』
『出来るの?』
『当然よ。任せておきなさい』
イロハは変身を解くと、一人でダンジョンボスの下まで歩いていき、一瞬で少女を無力化した。
今のは何をしたのだろうか。
ハルもそうだったけど、只でさえ複雑な魔法を手足のように扱うので、すぐには解析しきれない事も多い。
そこに加え、今のは明らかにハル以上の発動速度だった。
イロハが近づくと、少女が勝手に倒れ込んだようにしか見えなかったくらいだ。
ただの一撃で、吸血鬼の少女を昏倒させてしまった。
倒れ込んだ少女を受け止めて抱え上げた後、そのまま奥に設置されたダンジョンコアを掴み、コアの掌握まであっという間に済ませたのだった。
「ダンジョン内に私達以外の人間がいるわね」
「外に出せますか?
このダンジョンは放っておけません。
また新たな吸血鬼を産み出すでしょうから」
「たった今、全員外に転移させたわ。
これでダンジョンを消しても問題ないわね。
私達も出ましょうか」
「ありがとうございます。
このまま一旦家に帰りましょう。
とりあえずその子は、ハルに預けます」
「そうね」




